ウィズの言い分
「やあ救世主君。僕に何か用かい?」
ルミナがウィズのねぐらで待機する一方で、俺はその外で張って、ウィズが帰ってくるのを待ち続けた。
日が落ち、皆が就寝の準備を始めるころ、外で色々な薬草を集めてきたウィズが帰ってきた。
俺はウィズにポケットから栄養ドリンクを取り出し、目の前に差し出す。
「もので僕はつれないよ」
「知ってるよ。飲み物でも飲みながら話でもしようって誘い」
そういうことならと、ウィズは栄養ドリンクを受け取り、蓋を取って掌に注いで、色を見、香りを足す噛めてから、ズズズと味わって飲み始める。
「中でルミナが待っているから、あっちで話そう」
俺が適当な木陰に案内し、ルミナに聞こえないような所へ移動する。
「面白い味だよね。この栄養ドリンクとやらは。不自然な香りや味なのに、不思議と体に活力がみなぎるようだ」
「そういう成分を詰め込んだ、いわば医療用ドリンクだからな。嗜好品とは異なるわけよ」
「実に興味深い。是非ともこの手で再現したいものだね。……というわけで、僕も早速作ってみたのだが、実験台になってくれるかい?」
「怪しげな薬草を煎じていたと思ったが……やっぱ栄養ドリンクを作ってたわけか」
ウィズが差し出してきた小さな革の水筒のふたを開けると、鼻が曲がりそうな薬膳の香りが俺の鼻を刺激してきた。
こいつのねぐらに入ったとき、妙な匂いで鼻がいかれそうになったものの、よくよくにおいの元をかぎ分けてみると、滋養強壮に良さそうな高麗ニンジンやニンニクのような植物が発生源となっていた。
もしかしたらと思って、こっそり様子を見てみると、煎じた薬草を水へ溶かし、果汁やはちみつなどを混ぜ合わせてオリジナルのドリンクを作っているようだった。
不思議と力はみなぎりそうな味だが、如何せん匂いがひどい。
俺が顔をしかめながら飲むと、「結構雰囲気は出ているだろう。君の世界のものにはまだ及ばないけどね」と面白がって俺の様子を見守ってくる。
アイスブレイクはこのくらいでいいだろう。そう判断した俺は態度を改めてウィズに本題を切り出した。
「お前が王様が嫌いな原因、聞いたぜ」
俺の言葉に、ウィズがピクッと眉を寄せた。
しばらくの沈黙の後、ウィズは喉の奥で小さく笑ってから、開き直ったような態度で俺に語り掛けてきた。
「愚かだと思わないかい。君より先に僕が道を示してやったというのに、このありさまだ」
やはり、他種族と交流を持つべきという進言を無視し、侵攻を許したことについては、思う部分はあるらしい。
「そう思い至ったきっかけは何だったんだ?」
「きっかけは知的好奇心さ。話でしか存在を知らない種族たちが、実際にどのように暮らしているのか気になった」
俺が尋ねると、ウィズは飲み終えたドリンクの便を片手でジャグリングしながらつづけた。
「そしたら思いの他進んだ暮らしをしていてさ。意外だったし面白かった。僕たちが森の恵みとやらを語り、採集生活をしている傍ら、他の種族は自ら食料を生み出すべく、農耕とやらに勤しみ、僕らが簡単な天幕を張って就寝をする中、他の種族は立派な家屋を立て、ゆるぎない生活の基盤を確保しているんだ。僕らが自然の恵みとやらに甘えている中、彼らは小野が種族の存続を実現するために、努力し、工夫し、そのために交流しあっている」
確かに、他の国の説明を聞いていると、鍛冶だの輸送だの、商業的なワードが聞こえてくる中、神樹精たちの生活はだいぶ原始的だ。
ルミナの魔法があるが、それを除けば神樹精の暮らしや文明ははるかに後れを取っている。
「感心する一方で不安もあった。僕たちの領地には彼らにとって魅力的な資源や土地が沢山あるからね。欲に目がくらんだ他の種族に狙われる前に、何かしら対策が必要だと思った。ならばと奪われる前に、他種族もその恵みを受容できるよう、神樹精も商売の輪に入ればいい。そう思って動いてみたってわけさ。ルミナ様が持っていた金は、僕が商売で稼いだものだよ」
「お前なりに、神樹精の未来を考えての行動だったってことか」
「そうとも」
あの初任給並みの国家予算の出どころはこいつだったのか。
「それなりに成果もあげて、説得するために得たものを纏めて持って行った。でも聞き入れてもらえなかった。持って行ったものを纏めて処分された。それで呆れて外で過ごしていたら、その間に人間に土地を奪われ、神樹精は存続の危機に瀕している。間抜けすぎて声も出ないね。そのくせ救世主様に諭されてようやく考えを改めるなんて、どの面下げて僕に協力しろってというんだい?」
「なるほど、確かにお前の言うことも、怒る気持ちももっともだ」
「そうだろう?」
こいつのいうことには筋が通っている。並び連ねた過去の体制への批判は、俺がコンビニを再現させると方針を決めたときに指摘したものとほぼ同じ。
つまるところ、こいつの意見は正しい。
——正しい、のはいいとしてだ、
「ところでお前、いくつよ」
「? 今年で24だけど」
「俺とほぼ同い年か」
突然訪ねられ、ウィズがわけわからんといった具合に首をかしげる。
困惑しているウィズを横目で見やって、俺は別の質問をかぶせた。
「お前がその気持ちをぶつける相手は、15になりたての、仕方なく王様やってるガキでいいのかよ」
俺の指摘に、ウィズは頬をはたかれたかのように、一瞬だけ目を丸くした。
「確かにお前の指摘は正しかった。だが、あくまでそれは結果論だ。世界樹っていう世界の根幹を管理する種族である以上、商売の輪に入ることで、世界樹の恵みがあることをいいことに、その利益を独占する悪い奴らだと悪評が付く可能性だってある。それはそれで正しいんだよ。結果がお前の意見を支持しただけだ。それを盾に、責任背負わされただけのガキに悪態つくのは、大の大人がやることか?」
「……」
「それに神樹精の為を思ってとか言ったな。お前、皆が襲撃されてから、今の今まで何をしていた?」
「それは……」
「ルミナは書き方もわからねえ書状をかいて、仲間を失った同胞を励まして、お前の嫌いな王様とやらを未熟なりに全うしようとしていたぞ。お前はその間、何をしていた?」
俺の質問に、ウィズが少しだけ動揺したように見えた。
先ほどまでは余裕たっぷりに俺の方を流し目で見てきたのに対し、今はまっすぐと俺の方へ目を向けている。
「別に俺たちに協力する気がないなら、仕方ないけどそれでいい。やる気0の奴の勧誘に時間使ってるほど暇じゃねー。今はどっちが正しかったかなんて反省会に時間割いてる暇なんてねえんだよ。暇なんて無いんだが——」
そこで俺は背を向けて、ルミナの待つねぐらに親指を突き立てた。
「ルミナがお前に謝るために待っている。背負えねえもん背負ってくれてるガキに頭下げさすんじゃねーぞ」
そう言い残して、俺はその場を立ち去った。
協力する気がないなら仕方ない。……なんて言ったものの、実はしてくれなかったらとても困る。
「……頼むから仲直りしてくれよ」
あとはウィズの性根を信じるしかない。
畜生。神樹精の為とか言葉が出るんなら、ちったあガキの前で大人ぶってみせやがれ。
突き放すふりして託した思いが届いていてほしいと願うばかり。
緊張で胃が縮む感覚をこらえながら、二人を信じて、離れた木陰で事の行方を祈るばかりだった。




