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私は伊藤幸子。
アホの子扱いされることも多い、ごく普通の女子高生。
家族仲は良好で、出来の良いお兄ちゃんは私を猫可愛がりしてくれる。
お父さんは毎日私の大好きなクロワッサンを買って帰ってきてくれるし、お母さんは私が赤点を取ると頭にチョップを入れるが一緒に勉強してくれる。
絵に描いたような幸せな家庭。
「ああ、本当に幸せだったなぁ」
「幸子!」
「幸子、まだいかないで、幸子!」
「幸子…」
ある時、私は偶然にも家族で出掛けた先で…車に撥ねられた。
なんでだろうなぁ…運がなかった、としか言えない。
幸いだったのは、即死じゃないことか。
いや、痛いからそれはそれでなんだけど。
最期に、家族に言葉を遺さないと。
「お兄ちゃん、可愛がってくれてありがとう」
「…っ」
「お母さん、うんでくれてありがとう」
「幸子!」
「お父さん…育ててくれて、ありがとう」
できるだけ、痛みは隠してとびきりの笑顔で。
「私、幸せだった!」
そこで意識が、ぷつんと途切れた。