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7/7

7th 月が貴女を誘うから

⚠️描写注意

抑えたつもりだけど……。

 その日は、もうとっくに蝉の亡骸に見飽きて、気にしなくなって、そして存在を忘れてしまう頃。

 一年で最も月が綺麗な日。

 大きな月が、闇を照らす夜のことだった。


 二学期が始まってしばらく経った。あっという間に九月になった。まだ若いつもりなんだけど、時間が流れるのが早い気がする。好きな春も、すぐに来るのかな。

「月、綺麗だねお姉ちゃん」

 そう、今日は中秋の名月!いわゆるお月見。私たちはベランダで、前に柏餅とか何とか色々買ったスーパーで買ってきたお餅を食べながら月を見ていた。今回のススキは多分大丈夫だよね。前の菖蒲みたいにはならないはず。

「本当に綺麗だね。普段よりちょっと大きいだけなのに」

「そうなんだ。でも……いっか」

 クワはじっと月を見つめたまま言った。

「ねぇお姉ちゃん。クー、お姉ちゃんと一緒にいきたい」

 まんまるの灰色の目に、大きな大きな黄色い月と、赤や青や白と、色とりどりの満天の星々が映っている。

「うーん……そうだねー。遠くない未来、気軽に行けるようになると思うけどね。案外来年だったりして」

「すぐだといいね。待ちくたびれちゃうよ」

 そう言ってクワは、最後のお餅を頬張った。

 ススキが夜風に揺らいだ。乾いた音がした。


「おやすみ」

 ……さてと。

「私はもう少し、やることがあるからね」

 そう言って一華は布団からゆっくりと出た。そして寝室の窓から隣のマンションを見た。ただ一つだけ、明かりがついている部屋があった。

「……自分から来てくれるとは思ってなかった。あの日、唯一救えなかった可哀想な子」

 クワの寝息は聞こえない。暗い廊下を歩く一華の足音だけ

 クローゼットから白い上着を取り出して羽織る。

「ごめんね。あの時、まさか娘さんがいるだなんて知らなかったから、てっきり夫婦二人だけか〜とっ」

 柔らかい笑みを浮かべて、一華はタンスの奥から大きなカバンを取り出した。

「今日は近いから良いなぁ〜、楽だからー♪」

 なにか適当な鼻歌を歌い、軽いステップで家を出る。長い黒髪が夜風に揺れる。なんの音もしない。

ピンポーン

「お待たせー。真夜中にごめんね〜?入れさせてくれないかなー」

 一華の家の、すぐ近くのマンション。一華はさっきからずっとドアの小さな窓に向かって微笑みかけ続けている。インターホンのボタンに突き立てられた指の動きは、どんどん早くなっていく。

ピンポーン

ピンポーン……。

ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン


ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン……。

「……しょうがないかぁ、入るね」

 ガチャ

 一華が鍵穴にゴソゴソとなにかをして、小さく頷くと勢いよくドアを開けた。と、その時。宙を何かが素早く過ぎ去った。月の明かりが銀色にそれを煌めかせた。

「……危ないじゃん」

 間一髪のところで避けた一華はそれを横目に話しかける。勢いよく振るわれた刃はドアに刺さって抜けない。

「殺す、殺す、殺すっ!!」

「ころ……?え、大丈夫?」

 その部屋の住人はポッケからもうひとつのナイフを取り出し、がむしゃらに振り回した。勢いよく、何度も何度も振り払うみたいに、水滴を飛ばしながら。刃が掠った服や髪がスパスパ切れて落ちていく。

「泣いてるの?」

「はぁっ、はぁっ……当たり前だろ!お前は、私がずっと殺したかった人間なんだ!二年前!私の両親をお前が殺した日からずっと、ずっと!!」

 刃が一華の腕を掠めた。赤くなっていく腕をぎゅっと押さえる。

「痛っ……!人聞きが悪いよ?だって私は」

「本気で救ったと思っているのか?」

「そう決まってるじゃん、何言ってるの?今日だって、私はあなたのために来てあげたのに」

 ナイフの刃先がまっすぐに一華を捉える。

(腕からの出血が酷い。早く終わらせないと。でも……カバンで身を守る?それから……)

「紅一華。死んでくれ」

 一華がカバンに手を伸ばした、その時だった。

「お姉ちゃん」

「クーちゃん!?」

「は……っ!?」

 いつの間にか一華の隣に、クワが立っていた。

「どうしてここに!?ちゃんと寝てないと」

「お、お前……」

 ナイフが、少しだけ、下がった。柄を持つ力が、確かに緩んだ。

「うっ」

カラン

 一瞬の隙。先に刺したのは一華だった。

「危なかった。見て、月が綺麗だよ。良い最期だね」

「どうして!どうして、うっ……こんなことぉ……!!」

 一華はその人の腹部から綺麗な装飾の小さな刃物を抜き取ると、サッと振ってケースにしまった。

「一華……はぁ、はぁ……お前には、何が見えているんだ」

 月を厚い黒い雲が覆った。

 暗闇の中で、何にも照らされることなく、その人は一華に語りかける。

「頑張らなくていいのに。すぐに楽になっちゃえ」

「何が……見えているんだ!」

「どういう意味?もしかしてクーちゃんのこと?この子は私が救った子だよ。私が……好きな人だよ」

 一華は頬を淡く染めてそう言った。手にはまだ、あの凶器の入ったケースが握られている。その異様な光景に、刺された住人は震えるしかなかった。調べていて吐き気がするような女だったが、まさかこれほどの者だったとは。本当に、ここで仇を打てなかったことが悔しくてたまらない。本当に、何を言っているのかまるで理解できない。だって。

「お前の言うその思いも、救いも……すべて偽物だ……!」

「は?」

「人を殺しすぎて……はぁっはぁっ、気でも狂ったか!は、は……!」

 弱ったその人を一華が再び突き刺すまで、時間は必要なかった。廊下に赤くなったケースが投げつけられていた。

「私は間違ってないよ?」

 深い、深い傷を必死で押さえ、よろけながらその人は家に逃げ帰る。ドアが締められると同時に、そのドアの奥で重たいものが倒れるような、ドサッという音が聞こえた。それで、終わりだった。

「どうして……か。私はただ、救いたいだけ。月が貴女を誘うから」

 一華はゆっくりとドアを開け、それを見下ろす。そして体から刃物を抜き取ると、慣れた手つきで片付けはじめた。力を入れて何度も何度も何度も何度も何度も刃を振るう。

 しばらくしてそれらをカバンに詰め込むと、一華は赤い手でクワの手を引いてマンションの廊下をゆっくりと歩いていった。静かに足音が響いた。住人の居た部屋から、その住人の身体はなくなっていた。

「……ね、さゆ」


「……おはよう」

 今日も何気ない、普通の一日がはじまる。夢の内容はもう忘れた。普段通り支度して、学校に行く。


 でも、さゆの机には、誰が置いたのか……。


 黒百合の花が一輪だけ置いてあった。

こんにちは!はとです!

ごめん、だーいぶ期間空いたw

いや、言い訳させて!これあの〜、一回千文字くらい書いてたヤツを全部消して一から書き始めたの!気に入らなくって。

後半はやっぱり手が止まらなかったね。えー、現在七話目です。全二十話想定の。楽しくなってきたー!

最後まで読んでいただきありがとうございました!

意見・感想・考察その他色々お待ちしております!

それではまた!( *¯ ꒳¯*)ノばいばーい♪

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