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計画の理由

 

「私たちは反対です! よりにもよって……人間と一緒に仕事をするなんて!」

「私たちがこうなった原因を忘れたんですか?!」


 俺の提案に、神樹精(ドリアード)たちから次々と反対の声が上がる。

 予想していたことではあるが、ダイレクトに怒りの感情をぶつけられると、なかなかつらいものがあるな。


「……一先ず、理由を聞かせてもらおうか」


 皆の怒号を制しながら、ウィズが周囲を落ち着かせるような、おとなしい声で尋ねてきた。

 ウィズ自身の表情もどこか険しいままだ。


鋼竜族(ドラゴニュート)と同盟を持ち掛ける前に俺が言ったこと覚えているか? 『世界樹を管理する立場である以上、誰にとっても開かれた商売をする必要がある』って」

「……ああ、言ってたね」

鋼竜族(ドラゴニュート)神樹精(ドリアード)の国土を保証してくれる今だからこそ、逆に他の種族にも窓口を広げてやる必要があるんだよ。そうしなきゃ他の種族からは、鋼竜族(ドラゴニュート)が保護を盾に、神樹精(ドリアード)の豊かな土地の恵みを独占しようとしているようにもとられちまうからな。お前ら、保護してもらっておいて、自分の都合だけで鋼竜族(ドラゴニュート)たちに悪評を背負わせるつもりじゃないだろうな?」

「「「う……」」」


 ドミニク王も俺と出会ったときに、俺の身柄を自分で預かろうとしていたが、俺の異能で得る恵みに関しては「皆でわけあうさ」と他の種族への配慮を見せていた(自分がちょっと多く貰うとは言ってはいたが)。

 鋼竜族(ドラゴニュート)は他の種族の国とも、貴重な鉱石資源や鍛冶を通しての国交がある。保護に甘えて他種族と国交擁立を後回しにすれば、鋼竜族(ドラゴニュート)へ悪評が付くのは避けられないだろう。

 だから、『今』。他の種族に対しても積極的に関わっていかなければならない。これはアクションが遅れれば遅れるほど鋼竜族(ドラゴニュート)神樹精(ドリアード)双方の印象が悪くなる。


「人間みたいにむやみやたらに森や草原を切り開けば、土地が荒れ負のマナが生まれるぞ?」

「ああ。だから、開拓地は神樹精(ドリアード)側が全部指定する」


 ルミナの指摘に、俺は予め用意していた地図を取り出して広げた。


「今通っている馬車道の周辺に、畑や街を作る。今まで使っていた馬車道がさらに使いやすくなるんだ。これは周辺諸国にとって大きなメリットだ。その開発の為に人間や他の種族を雇う」

「そんな大勢の労働力を雇うお金など、今の童たちにはないぞ?」

「そこは鋼竜族(ドラゴニュート)から借金だ。返済は、開発した畑や街の土地を、条件付きかつ有償で他の種族に貸し出し、得た利益で行う」

「条件というのは?」

「負のマナを生み出す行為の抑制だ。主なものは、指定した地域以外の開発禁止や、自然保護。あとは~~~~とか色々。たたき台は作ったから細かいところはルミナたちで調整してくれ。これを守れないやつには今後の貸出禁止と罰金な」

「馬車道の利用者は多いから、利用者にとって大きなビジネスになるね」

「同時に、不必要な開拓を防ぐためのアクションにもつながる」


 俺のやりたいことを理解したウィズが話に乗ってきたところに一言添えて、メリットを印象付ける。

 そう、これは他の種族に対して国交を広げると同時に、貸し出しに縛りを設けて、動きはこちら側である程度コントロールしようという防衛策でもある。


 俺の狙いが皆に伝わったのか、当初の怒りも、少しずつ静まり、皆冷静になって俺の提案した内容について考え始めた。


「人間を雇うなんて大丈夫なの……? また襲われるんじゃ……」

「しばらくはドミニク王に滞在してもらう。

「そもそも、私たちはともかく、人間側に神樹精(ドリアード)と仕事する奴なんているの?」

「そこは心配しなくてもいい」


 確かに、いくら豊かな土地を貸し出そうとも、侵略した敵種族と一緒に仕事をしてくれ、なんて条件を出したら、人員なんてそう集まらないだろう。


 だが、それに関しては対策を考えてある。


「気持ちはわかるが、人間に対して大胆なアプローチをとるなら、今しかないんだよ。感情論だけでこれを拒否するなら、俺はマナがたまり次第とっとと元の世界に帰る」


 そう俺が付きつけると、神樹精(ドリアード)たちは苦虫を嚙み潰したような顔になってから、重くなった首を仕方なく縦に振った。

 正直、俺自身を盾に言質を得るのは、俺だって心苦しいが、ドミニク王が作ってくれる機会を無下にするほうが問題だ。


「各国に施策について説明する機会は俺が儲けよう。それまでに嬢ちゃんたちは開拓地の選定や、細かな条件の調整だ。救世主の存在と共に、国家間会議で他国に伝える」

「期限は?」

「今回もナルハヤってやつだな。可能であれば3週間」

「3週間で開拓地の選定までできるか?」

「それに関しては僕がいるから問題ない。伊達に外を一人で歩いていないからね」


 ウィズが大丈夫というからには大丈夫だろう。あとはルミナが方針を決定づけるだけ。

 俺がルミナに目線を配ると、ルミナは深く考え込んでから、「仕方ない」と思い息を吐いた。


「その方向で動くことにする。3週間後で土地の選定と条件まで決めるぞ」

「「「「はい」」」」


 いつもならこういう時、全員元気に返事をするもんだが、どうも今日は煮え切らない様子だ。

 まあ、こいつらの背景を考えれば当然だ。申し訳なさもあるが、成果で答えていくしかないだろう。


「土地の選定は皆に任せて、ヨスガ。俺たちは嬢ちゃんと一緒に細かな条件の設定だ」

「ああ。わかった」

「皆のもの。選定については任せたぞ」


 ルミナ、ドミニクと一緒に事務所に入りながら、ウィズを先頭に拠点へ戻っていく皆を見送った。

 事務所に入る時に見たルミナの顔が、暗く沈んでいたのを見て、


「……ごめん。後出しになって」

「気にするな。童の立場を思ってのことじゃろう」


 思わず誤ったが、ルミナはすぐさま笑みを作り、俺に気を使わせまいと取り繕った。

 ルミナも王になったばかりだ。ドミニクとの事前の打ち合わせに、ルミナを招くこともできたが、そうなれば皆に発表するときには『予めルミナに同意を得たものとして』施策を発表しなければならない。


 どれだけ俺がやろうとしていることが正しかろうが、感情論で言えば、それを拒否する神樹精(ドリアード)たちの気持ちは当然のものだ。ルミナには皆の気持ちに共感するという義務が付きまとう。


 あの場でルミナが俺の決めたことに怒らずに、「仕方がない」と皆をなだめていたら、崩れていた信頼もあっただろう。

 俺がそう判断し、ルミナには皆と一緒のタイミングで説明したが、逆を言えば突然突拍子もないことを言われ、動揺させてしまう部分もある。


 その部分を察して、すぐさま気丈にふるまうガキを見て、俺は頭が上がらない気持ちになってしまった。


(畜生、ぜってー成功させてやる)


 ここが正念場であることは違いない。 

 謝罪合戦になる前に、俺は襟を整えて気を引き締めてから、ドミニクたちと細かな条件の調整に議論を費やした。


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