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世界情勢

間が空きました。申し訳ございません。



「飲み物は何がいい? コーヒーとか、茶とか」

「酒」

「お主……一応真面目な話をするんじゃからな」


 ルミナがじとりとドミニクを睨むが、当の本人は気に留める様子はなかった。

 まあ、せっかく来ていただいたんだ、自己紹介がてらに異能でいい酒を飲ますのはいいかもしれない。

 とはいえ、酒って言っても、ビールだの清酒だのリキュールだの様々だ。

 まあ、ブドウや麦に近いものがあるんだから、ワインやビールは外れないだろう。

 どちらかといえば俺はビール派。「ビールでいいか?」と断りを入れてから、俺は発注画面で高めのプレミアムビールを注文した。


 俺の目の前に光が出現し、その中から配送用のコンテナに包まれたビールが出現する。


「不思議な容器だな。どこから飲むんだ?」


 俺がプルタブを引っ張って缶を開けると、ドミニクは驚いた表情をしてから俺の真似をして缶を開けた。


「こりゃ面白い! 音が楽しいな!」


 この世界に瓶はあっても、缶やペットボトルがないのは確認済み。この世界の住人が知らない缶ビールを頼んで正解だった。

 椅子を勧めるも、ドミニクは床にドシッと胡坐をかき、グビグビと缶ビールを飲み始める。


「ぷはあ! こりゃうめえ! おかわりいいか?」

「そこにある分は飲んでいいぞ」

「なんだ? 旨い酒を召喚する異能か?」

「俺の世界にあった商品を金を払って呼び寄せる異能だ」

「なるほど。こんなにうまい酒があるなら、是非とも行ってみたいもんだ」


 とりあえずファーストインプレッションはかなり良くなっただろう。……ておいおい。そんな水を飲むような勢いで飲んで大丈夫か?

 ルミナも酔いが回るのを危惧したのか、コホンと咳払いをして場を改めてから、話を切り出した。


「ドミニク王。頼んでいた保護の件、検討していただけたか?」

「あー、それを話す前に、まずは4か国間での、今回の侵攻における協議内容について話しておく」


 ドミニクは缶を床に置き、改まった表情で俺たちに向かいなおった。


「まず異世界人、名はなんという?」

「喜土 便だ」

「ヨスガか。この世界についてどのくらい聞いている」


 俺はルミナから聞いた話を、簡単にまとめて伝えた。


「オッケー。それぐらい把握しているならいきなり本題でも問題なさそうだな」


 ドミニクは肩から下げていた革のカバンから地図を取り出した。


「人間の神樹精(ドリアード)の管理する土地への侵攻は、他の3か国からも非難の声が上がった。当然俺の国からもだ。」


 なんだ、ルミナは反応がないと焦っていたが、外でやるべきことはやってくれていたわけね。 

 ルミナも顔は険しいままだが、一瞬だけ安堵のような息を吐いたように見えた。

 

が、


「奪われた土地は返還するように伝えるが、伝えるだけだ。実質的には盗られたままだと思ってくれ。つまり、神樹精(ドリアード)の治める領地はこのようになる」


 ドミニクはそう続けながら、神樹精(ドリアード)たちの治める土地の3分の1を遮るようにビッと鋭い爪を立てた。

 それを聞いたルミナが「なっ……!」と言葉を詰まらせた。


「向こうに理不尽に奪われた土地を、無償で差し出せというのか?!」

「残念だがそうなるな。どのみち、侵攻で数を減らしたお前らにはもう管理する力もない。これ以上現状が悪くならないよう、睨みを利かせるので精いっぱいってこった」

「お主の力があれば、人間どもを追い払うことくらい簡単じゃろう!」

「人間の国とはそこそこ仲良くやらせて貰ってるんでな。苦言は呈しても、国交が途絶えるようなことまではしたくねえのよ。喧嘩はしても絶交はしねえってやつ。人間のダチも大勢いるもんでね。それに、無益な戦闘は負のマナを生み出すんじゃなかったか?」


 最後に正論で蓋をされ、「ぐ……」と怯んでルミナは引き下がった。


「それに、話は違うが【救世の儀】を他国の同意なしで行ったことについては、俺もほかの国も言いたいことがあるんだぜ?」

「? ちょっと待った。救世の儀は他の国の承認がないとできないのか?」


 俺が割ってはいると、「おう」とドミニクは顔をこちらに向ける。


「未知の力を持つ上、文明も違う、考えも違う異界の人間を呼び出そうってんだ。そいつが世界救済に協力してくれる奴ならいいが、力を持ったことに浮かれて傍若無人にふるまうやつも多くてな。そういう輩に備えるために、各国の承認を得てから行われるもんなんだよ本来は」

「悪い奴を引いた場合はどうすんだよ」

「おっと……その先を聞くのは野暮ってもんだぜ」


 俺の質問に、ドミニクは喉の奥に炎を渦巻かせながら、鋭い牙を見せつけてきた。

 あーなるほど、リスキルされんのね。多分この世界で死んだら、現世で蘇る権利も消えてしまいそうだ。

 ……今更ながら、あの場所で商売を続けて万が一にでも敵を作っていたと思うとぞっとする。


「今回各国に保護を求めたが、どの国もまともに取り合ってくれなかった。主らの返答を待つ間に、一族が根絶やしにされる可能性もある」

「俺も世界を滅ぼそうって気はないぞ」


 ささやかな援護とばかりに、ルミナの発言に付け加える。だがドミニクの反応は鈍い。


「そこは理解しているが、踏むべき手続きを踏まなかったことへの責任の追及は必要だ。保護を求めるからには、こちらの利益となるような条件を提示させてもらう」

「条件とは?」


 するとドミニクは俺の方を一瞥してから、クイッと親指を俺に向かって突き立てた。


「この兄ちゃんをうちで預からせてくれ。そうしたらお前たち神樹精(ドリアード)の保護を約束してやってもいいぜ」

「それは……」

「だ、ダメに決まっておろうが! そんなこと!」


 そうきたか、と眉をしかめた俺を一瞥して、ドミニクは不敵な笑みを浮かべた。


「ダメか? お前が呼んだ救世主様だが、一族を保護するからには、こいつも俺の保護下に入るということ。その見返りとして、異能を俺たちの役に立てろってのは自然な話じゃないか?」

「どうせ酒やつまみを異能の力で取り寄せるつもりじゃろ! お主だけのために異能を使うのは、世界樹の使者である童たちが許さん!」

「皆で分け合うさ。……ま、ちょっとは俺たちが多くもらうケド。それと引き換えに安全が確保できるんだ。いい話じゃないか?」


 確かに、話としては悪くないようには思える。俺の異能は金さえあれば俺の世界の商品を仕入れることができるし、払うもんさえ払ってさえくれれば、ノーリスクで安全が確保できるのは魅力的な提案だ。

 魅力的な提案なんだが……


神樹精(ドリアード)たちを保護したとして、その先は?」

「先か。答えられんな。今確約できるのは、当面の安全だけだ」


 まあそうだろうな。俺が帰った先、神樹精(ドリアード)たちを引き続き守ってくれるかは別の話だ。 

 そうであるなら返す答えは決まっている。


「魅力的な提案だが、断らせてもらう。こいつらが独り立ちできるよう環境を整えるのが、スーパーバイザーとしての俺の仕事なんでな」

「ヨスガ……」

「スーパー……? なんか知らんが、大きく出たじゃねえか。俺好みの返答だが、現実はそう甘くはないぜ?」


 後で泣きついても知らんぞ? と篩をかけるドミニクに、「心配いらん」俺は負けじと不敵な笑みを浮かべた。


「こいつらが開発する新商品を手にしたら、そっちから神樹精(ドリアード)たちと仲良くしたいって言ってくるぜ」

「ほう。それは楽しみだ」


 俺の発言を半分疑うような眼差しでドミニクは俺を見つめた後、これ以上居座る意味はないといったように、ゆっくりと立ち上がって事務所のドアを開いた。


「その新商品とやらが、お前らの命運を分けるということを忘れんなよ?」


 自分の背丈よりも低い事務所のドアを、少しかがんでくぐりながら、ドミニクは事務所を去っていった。

 その背を見送ろうと店の外に出ると、そこには驚愕の光景が広がっていた。


「あれは……?!」

「あれがドミニク王、真の姿じゃ」


 全長50mはあるであろう深紅の巨体。2枚の翼を力強く羽ばたかせ、炎を纏いながら空へ飛び立つ飛竜。

 すべての生物の頂点に立つような圧倒的な威圧感のあるドラゴンがそこにいた。

 

「普段は人間で、力をセーブしておるのじゃ。あの巨体を維持したままでは燃費が悪いらしくての」

「俺さっきまであんなやつとため口聞いていたのかよ……」


 やろうと思えば武力行使で従わされていたのは確実だ。あえてしなかったのはドミニクの人柄や器量によるものなのだと思い知らされ、これはなんとしてでも仲良くならねばという思いが強まった。


 そのためにはドミニクが言う通り、俺たちが開発する新商品が成功のカギを握っている。


「ヨスガ、先ほど大きく出ていたが、奴を唸らせるほどの新商品とやらのあてはあるのか?」

「まったくないわけじゃないさ。……だが」


 もちろん、俺だって無策で大きく出たわけじゃない。ちゃんと鋼竜族に——いや、この世界に生きる奴らにとって、魅力的な商品を作る算段はあるにはある。

 ただ、それを行うにあたって、絶対にクリアしなければならない課題が一つ。


「やっぱあいつの力が必要になりそうだ……」


 あの王様嫌いの神樹精(ドリアード)をどう説得するか。

 後回しにしていた課題が1週回って目の前に現れてきて、俺は疲れた息を吐いてしまった。


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