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流れ星パムの喫茶店

作者: かなちょろ

 星が煌めく夜空に一条の流れ星が地上目掛けて落ちて来ていた……。


「あー疲れた、疲れた、つかれたーー!」


 私は20半ばのOLをしている。

 5勤務の仕事も今日で最後。

 明日からは2連休のお休みだ……。

 業務も終わり、疲れ切った顔をしているおじさん達と一緒に電車に揺られ、暗い夜道を徒歩で帰る。

 明日から休みだと言うのに元気は無い……。


「明日からの2連休が終わればまた……」


 明日から休みだと言うのにすでに月曜日の事を考えて憂鬱になる。

 どうせ休みは溜まった洗濯をして部屋掃除をして寝て終わる。

 毎週そんなもんだ。


「嫌だ嫌だいやだーー!」


 たまにはパッとした華やかな生活をしたい!

 朝は白ご飯に目玉焼き、お味噌汁なんかもあるといいなぁ……、それで昼食は出かけた先でちょっとオシャレにパスタとかオムライスとかいいかも……、……ショッピングをして午後になればアフターヌーンティーなんか優雅に飲んで、夕食はレストランで豪華なメニュー……。


「はぁ〜、やめやめ、むなしくなるわ……」


 現実は脱ぎ散らかしてある服とゴミ袋に詰め込まれたコンビニ弁当の山。

 これが現実……、……いーやーだあああ!!

 明日こそはショッピングにレストランに行くんだ!

 シャワーを浴びて、髪を乾かして……う〜ん……片付けは明日早く起きてやればいいか……。

 ベッドにゴロンと入り込みアラームをかけて明日の予定を考える。


 まずは朝起きて、片付けと掃除して午後から昼食とショッピング、夜は……レストラン……で……醤油を……ムニャ……。


 ……、……ん……はっ!

 ガバッと布団から起き上がる。

 外は……まだ暗そう、ふぅ〜……時間は……。


「えっ!!?」


 携帯の時刻は17時を表示していた……。


「うそ……朝とか昼とかじゃ無くて……もう夕方……? はは……ははは……ははははははは……、……もう嫌だあああああーー!!」


 まだ……まだ明日がある……。 明日こそは絶対の絶対! 優雅な1日を過ごすんだ!

 涙目になりながら、部屋の惨状を見つめる。

 ……そう言えばお腹減ったな……。

 朝、昼何も食べてないし……もう夕飯の時間だもんね……。

 冷蔵庫を開けるも中にはほとんど何も入っていない。 あるのはお酒といつ買ったかわからないおつまみが入っていた。

 うん、見なかった事にしよう。

 今晩もコンビニでいいや……。


 準備を簡単に済ませてコンビニに向かう。

 いつもと変わらない道、でも今日は違う事があった。 それは星がよく見えた事だ……。 星は綺麗だけどそれだけだ……私のこの気持ちは変わらない。

 流れ星くらい流れて私の願いかなえろー!

 なんて言って流れ星が見える訳もない……。


 コンビニに着いたらとっくに飽きたお馴染みのお弁当を買って来た道を戻っていると、コンビニに来る時は無かったはずの……。


「なんだろう? お店? さっきは無かったよね? 私まだ寝ぼけてるのかしら?」


 道路のすみにトラックサイズの家のような物があるのだ。

 タイヤが付いているから移動販売のようなお店かしら?

 店内には明かりが灯っていてコーヒーの香ばしい香りが漂って来る。

 私は思わず扉を開けて中に入ってしまった。


「綺麗……」


 お店の天井は夜空のように暗くなっているが、星空が輝いている。

 席はカウンターが6席しかない。


「いらっしゃいませ、喫茶店パムへようこそ。 本日初めてのお客様ですからそちらの席へどうぞ」

「あ、はい……」


 初老の店員さんに案内された席は初老の店員さんの目の前。

 コーヒーを淹れる姿が見える場所。


「ご注文をどうぞ」

「え? え〜と……何があるんですか?」


 コーヒーについてはさっぱりわからない。


「そうですね……お客様にはこちらの流星ブレンドをおすすめします」

「ブレンドですか……、それじゃそれを……」

「かしこまりました」


 初老の店員さんは慣れている手つきで豆を挽きペーパーに入れてお湯をかける。

 豆を挽いた時からいい匂いがして来たけど、更に良い香りがして来た。

 このゆっくりとした時間とコーヒーの香りで気持ちが落ち着く……あれだけ寝たのに少し眠気も出て来る。


「お待たせいたしました」


 カップとソーサーも星空のようなオシャレな柄がついていて、スプーンの柄にも星が付いていた。

 淹れたてのコーヒーは夜空のようで、天井の星が写っている。


「いただきます……、……ふぅ〜……」


 一口飲んだ瞬間、フルーティーな香りが鼻から抜け全身の力が抜けて行くのが感じる。

 自分が気が付かないうちにコーヒーを飲み干していた。


「ごちそうさまでした。 とっても美味しかったです!」

「ありがとうございます」

「いつもここでお店をやっているんですか?」

「いえ、色々な所に行きますので決まってはおりません」

「そうなんですか……また寄りたかったな」

「そうはならないようにした方がいいですね」

「え!? それはどう言う意味ですか?」

「いえ、いえ、なんでもございません。 それでは良い1日を……ありがとうございました」

「あ、お会計を……」


 一瞬眩い光りで目を瞑って開いた時には移動の喫茶店は無くなっていた……。

 ん……? 夢? そうだ、早く帰らないと!


 自宅でコンビニ弁当を食べて明日の準備をしてベッドに入る。

 さっきの喫茶店の事を思い出しながら、本当にあった事かと考える。

 本当じゃなかったらかなり怖い体験なんだけど……でもお店が一瞬で消えることなんてありえないし……やっぱりホラーなの……?

 こわっ! 喫茶店の事を考えるのはやめて明日の事を考えよう。

 明日こそは早く起きて……、……どうせいつもと変わらず同じ事の繰り返しになるのかな?

 私はどうしてこうなっちゃったんだろう……。

 ここで喫茶店で飲んだコーヒーを思い出す。

 あのコーヒー美味しかったな……流星ブレンドか……。


「明日は良い1日になりますように……」


 流れ星にお願いするようにお願いをして眠りについた。


「……うそ……」


 今日はアラームが鳴るより早く起きられ、部屋の中を見ると、脱ぎ散らかしていた服は綺麗に畳まれていたり、ゴミ袋の山も無く、部屋も掃除した用に綺麗になっていた。


「これ……私がやったのかしら……?」


 全然記憶が無い……でもせっかく時間が出来たのだから出かける準備をしないと勿体無い。

 メイクをして髪を整えて服を選ぼうとすると、シワが全く無い一着の服が用意されていた。

 今日の私の気分にジャストな服……。

 その服に着替えてショッピングへ。


 私が考えていた通りの優雅な1日。

 晴れた日に私の晴れた心。

 日も暮れてレストランで夕飯を食べながら夜景を見ると、昨日の喫茶店の星空を思い出す。

 そして私は軽い足取りで自宅に戻り今日の優雅な楽しい1日を思い出し就寝した。


 ピピピピピピ……。


 アラームが鳴り響きスッキリとした感じで目覚める。

 昨日は楽しかったな……と思い出しながら部屋を見ると……。


「うそ……うそうそうそ!!」


 部屋には脱ぎ散らかした服、ゴミ袋が沢山あり、部屋の隅にはホコリも落ちている。


「え!? 今日、今日は……」


 曜日を確認すると日曜日。

 今日は休みの日だ。

 ……あの優雅な1日は夢だったの?

 私はうなだれてしまい、少しの間ベッドで部屋を見ながら座っていた。


「……あの優雅な1日……楽しかったな……、……そうよ! 今日1日はまだ始まったばかりじゃない! 部屋を片付けてからだって遅くは無いわ!」


 部屋の片付けが午後までかかったけど、出かける準備をする。 少しヨレた服を着て自宅を後にした。

 時間はすでにアフターヌーンティーを楽しむ時間。

 それでも私はきちっとアフターヌーンティーを楽しみ、ショッピングも夜のレストランも楽しんだ。

 自宅に帰りながら考える。

 今日は夢のようにはいかなかったけど充分に楽しめた。

 そうよ、私が諦めなければこんなにも楽しめるんだもの! 来週はもっともっともーっと楽しむために、頑張ろう!


 やる気になった私の頭上を、一条の流れ星が晴れた夜空を流れて行った。

 読んでいただきありがとうございます。

 少しでも面白かったなと思っていただけたら、ブクマ、★評価をいただければモチベが上がりますのでよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
OLの女性が訪れた喫茶店で、店主さんとコーヒーの香りが物語をゆっくり紡いでくれたように感じます 諦めなければ楽しい日を過ごせると、女性が思う場面には頷けるものがありました
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