僕、勇者。相棒はサキュバス
「それでお話を整理すると……」
「うん」
目の前に現れた露出の多い女性に僕はうんざり顔で言う。
「僕は実は勇者で魔王を倒さなきゃいけない」
「そうね」
「それを伝えに来た痴女は勇者の導き手であるということ?」
「痴女って……ただのサキュバスだけれど」
「痴女じゃねえか」
「酷い言いぐさね。ご先祖さまから続く高貴なる血をこうして侮辱されるなんて」
「うっ……そう言われると申し訳ない。失礼したよ」
「いいわ。子供の言葉に真剣に怒るくらい私は幼くないもの」
「……子供って。僕、これでも十八歳だけど?」
ムッとした僕の言葉にサキュバスは舐めるような視線を返す。
そのままジロジロと僕の体を見る。
主に一部分……。
「やっぱり子供じゃない」
「なっ! お前……!!」
掴みかかろうとするも避けられる。
本気で殴りかかった僕と何事もなく流す彼女。
この場ではどちらが子供かなんて一目瞭然だ。
「勇者様。私はこんな風にして遊ぶために来たんじゃないの。早いところ魔王を倒さないと多くの命が失われるわよ?」
「うるさいな。そもそもお前の言うことが真実かどうかなんて分からないじゃないか」
「そうね。だけど、私の言葉が真実であるなら、こうして遊んでいる一秒さえも勿体ない」
「嘘なら僕は無駄死にするだけだろ」
「そうね。あまりにも異性にモテなくて自殺するのとあんまり変わらないと思うけど」
耳が痛い話だ。
確かにその通りだ。
天井の柱から吊られているロープを一瞥する。
魔王に支配された時代にこんなしょうもない内容で自殺する人間なんてそうはいないだろう。
「どうせ死ぬなら私に従ってよ。もし真実ならあなたは英雄よ? 相手なんてとっかえひっかえに出来るくらいモテモテになるわ」
そして、こんな理由で魔王討伐を決意する勇者なんてそうはいないだろう。
いや。
叶うなら金輪際出てこないでほしい。
僕は舌打ちをして彼女に言う。
「分かったよ。お前に従う。だけど、一つだけ約束してほしいことがある」
「約束?」
「僕が魔王を倒したら、僕のお願いを何でも一つだけ叶えてほしい」
彼女は肩を竦める。
おそらく僕の表情を見てすぐに願い事を察したのだろう。
「へえ……別に今すぐ叶えてもいいのだけど?」
「いや、今はいい」
僕は顔を赤めて首を振る。
見透かされた願いってなんだかとっても恥ずかしいな……。
「ま。いいわ。それじゃ、よろしくね。勇者様」
***
なんて事があってから数ヵ月。
僕はあっさりと魔王を倒し、今、国のパレードの真っ最中だ。
清々しい陽光と歓声を浴びるようにしてゆっくりと進む馬車の中、彼女が僕に声をかける。
「似合っているじゃない」
「馬鹿言うなよ。馬子にも衣裳って奴だろ」
「そう? まんざらでもないように見えるけど」
隣に居る彼女の言葉に僕は言い返せない。
人前に出るのだからと半ば無理矢理着せられた服が落ち着かない。
こんなもの今まで着た事だってないのに。
それでも、悪い気はしない。
「お姫様、綺麗だったわね」
「そうだな」
何度かお会いしたことのあるお姫様も今日はいつもより綺麗だった。
纏っているドレスのせいだろうか?
お化粧のせいだろうか?
アクセサリーのせい?
「教えてあげようか?」
「心を読むなよ」
「あなたの心って読みやすいもの。出会った頃から」
舌打ちをして彼女を睨む。
相対した顔は実に穏やかな笑顔が浮かんでおり、僕はこの瞬間にあの日にした約束を思い出した。
きっと、彼女もだろう。
「女性を輝かせるのはね。表情なの。もちろん、お洋服もお化粧もアクセサリーも大事だけどね」
「あとは生まれもった顔だろ。まったく、美人ってのは本当にずるい」
「それは否定しないわ。だけど……」
僕の言葉に彼女は笑い、そっと両手の指を差しだして僕の頬を軽く引っ張る。
「こうして笑っていること。それこそが何よりも大切なの」
「嘘つき」
「何言ってるの? あなたの今の顔、とっても素敵よ?」
自然と浮かんでいた笑みに気づき、僕は慌てて彼女から離れる。
しかし、彼女の方からもう距離を詰めてきて――。
「私が保証してあげる。今、自信を持って笑うあなたの表情を見ればどんな男性だって恋をするわ」
「……嘘ばっかり」
「嘘なんてつかないわ。約束だもん。あなた、異性にモテモテになりたいんでしょ?」
「わざわざ言葉にしていなかった事を言うなよ! 恥ずかしいだろ!」
「そう? 可愛らしい願いじゃない」
彼女の言葉が僕の着ているドレスを彩るようだった。
まるで、仕上げをしているみたいに。
「あとはそうね。幻滅されないように言葉遣いを変えた方がいいかしら」
「どうすりゃいいのさ」
「そうね。まずは一人称から変えてみたら?」
「……私。これでいい?」
彼女は軽く肩を竦めた。
「前途多難ね」
「うるさい! 今までずっと僕って言って来たんだから難しいんだよ!」
「胸も小さいままだったし。少しくらいは成長するかなって思ったんだけど……流石に十八歳じゃもう無理だったわね」
「はぁあ!? 関係ある!? それ!?」
「笑顔と同じくらい胸も大切よ。男って馬鹿だし」
「っ!!!! 殴る!!!」
「とりあえず暴力的な娘はモテないわ」
「うるさい!!!」
御者はゆっくりと馬車を進める。
勇者とその相棒がただの姉妹にしか見えないほどに平和な時代を噛みしめながら。




