凪の決断
◆魔女狩り戦争が始まって1週間。
兵士として参加したとある男は、魔女狩りと言う刺激に捕らわれ
一刻も早く手柄を上げようと奮闘していた。
「どこにいやがる!魔女ども!!」
そんな男の姿を嘲笑う者もいれば
異様に思った周りの兵士達は、彼を孤立させた。
魔女狩り戦争に黒魔導士が参戦し
魔法使いを一掃し始めた頃、男は黒魔導士を嫉み始めた。
「俺は、あんな奴なんかいなくとも魔法使い共を一掃できるのに。こんなしょぼい武器ばかり使わせる国王が悪いんだ。俺はもっと出来る。俺にも魔法が使えれば、黒魔導士ごと一掃してやるのに。」
そんな男にチャンスは訪れた。
ある日仲間たちと逸れた彼は、魔法使いの子供達の群れと遭遇し
追い打ちをかけるもたった一人の子供に
圧倒的な力の差に敗れ
仲間たちにも見つけられる事もなく生涯を終えた。
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セツナと凪が住む家。
たった二人の家は、六畳のガレージに二段ベット(上が僕で、下が凪)と
金庫とテーブルと凪がもしもの時の為と置いている剣一本のみで
生活すると言うよりも休む場所のようなものだ。
二人はそれぞれのベッドに入り横たわっていた。
セツナが瞼を閉じようとすると凪が呟いた。
「…今日の収穫も少なかった。」
「そうだね…。」
「・・・。」
凪が深いため息をつき少しの沈黙の時間が過ぎた頃
突然凪が呟いた。
「セツナ。お前はいつか外の世界に出ろよ。」
突然の話題にセツナはえっ?っと声が零れた。
セツナにとって外の世界は未知の世界だ。
最近になって凪はセツナに外の世界の話をするようになった。
この故郷とは違い
水で覆われた国や空に浮かぶ国。木々達が踊る国。
本当に存在するのか、それとも空想の世界なのか。
セツナは外の世界に興味があった。
あの声の主ともしかしたら出逢えるかもしれない。
しかし何故凪は、お前はと言ったのか。
問いかけようとするも、下から寝息が聞こえる。
今日はもう遅い。また明日聞こう。
そう思いセツナは、瞼を閉じ外の世界を想像した。
何時間か過ぎた頃、何処からか悲鳴が聞こえた。
慌てて身体を起こすと凪も同様に目覚めベットから飛び出して
剣を手に凪は外の様子を確認している。
外は、既に明るく日差しが家に入り込んできている。
「様子を見てくるからセツナは待ってろ」
そう言って凪は、剣を持って家を飛び出していった。
そう言われるもあの悲鳴は只事ではなし
何故だか嫌な予感がした。
ベットから降りて凪を追いかけようとした瞬間、頭痛と眩暈がセツナを襲い、再び身に覚えのない記憶が頭を過ぎった。
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その記憶は、いつもの女の子が助けを求める場面ではなく。
恐らく自分と同い年位の青年と呼ぶには少し幼い少年が、
殺気立った表情で自分に向かってくる。
しかしその少年の顔に身に覚えがある。
良く知る人物ではあるが、何処か幼い。
凪の姿だ。
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頭痛が収まり目を覚めると
横たわっていた。恐らく体感3分程気絶していた。
ゆっくり身体を起こし凪が走っていった方へ向かう。
いつも皆が僕らを迎えてくれる街の広場。
そこから悲鳴が聞こえた。
ここからそんなに遠くない、走って5分程の距離だ。
全速力でその場へ向かい息を切らしながら
この胸騒ぎが現実にならぬ様にと願いながら走っていると
広場に人だかりが出来ている。
セツナはすぐにその現場の違和感に気づいた。
人混みを掻き分け呼吸が荒くなっていった。
人混みを抜け先頭に立った瞬間、自分の目に映る光景にゾッとした。
血だらけになって張り付けられているこの街の大工の親方。
その前に不気味に微笑む昨日揉め事を起こしたあの男が凪の剣を持っていて
足元に傷だらけになっている凪。
「凪!!!」
僕の呼びかけに凪は、今まで自分に見せた事のない鬼の形相で
「来るなっつっただろ!!」と怒号を上げた。
その声にビクッとなっている僕と凪を見て男は不敵に笑い呟いた。
「フッフフ。いいねぇ!!弱い奴が何も出来ず叫ぶ様わよォ!」
そう言って男は、凪の腹に一発蹴りを入れ凪は血反吐を吐いた。
「てめぇ等!!これからはこの俺様がこの街を粛正する!!逆らおうもんなら…」
そう言って男は、右手を前に差し出すと掌に
風が集まり始め野球玉のような形となり、それを大人達に放つと
大人達はドミノの様に一斉に倒れた。
倒れた大人達の中に昨日の老婆も紛れていて蹲っている。
「おぃおぃ。よく見たら昨日の婆さんも倒れ込んでるじゃねぇか!ガハハ!昨日はごめんな!!婆さん!!婆さんの言った通り魔法は最高だぜ!!」
流石に我慢の限界だった。
凪に傷をつけお世話になっている皆を馬鹿にしたような態度。
昨日凪に言われたけれど、ここまでされたらアイツを一発殴りたい。
拳を強く握り飛びかかろうと思った時だった
何処からか風が男の方へ向かって吹き始めた。
風を認識した瞬間だった。
自分がベットから落ちた様な衝撃音が聞こえたと思ったら
突風が男に向かって吹き荒れ男は吹き飛び凪の剣が宙を舞い
その剣を凪が右手でキャッチした。
剣を吹き飛んだ男に向け左手を剣に添え
凪の剣に風が集まる。
「悪いけど。これ以上俺の好きな故郷を荒らされて黙ってられる程我慢強くねぇんだわ。」
凪がそう言って剣を剣を左腰の位置に構え
何とか起き上がろうとする男に向かって強く振りかざした瞬間
先ほどよりも大きな稲妻が落ちた様な音と共に男は、街から吹き飛ばされた