竜の国
「おいしい商談を持ってきたって聞いたが、本当か?」
早朝、コンビニ店舗の前にやってきたドミニクの問いに、俺とルミナは得意げな顔で頷いた。その様子をみて、「ハッタリじゃあなさそうだ」とドミニクも頭をかく。
「お主に紹介したいのは、童たちの開発した新商品……、タンサン飲料というものなのじゃ!」
「タンサン……?」
ドミニクが難しい顔をしたところで、ウィズが作った炭酸飲料が入った瓶を取り出し、木の栓を抜いて、用意してあった紙コップに注ぐ。
「ああ。あの発泡性のある水のことか」
「試飲してみてくれ。俺の世界で言う、レモネードという飲み物だ」
ライムやレモンの果汁をベースに、いくつかの果汁や、蜂蜜などの糖分を加えて炭酸水で割ったもの。
注いだ瞬間に気泡が立ち、シュワシュワと子気味のいい音がする。
蜂蜜や果汁の色がついているため、若干黄色い飲料を一気に飲み干すと、プハッと軽快な息を吐いてから、「やるじゃねえか」と俺たちに向き直る。
「作り方は?」
「あんたの国から採れる、とある鉱物を、特定の果汁に溶かすと炭酸ができる。それ以上は同盟を組んでからだ。組んでくれるなら、この新しい飲料のビジネスに噛ませてやらんこともない」
「ククク……確かに、この飲料が販売できれば、大きなビジネスになるだろうよ。……販売できれば、だが」
詰めが甘い、と言いたげにドミニクが喉を鳴らしながら続ける。
「レモネード、とやらは確かに美味いが、大きなビジネスにするには保存手段が必要だ。タンサンだけなら、うちにも採れる場所があるが、外に向けて売れねえのは、輸送するための保存法ができていないからさ。地域を限定して小さく儲けようって話なら、同盟の交換材料には釣り合わないな」
「当然、それについての回答も用意してある」
「何?」
俺の返答に、意外そうにドミニクが眉をひそめた。
「ドミニク。あんたの国では鍛冶が盛んにおこなわれているらしいじゃないか。ガラス瓶なんかの加工は可能か?」
「ん? ああ。うちには優秀な職人たちが沢山いるからな」
「なら大丈夫だ。炭酸の長期保管を可能にする。魔法の容器の製法を教えてやる。同盟はビジネスに加え。その製法との交換条件ならどうだ?」
俺の提案にドミニクはしばらく考え込んだ後、「いいだろう」と頷いた。
「その条件を飲んでやる。だが、本当に容器ができたらの話だ」
「ヨスガ君。やけに自信満々だけど、勝算はあるのかい?」
「ああ」
ルミナとウィズが、少し不安そうに俺を見つめてくるが、何も心配はない。
炭酸飲料の保存法。その答えは俺の世界で夏の風物詩とされるあの飲み物だ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
炭酸を保存するための容器を開発するために、俺たちはドミニクに連れられて、ドラガリアに向かった。
ドミニクが竜の姿に変身し、そのルミナとウィズがその大きな背に飛び乗った。
俺が昇るのに苦戦していると、見かねたドミニクが尻尾で俺を背に運び、背に生えた牙のような突起につかまらせる。
「ヨスガ、こっちに寄れ。皆の体に加護をかける」
ようやく背に乗った俺の体に、ルミナが杖を振りかざすと、薄い光の衣が俺の体にまとわりついた。
「空の旅になるからね。上空の寒さや衝撃から、ルミナ様の加護が守ってくれるよ」
「飛ばしていくぜ。舌噛むんじゃねえぞ?」
軽い忠告の後、勢いよく空へ飛び立ち、見る見るうちに先ほどまでいた地上が遠くなった。
「んぎぎぎぎぎぎぎ……!」
「ルミナ様。ヨスガ君の顔が面白いことになっているよ」
「ハハハ! ほんとじゃ! 傑作じゃのう」
のんきに横で二人が笑うが、それに突っ込む余裕は今の俺にはない。
お前らファンタジー世界の住人は慣れているかもしれないが、俺からすれば裸で飛行機にしがみついているようなものなんだよ。
地獄のフライトを1時間ばかり続けたところで、遠目で見ることしかなかった火山地帯にドミニクが着陸し、変身を解いた。
「何度か来たことがあるけど、ここは相変わらず熱いねえ」
「熱いなんてもんじゃねえ……! 地獄だここは……!」
着いたのはごつごつとした岩肌が目立つ岩場のような場所。運河の代わりに溶岩が流れる火山地帯では、息を吸うだけで、熱い空気が肺の中に入り込んでむせ返りそうになる。
「普通の人間だとここまで奥には来れんからな。人間の行商人も、国境付近で取引をすればすぐに帰っちまうんだ」
そりゃそうだろうと俺が心の中で相槌を打っていると、岩肌をくりぬいて作られた、大きな街のような場所にたどり着いた。
「ここが俺たちの住処兼、鍜治場ってところだな」
岸壁をくりぬいて作ったような洞窟が、鋼竜族の主な住処らしい。排気口と思われる穴から煙がいくつも立ち上り、周囲からは鉄を打つ軽快な音が聞こえてくる。
いくつも敷かれている線路は、近くの鉱山から鉱物を持ち帰るトロッコ専用のものらしい。
街全体が鍛冶に特化している未知の光景に、思わず感嘆の声が漏れてしまった。
「お、ドミニク王じゃねえか! そいつが例の救世主様か?」
「おう! なんか面白いもん教えてくれるっていうから、あとで職人連れて見に来な!」
「そいつは楽しみだ! 仲間連れて向かうぜ!」
ドミニクに連れられて歩いていると、結構気さくに道行く鋼竜族から話しかけられる。王様といえども、国民に対しても気楽に接しているらしい。
といった具合に、見かけた職人たちを、ドミニクはどんどん誘っていく。
そんな感じで勧誘を続けながら、ドミニクは王城と思われる巨大な要塞側の、鍛冶工房と思われる建物に入っていった。
「ここが俺の運営する鍛冶ギルドよ」
広がっていたのは、道中で見かけた鍜治場よりも、数段設備の良い鍛冶施設だ。製鉄に使う炉が何重と用意され、鋼竜族の職人たちが振るうハンマーも、見るからに質が良い。
頭部をドラゴンに変身させ、口から発する熱線で鉱物の温度を調節しているらしい。火を噴いては鉄を打つ様があちらこちらで広がっているのは圧巻だ。
「俺が直々に作ってやるよ、どんな瓶を作ればいい?」
「こういう瓶を作ってほしいんだが」
俺が設計図を渡すと、ドミニクは不思議そうな顔をしながら設計図を眺め、「作れるには作れるが……」と唸る。
「こんな容器でタンサンとやらを保存できるようになるのか?」
「ああ。実際に見てもらえばわかる」
「……そうだな。とりあえず作ってみるか!」
俺の不敵な笑みを見て気持ちを切り替えたのか、ドミニクは景気よく吹き竿を炉の中に突っ込み、先端に溶けたガラスを付けて瓶づくりを始めた。




