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正しさを選べるように(ウィズ視点)


「なあウィズ。今日も外へ出かけるのか? 童も連れて行って欲しいぞ!」


 初めてそうせがまれたのは、ルミナ様が5歳くらいの時だったか、輝いた眼で上目遣いにお願いされたときは、流石の僕もびっくりしたものだ。

 何せ、僕は物心ついてからというもの、自分の知的好奇心を満たすための研究に没頭し、それ以外のことは何にもしなかったものだから、他の神樹精(ドリアード)たちからは、両親を含め煙たがられていたものだった。

 周りに疎まれようが、無理に合わせるよりも自分が好きなようにふるまうのが楽だったし、疎まれることについてストレスのようなものも感じなかった。だから一人でいることに慣れていたときのことだった。


「ウィズはいっつも変な匂いがするし、知らないものいっぱい持ってるしで面白いからの! 一緒に外を探検させてほしいのじゃ」


 他の神樹精(ドリアード)が『変』といって切り捨てる部分を、この王様の娘は『面白い』といって絡んでくる。

 疎まれようと知ったことはないが、そういって自分を受け入れてもらえるのは嬉しいものだと気が付いたのはその時だった。

最初はめんどくさかったんだけど、しばらくすると「仕方ないなあ」とわざとらしくため息をついてから、肩車をしてあげるようになった。


「ルミナ様はさ。今の神樹精(ドリアード)のことどう思う?」

「どうって?」

「つまらないと思わない? 世界の中立とやらを保つために、必要以上の外交を断って、他の国には関わりません見たいなパフォーマンスして。外の世界には、面白いこと、興味を惹かれることが沢山あるというのに。僕たちも外から学ぶべきなんだ。じゃないと知らない間に僕らは他の種族においてかれてしまう」


 何回も森を探検するうちに、ふと、愚痴を漏らしてしまった。

 ああしまった。子どもに聞かせる話じゃないだろうこんなこと。

 ルミナ様のいないとき、僕は禁じられている他種族と商売を行っていた。そのことに対して、ほんの少しだけ罪悪感はあったんだ。

 ルミナ様が本当に楽しそうな様子で、僕の採集に付き合ってくれるものだから、言い訳になるような回答を期待して、無意識に尋ねてしまっていた。

 

「すまないね。つまらないことを聞いた」


 政治にしろ自己満足にしろ、子どもに尋ねることではない。

 すぐに話題を切り替えようとしたが、ルミナ様は「うーん」と真剣に唸って、頭に手を当てて考え込んだ。


「軽い気持ちで聞いたんだ。ルミナ様が悩むことじゃないんだよ」

「でもウィズは悩んでいるのじゃろ。だから童も真剣に考える」


 齢5にして他者を本気で思いやることのできる器の大きさに感嘆すると同時に、子どもに愚痴を吐いてしまった罪悪感も増幅する。自分の為に悩んでくれることは嬉しく思いつつも、やってしまったという後ろめたさが足取りを重くした。


 10分ほど、うんうんと考えつくした後で、


「わからん。母上たちもウィズも正しく思える。どっちも大事にはできんかのう」

「……それができたら苦労はしないさ」

 

 ここで自分に寄らないあたり、子どもながらに王の資質があったんだと思う。だけど自分の意見を完全に支持されない虚しさも若干感じた。


「ねえ、ルミナ様が王様になったらどうするんだい」


 虚しさからか、意地悪な質問を重ねてしまった。親の意見を支持するのだろうな、と思いながらも、自分の方を選んでくれないかと期待を寄せてしまった。

 するとルミナ様は先ほどよりも難しい顔をして考え込み、


「わからん!」


 と元気よく答えた。

 さっきまでの表情との落差にガクッとこけそうになったが、ルミナ様は明るい表情で続けた。


「でも、童が王になったら、皆がより幸せになれる方を選ぶぞ!」


 子どもらしく無邪気な声で。だけど皆に約束するような力強い声でルミナ様は宣言すると、「難しい話は終わりじゃ! ささ、冒険の続きをしようぞ!」と僕の背に体重を乗せてきた。

 

「……期待してるよ」

 

 自分の興味の為にしていた研究は、ほんのちょっとだけルミナ様の期待に応えるためになった。

 いつかルミナ様が自分を選んでくれた時に、ほんの少しでも力になれるように。

 

 だけどそんな思いで続けていた研究は、頭の固い王様たちに否定され、暫く故郷を離れていたと思えば、故郷は殆ど壊滅していて、ぽっと出の救世主とやらの言いなりだ。

 

 彼と同じことを、僕がずっと言い続けていたのにも関わらずだ。


 馬鹿だと思った。愚かだと思った。でもそれをぶつけて意味のある相手はもういない。

 気が付けば自分の怒りのやり場は、かつて助けたかったルミナ様へと変わっていた。

 

 僕は正しかった。ただ、王様も見方を変えれば正しくて、僕たちよりもより正しかったのは、ルミナ様だった。

 大事なのは正しさを選べるということだ。選ぶために、臨機応変に広い視野を持つことだった。

 僕が正しい。そう決めつけていた時点で、僕は頭が固いと見下していた元王様たちと同類かそれ以下だ。

 

 ああ、くそ、そんな簡単なことを、

 なんであの異世界人なんかに——


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