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開店準備

 翌日、俺はルミナを連れながら、コンビニを出店する場所を決めるべく、世界樹周辺の地域を巡った。


「あ奴らめ、童たちから奪った土地を、さっそく荒らしておる……!」


 俺が向かったのは、ルミナたちが侵攻を受け、人間たちに奪われた土地の近くだ。せっせと汗水流して仕事に勤しむ人間たちの姿を、遠くから見つからないように観察する。

 木々や草木を除去し、土地を整備する人間たちの姿が見える。農地か何かに開拓するらしい。


 髪色は黒や茶髪、ベージュ色と様々で、西洋人と日本人を足して割ったような顔つきをしている。

 開墾用の道具は鉄製。腰に下げている水筒は、動物の皮で作られたものが主で、鉄製のものを提げている奴らもいる。

 服は長い丈の服を、ベルトで絞めたようなシンプルなもの。生地は質の悪いウールか何かだろうか? 染色技術は発展していないのか、灰色に近い白、茶色の服が多い。


 開墾地の奥に見えるのは、簡易的なテントや宿舎。こっちでいう仮設住宅みたいなものだろう。開拓者たちの寝泊りの場所か。



「ざっくり1000人ぐらいってとこか。戦争までしてこの土地が欲しかったのか?」

「基本的に各国へ続く主要道路は、神樹精(ドリアード)の土地を迂回するに用意された馬車道しかないからの」

「ここが開通すれば大幅に貿易が楽になるわけね」

「加え、世界樹様が発する聖なる光が、夜でも道を照らしてくれる。世界樹様の光は森に住まう魔物たちへの魔よけにもなる」

「……今魔物って言ったか? スライムとかそういうの?」

「おお、よく知っておるの」


 おいおい。ちゃんとゲームで見るようなモンスターも存在しているのかよ。

 戦闘系の異能がない以上、出店場所間違えると普通に死ねそうじゃねえか。


 ある程度俺は周辺の調査をし、今度は馬車道周辺の交通量や土地を調べた。


 調べている途中、ルミナを物陰に隠れさせ、俺は土地を散策しながら行き交う異世界人と声を交わす。


「珍しい服装ですね。どこからいらしたのですが?」

「とても上質な生地の服ですね。失礼ですが、どこかの商会の方でしょうか?」


 俺のスーツ姿が珍しいのか、結構向こうから声をかけてくることも多い。

 ルミナ曰く、俺が異世界人ということはまだ隠せとのことなので、辺境の土地の商人ということでごまかした。

 とにもかくにも情報収集。

 俺は馬車を引いている商人グループに、返しの質問を投げる。


「このあたりに店を出したいと思っていましてね。周辺の調査に来たのです」

「この周辺にですか? 確かに出せば使う方々は多そうですが、町との距離があるので、仕入れが難しいのでは?」

「そこは私の商会独自のルートがありまして。仕入れに関しては何とかなりそうなんです」

「それはそれは。馬車を使っても、最短で5日かかりますからね。そんな便利なルートがあるなら一枚かませてもらいたいものです」


 この先は深堀されたくないな。

 景気よく笑ってごまかしてから、俺は話を変えた。

 俺は田舎者のふりをして浅学を装いながら(実際この世界に関しては浅学だ)質問を投げた。


「この辺りは【神樹精(ドリアード)】の治める地域だと聞きましたが、土地の所有権などはどうなっているのでしょうか? 店を出す場合彼らに交渉などは必要ですか?」

「ああ、そのあたりは心配なさらずに」


 人間たちが悪びれもなく手を振る。


「あなたも聞いているでしょう。長年世界樹の管理者であることを建前に、豊饒な土地の

 恵みを独占していた神樹精(ドリアード)たちを、追い払うことに成功したのです。国にさえ申請をすれば、店舗の立ち上げなどは自由にできるかと」

「ああ、そうなんですね。ほっとしました」


 なんて口では言うものの、これルミナが聞いたら相当切れ散らかすだろうな。

 人間の中では神樹精(ドリアード)は悪者に近い。特別振興が薄いとは聞いていたが、ここまで仲が悪いとは思わなかった。


 それ以降も俺は周辺の調査を進めていった。

 聞いたのは開拓者や行商人の平均的な収入、この世界の物品の相場。それぞれの国の文化など、とにかく知らないことを思いつく限り聞きまくる。(俺が異世界人だと怪しまれない程度にだ)


 そして、ありとあらゆる異世界人に話を聞きまくった結果、


「出店場所はここがベストだな」


 大きく開けた場所がある、開拓地の土地南寄りにある馬車道の脇。

 見込める客層は近くの開拓地で働く人間たち約1000人と、他国へつながる馬車道を利用する商人150名ほど。割合で言えば人間:そのほかの種族で9:1ぐらいか。珍しい素材や原料を他国への輸入に依存している関係上、人間の交通量が増えるのも当然だろう。


 開拓地から離れすぎてはいないとはいえ、少し歩く距離のため、馬車や荷車を停めるスペースは必要だ。止めるスペースがあれば、開拓者の誰かが代表してまとめ買いを行いやすいし、行き交う商人たちも利用しやすいだろう。異世界だろうが駐車場は広いに越したことはない。


  あちらこちらに、というわけではないが、魔物が存在する世界の為、魔よけの加護のある世界樹付近に店を構えるのはマストだ。


 今の立地に決まったのはそういう経緯があってのこと。


 そしてルミナ、というか神樹精(ドリアード)に断りを入れておかないといけないことが一つ。


「金を稼がなければならない以上、俺は人間たちをメインに商売をしなきゃならないが、いいか?」


 ルミナに尋ねると、ルミナは複雑そうに顔をしかめたが、ひとまずの生計を立てなければならない以上、人間相手に商売をし、金を稼ぐことは必要だ。

 神樹精(ドリアード)再興のためなら、と長い葛藤の後、解せないといったように了承を得た。


 店舗自体は出し入れが自由のため、俺は狙いの土地にすぐさま店舗を移動させた。移店料がかからないのはありがたい。(つーか、料金とられたら終わる)


「さて、あとは品ぞろえだな」


 仕入れ可能な商品は、中食や飲料だけでなく日用品や雑誌類、嗜好品など多岐にわたる。1店舗あたりで取り扱う商品は、俺の世界でも3000は余裕で超える。過去の限定商品や店舗独自の商品も発注可能なため、選択肢は10万以上。

 多いに越したことはないが、何でもかんでも仕入れても、ごちゃごちゃと見にくいだけで利用しやすい売り場にはならない。


「ここは腕の見せどころだな」


 行商人たちに必要なのは、まずは食料や水だろう。食事の風景を見てみたが、主な食器は木でできたフォークやスプーンだった。仕入れる食糧はワンハンドで食べられるサンドイッチやおむすび、フォークやスプーンで食べられるパスタやオムライスといった弁当に絞る。人間たちは昼食にパンを食べていたから、入口正面から見える棚は、おむすびじゃなくてサンドイッチやバラエティーロールがベストか。


 電気などを使用している様子はなく、さらに言えば文字なども通じないため、電材や雑誌類は思い切ってカット。風呂も水をしみこませた布で体を拭くぐらいらしいので、シャンプーとかの棚も縮小していいだろう。

 その代わりに確実に売れそうな菓子類や飲料に棚を割く。食への関心はこっちの世界でも同じらしいからな。

 軽い着心地の衣料品は異世界人にも受けがいいかもしれない。客単価が上がりやすく、異界の服を見て興味を示す奴らも多かったため、ここも力を入れてもいいだろう。


 神樹精(ドリアード)は人間と仲が悪く、人間相手に商売するならばシフトには組み込めない。基本的には俺一人で店を回す殺人シフトになる。コンビニとしてはあまりしたくはないが、昼から夕方の時間にオープンを限定することにした。


 コピー機やATMの機材を裏に引っ込め、棚を整理し、フライヤーやおでん什器等のメンテナンスをして開店準備を完了させた。


 そして、オープン当日の昼。


「さあて、稼いでやろうじゃねえか」


 開店前に道行く商人や開拓者たちに、今日がオープンであることは伝えてある。

 店舗の外に群がる異世界人たちを見て深呼吸してから、俺は自動ドアのスイッチをオンにした。


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