国家間会議①
「全員揃った、つーことで、今回の会議は俺が取り仕切らせてもらおうか」
重苦しい空気の中、切り出したのはドミニクだ。
体裁としてはドミニクが皆に声をかけた形の為、ドミニクが始めるのは自然だが、役をちゃんと全うしてくれるのは本当にありがたい。
「まずはセレスティアの侵攻における対応についてだな。人間とは仲良くさせてもらってるが、今回の軍事侵攻はドラガリアの王として、可能な限り最も強い言葉で非難する。そして、侵攻で得た不当な領土については神樹精側へ返還を要求。更なる侵略行為を起こした場合、わが国で採れる鉱物を代表するあらゆる資源を中心とした物資の輸出、及び国家間の交流は打ち切らせてもらう」
ドミニクにしては淡々と、落ち着いた声で言い切ると、リガル王の眉間のしわが一段と深くなった。対面で話を聞いていたフリューゲル王も感心したような驚いたような声を漏らす。
そこまで強く牽制してくれるとは聞かされてはいなかった。俺もルミナも驚きのあまり目を丸くした。嬉しさもあるが、そこまで言い切っていいものかという心配も混じる。
その心配通り、どうやら怒りを買ったみたいで、リガル王が少し声を低くしながら返した。
「ずいぶんと神樹精側に寄るではないか。神樹精とは比にならぬほど、親密な間柄を築いていたと思っていたのだが」
「俺もそう思ってるし、今後ともそうでありたいとも思ってる。だが、仲が良いからこそ、ダメなもんにはダメと言えなきゃいけないでしょう。行き過ぎた行いに待ったをかけるのが、友好国としての責務であると思ったもんでね」
表情は笑ったままだが、リガル王を牽制するような芯の通った声色でドミニクは返す。
「とはいえど」と、空気を切り替えるようにわざとらしく口調を軽くしてからドミニクはつづけた。
「人間が土地の荒廃で苦しむ中、管理という名目で神樹精が豊饒な土地を独占していたのも事実。うちの国だってもうちょっと世界樹様の恩恵にあやかりたいと思ってたところだ。フリューゲル王もそうだろう?」
「む?」
突然話を振られ、少し驚きながらもドミニクの問いに答える。
「まあ、此度の侵攻は有翼族としても遺憾の意を示すところではあるが、ドミニク王の言うこともわからなくはないのう」
ホホホ。と緊迫していた空気をほだすように笑いながら、フリューゲル王は柔らかそうなあごひげを撫でた
管理という名目で~というのは、土地を管理しマナの均衡を保っていたルミナとしては引っかかるところだったのか、少し表情が険しくなったが、そこは人間側に取り計らった形だろう。
この辺の交渉のバランスはドミニクに完全に一任だ。
そこはルミナも理解しているため、気持ちを落ち着かせるために咳払いをしてから、平静を取り繕いながら話し始めた。
「多くの同胞に被害が出た以上、貴殿の行いを許すわけにはいかないが、土地の荒廃による作物不良で、人間が負のマナを生み出しているのも事実。負のマナを生む連鎖を断ち切るために、我らが管理していた土地を条件付きで各国に貸し出してやっても良い」
ルミナがそう告げると、フリューゲル王は「ほう!」と感嘆の声を漏らす。
「世界樹周辺の土地はとりわけマナが芳醇じゃからのう。畑を作れば品質の良い作物が育つじゃろうなあ」
とりあえず、有翼族側の反応は好印象だ。
一方でリガル王はルミナの提案を聞いて、あざけるように鼻で笑った。
「誰のものでもない土地を勝手に占領しているのは神樹精だろう。それに我らの非を前提にことを勧めてはいるが、各国の了承を得ずに救世の儀を行った神樹精側の非は誰も問いただしはしないのか?」
「その件については、俺もきつく叱ってるよ。今回両者の中を取り持つよう動いているのも、そこの救世主様の恩恵を、各国公平に分け合うことを約束させた上での話だ。なあ? 救世主様」
「……ああ」
ドミニクに振られ、俺は慎重に言葉を選びながら答えた。
「正直、急にこの世界に召喚されて私も困惑しています。私の目的は早く世界を平和にして元の世界に生還することなんで。神樹精とか人間とか関係なく、自分の目的のために世界に尽くすつもりです」
あくまで俺は中立側。というのを念押しする。
俺の回答にリガル王は「ふん」と息を鳴らして、何も言わなかった。
何かまずったか。と心配する俺に、ドミニクがリガル王に見えないように、椅子の下で親指を立ててくれた。どうやら大丈夫だったらしい。
「今開拓中の土地は明け渡さんぞ」
「急にどけってのも開拓地の民からしちゃあ酷でしょうな。神樹精の姫も、遺憾だろうが、俺の権限でそこは了承してもらおう」
「……今はそなたらに預けてやる」
ここは会議前にルミナに(しぶしぶ)了承を得ている。いずれは取り返すつもりではあるだろうが。
「して、土地を貸し出す条件とは何かの?」
「おう。それじゃあ神樹精の姫様に説明を頼もうか」
「うむ。土地を貸し出すための条件についてじゃが——」
ようやく本題にこぎつけて、ルミナが事前に打ち合わせていた条件を説明するために前に出て、用意していた大きめの地図を広げた。
そして、その内容について、一つ一つ詳細に説明していった。




