招かれざるセツナ
動物達に助けられた地点から南西の方へ進んだ先に
動物達が暮らす小さな村がある。
ここでは、魔女の呪いを受けぬ為。
あらゆる木々や植物を薙ぎ払い
石で建物や外壁を作っている。
この国唯一の植物が、存在しない村。
『人間だ・・・。』
『魔女の手先じゃないのか?』
『きっとそうだ』
ゴリラ達と村を歩くセツナを見て、
村の動物達が小声で話している。
セツナは良い気はしなかった。
「・・・。」
不安そうなセツナの表情を見てゴリラは、さり気なく声をかけた。
「・・・気にするな。」
「気にしない方が無理だよ・・・。こんなに視線感じる事なんてないし・・・それに何処に連れていかれるかもわかってないのに・・・。」
ゴリラは、はぁーっと大きなため息を吐き答えた。
「集会所だ。」
「集会所?」
「あぁ、まだお前が何者かわからないが、村長に会わせた方がお前にとっても、我々にとっても良いだろう。」
この村に入った時から見えていた大きな建物。
ゴリラ達についていくとそこへと辿り着いた。
真っ白い石を積み上げて出来た立派な集会所だ。
「失礼する!」とゴリラが先陣切って集会所の中へと入っていき
他の動物兵士2匹に続きセツナも集会所の中へ入っていく。
中には大きな丸いテーブルとそれを囲うように巨大な白色の熊と黒色の熊が2匹
こちらを睨んでいる。
そして真正面には座る人物は、ゴリラが言う村長とすぐにわかった。
しかしその男は、村長と呼ぶにはまだ若く。恐らく自分の一回り上位で
短髪頭に顎鬚を触って何か上の空な様子。
更には男が来ている甚兵衛が、どこか冴えない雰囲気を際立てている。
「村長。魔女の森近くに彷徨っていた人間を確保してきました!」
ゴリラがそう告げると、うむ。と男は頷き
「なるほど~・・・異界の者か。」と
目を細めこちらをじーっと観察している。
「君たち・・・。もういいぞ。下がれ。」
村長がそう告げるとゴリラは凪の剣をテーブルに置き
ゴリラ達兵士と2匹の熊は、集会所から出て行った。
村長がゴリラが家を出たのを見て、うむうむと頷きセツナに話を振った。
「安心しなさい。私も凪。そして君の事は、知っているよ」
突然の一言にセツナは驚き「えっ?」と声を上げた。
「そうか・・・まだ君は、記憶の断片に自信を持っていないのか。」
村長は、よっこらせと立ち上がりセツナの傍まで来てセツナを鋭い目つきで観察して、次に凪の剣に目線を映し、うーむと再び顎鬚を撫でてまた頷きながら呟いた。
「恐らく・・・。“黒魔道士の呪い”が、君の力の目覚めを妨げているのだろう」
――“黒魔道士の呪い?”
「恐らく凪の身に起きた事、そして君の魔法を使えない事・・・。調べなければな・・・。」
「そうだ・・・申し遅れた。吾輩の名は、リクべべ。」
「100年前、君達7人の子供達に、魔法界を託した賢者の一人だ。」
「100年前?」
思わず声が漏れた。何を言っているんだ。この人は。
セツナにとって村長が言った言葉は理解が出来なかった。
呆気にとられるセツナの表情を見て、リクベベは呆れた顔で答えた。
「なんだ・・・。君は凪からその件は、聞いてないのか?」
首を左右に振るセツナにリクベベはまたため息を吐いて答える。
「今、世界で起きている魔法による事件は、全て100年前から来ておる。記憶の断片の事は、凪から教わったのだろ?」
「記憶の断片は、何となく教えてもらったけど・・・100年前だとか、魔法界を託しただとか。いきなり言われても・・・」
ふーむと困った顔をするリクベベは、再び椅子に座り右手で頭を掻きながら答えた。
「まいったな~。折角魔女を倒す時が来たと思ったのに・・・。まさかの魔力なしか~・・・」
頭を悩ませるリクベベに、セツナは問いかけた。
「僕もいきなり色々言われて・・・凪の事も気になるし、今何が起きてるかもわかってないのに・・・100年前って言われても・・・。それに魔女を倒すって。」
「そういえばお前・・・魔女とは会ってないよな?」
その一言は、まるで別人が発したかの様に威圧的な声で
リクベベの表情も先程まで感じなかった殺気交じりの獲物を狙う猛獣のような目つきをしている。
「会ってないです。気づいたら植物の兵士に襲われていました。」
セツナがそう答えると、リクベベは、ふむふむと頷き椅子と共に1周回り始めた。
「魔女はどんな人なんですか・・・?」
次にセツナが問いかけるとリクベベは、天井を見上げ答えた。
「そやつも、君と同じ。100年前に最後まで生き残った7人の子供の一人だ。」