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王様嫌いの神樹精

 

「——っ?! ゲホッ、ゲホッ‼ んじゃこの匂いは?!」


 ウィズという神樹精(ドリアード)がねぐらにしている木の洞穴の中に入ったと同時、襲ってきた異臭に俺は思わずむせ返ってしまった。

 いくつもの果実や草を発酵させ、糞尿をブレンドしたような激臭に鼻をやられそうになる。

 ルミナは慣れているのか、鼻をつまむ程度の反応しか示していない。ていうか知ってたなら先に警告ぐらいしてくれない? 


 激臭を堪え、涙で視界をゆがませながらも、俺は周囲を見渡した。

 いくつもの種類の草や果実が天井から吊るされており、洞穴の中だというのに森にいるような気分になってしまう。そのせいで天井が狭く感じるというのに、床にも様々な書物や小道具、採ってきたばかりであろう薬草や木の実が散乱しており、足の踏み場がなく、広さに対して滅茶苦茶窮屈な空間だ。


「おやおや、王様に救世主様。僕に何か用かな?」


 その部屋の最奥、……もとい、異臭の発生源にいた一人の神樹精(ドリアード)が、すり鉢で何かをすりつぶしながら俺たちに振り返ってきた。


「ウィズよ。少し聞きたいことがあるのじゃが、よいか?」


 床まで届きそうなほど薄紫の髪を伸ばし、スレンダーなモデル体型をした俺と同じくらいの背丈の神樹精(ドリアード)。全体的にやや褐色気味の肌をした神樹精(ドリアード)だが、このウィズという神樹精(ドリアード)の肌は白めの色をしている。

 艶っぽく色気のある顔立ちだが、美人、というよりは、女性のような男性、といった凛とした印象を受ける。目を引く容姿なのは違いない。


 そんな神樹精(ドリアード)が「ふうん」と息を漏らしながら、深い紺色の瞳で値踏みをするような視線を投げてきた。


「コーラ、サイダーとかいう飲み物の作り方かい?」

「……へえ、よくわかってるな」


 どうやら俺の考えていることはお見通しらしい。読みが的中し気分がいいのか、俺の返事に笑みで返してきた。


「その飲み物を、この世界で作ることは可能か?」

「同じものはできないけど、近いものでいいなら作れるよ」

「おお!」


 ウィズの回答にルミナが完成の声を上げる。「そうか」と俺は落ち着いて返したが、心の中ではガッツポーズ中だ。

 炭酸飲料が作れるなら、異世界コンビニ計画も一気に進行する。

 先行きが明るくなったことに、俺たちが安堵の息をついていたところで、


「作れるけど、僕は協力しない。異世界コンビニとやらは君たちで作ってくれたまえよ」

「うむ! ……む?」


 想定外の返事に、俺もルミナも固まってしまった。


「……おい、ちょっと待て。ついこの前皆で頑張って行こうと団結したばかりじゃねえか」

「皆盛り上がってたね。僕は賛同した覚えはないけど」


 あ、確かにこいつ、皆が「おー!」とこぶしを突き上げてる中、視線そらしながら手をぴらぴら振ってたわ。

 あれもしかして、勝手にやってろって意味合いだったってことか?


「ウィズ! 今は神樹精(ドリアード)一丸となって、異世界コンビニ計画に取り組まなければならんのじゃ! それを理解してないお主ではなかろう?!」

「うん。わかったうえでボイコットしている」

「ボイコットする理由はなんだ?」

「意味なんかないけど——」


 俺の問いかけに、こちらをあざ笑うかのような視線を投げてから、「強いて言うなら」と前置きをし、少し溜めてから続けた。


「僕、王様嫌いなんだよね」


 そう告げてウィズは俺たちに背を向け、木の実や薬草の調合作業に戻ってしまった。


「ま、待て! ウィズ、どういう意味じゃ?! いったいどういう——」

「……とりあえず出直そうぜ」


 王様が嫌い。突然の拒絶にルミナも目に見えて動揺している。

 そんなルミナの様子を気にすることもなく、ウィズは背を向けて作業を続けるばかりだ。会話ができない以上いったん引き返すほかない。


 ウィズの背を見つめるルミナの手を引きながら、異臭が漂う洞穴の外へ俺は歩き出した。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 くそ、協調性に難ありとは聞いていたが、この状況下で協力そのものを拒否されるのは予想外だ。

 俺が頭を悩ませているとなりで、ルミナも何やら沈んだ表情だ。


「……なあヨスガ。王様嫌いって、どういうことだと思う……?」


 協力を拒まれた事よりも、その言葉に対するショックがでかいらしい。


「俺に聞かれても困る。世界のことすらよくわかってないのに、個人間のいざこざなど知らん」

「……そうじゃな。すまん」


 よくわからん以上、うまく慰めることもできないが、俺の返答で沈んだ顔をされたら俺がいじめたみたいになるじゃねえか。

 憂鬱な気持ちが伝染しかけたところで、「無理やり元気出せ‼」と強引に声を張って喝を入れた。


「炭酸飲料の作成以外にもやることは沢山あるんだ! 落ち込んでいる暇があったら他にできることうぃやるんだよ!」

「む……うむ。そうじゃな」


 俺の一喝で、ルミナも頬をペシペシと叩き、表情を改める。

 虚勢ではあるだろうが目に光をトレイ戻したルミナを見て、「よし」と俺も頷いた。


「じゃあ、俺の言うものを他の神樹精(ドリアード)たちで作り上げるぞ。指揮はお前に任せる」

「ヨスガはどうするのじゃ?」

「俺はお前らが集められない商材を集めに行く。3~4日で戻ってくるから、それまでにこのリストの〇が付いている商品を、頑張って再現してみてくれ」


 ルミナに、俺が印をつけておいた商品カタログを渡すと、中を見て難しそうな顔をしたが、「わかった」と力強く頷いてきた。


 俺はルミナに商品開発を任し、人間たちが集まる開拓地に足を運ぶのだった。


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