まずは人材確保から
異世界コンビニをオープンさせる。そう宣言したその日のうちに、俺はコンビニの代表的な商品をリストアップした資料を用意し、神樹精たちに条件に合わせて〇、△、×の記号をつけさせた。
〇が材料をすぐに用意でき、今すぐにでも再現可能な商品。
△がすぐには無理だが、材料や条件が整えば再現可能な商品。
×がどうやって作るのかわからない、見当もつかない商品だ。
神樹精たち全員に記号を付けさせ、俺は全員の資料に一通り目を通した。
ほとんど〇が付いたのが、ドライフルーツや果汁系のジュース飲料。以外にも△や×が多いのはパン類。サンドイッチやフルーツサンドなどは再現可能だと思ったが、
「まよ、ねーず……? やちょこれーと、とか、この辺の作り方がわからんでのう……」
間に使われている加工食品の作り方がわからずにそういった印がつけられているのが多かった。パンだけなら再現可能かと問われれば△が多い。〇になりきらないのは、酵母やイーストといったものは知っているが、パンを焼く設備がないからだそうだ。
「米や味噌は×が多いな……」
残念ながら日本食の再現は難しそうだ。米食の文化がないだけか、そもそも稲が付近に生育してないのか。どちらにせよ、日本人としては残念な展開ではある。
主食で言えば米は×。パン、パスタは△。どうやら小麦中心の食文化であるらしい。同じ麺類でも蕎麦は×。
飲料関係で言えば、飲料は水や茶などの飲み物は〇。緑茶やブレンド茶は△が付くものが多いが、紅茶に〇が多い。小麦の件含め西洋に近い文化なのだろうか。ビールやワインなどの酒類は△、日本酒や焼酎に×が付くことを考えてもその傾向が強そうだ。
ファミチキやフライドポテトに△がつくのは揚げ物の文化があることの証明だろう。食用油の入手はめどが立ちそうで、これはうれしい誤算だ。
食に関して言えば、商品開発は思っているよりもずっと絶望的な状態ではないっぽい。
半面、×が目立つのがボールペンやノートなどの文具。石鹸やシャンプーなどの洗剤。マヨネーズや醬油といった調味料。そしてコーラやサイダーといった炭酸飲料。
「ヨスガよ。どれから作ればいいのじゃ?」
「〇が付いたのは当然として。△、もしくは×が多い商品の開発を狙いたい」
マヨネーズや醤油といった調味料に×が付くのはむしろチャンスととらえるべきだろう。材料さえそろえば再現できる可能性が高いからだ。浸透していない分、最初に開発できてしまえば、それだけ売り上げにつながっていく。
〇が付く商品で品数をそろえ、△や×が多い商品を新しく作って他の種族たちの興味を引いていき、国交につなげていく。基本戦略はこれでいいだろう。
俺が資料を眺めながら戦略を練っていた時、とあることに気が付いて、思わず目を見張った。
「ルミナ。このウィズってやつ、誰だ?」
目に留まったのは、ウィズって名前の神樹精が印をつけた資料だ。
こいつ……コーラやサイダーに△をつけてやがる!
それだけじゃない。よく見れば他の神樹精たちの資料に比べて、〇や△の割合が圧倒的に高い。
俺が商品開発を行うにあたって、ひとつ不安だったのが、俺の世界の知識と、このファンタジー世界の知識が完全に一致するかわからないことだった。
例えば小麦にしろ、俺の世界の小麦と形状や味は若干差はあるし、マナや魔物といった概念が存在しているこの世界で、水を熱すれば蒸発するとか、布をこすれば静電気が起きるといった自然現象が、俺の世界の理屈と完全に一致して行われているかどうかはわからない。
材料を用意できたとして、俺の世界と同じ製法でその商品を開発できるとは限らないということだ。
無論、パンやビールの製法を聞いた限りでは全く通じないという話ではなさそうだが、例外が発生したときに俺だけではどうしようもできない。
俺の世界の理屈を、この世界で再現できる人材が必要だ。
そして、このウィズってやつはその役割を担える可能性が非常に高い。
「ウィズか。薄紫の髪をした、背の高い神樹精じゃ」
ルミナに言われ、俺も「あいつか」と思い出した。
コンビニを体験させたときに、真っ先に洗剤や薬品コーナーを漁っていた、背の高い神樹精。
不気味にニタニタ笑いながら薬品を漁っていたもんだから、危険な真似でもしないもんかと目を光らせていたやつだった。
今思えば、俺がどうやって神樹精たちの種族を再興していくか、真っ先に反応があったのもあいつだった。
「あやつか。あやつは知識は豊富じゃが、協調性に問題があっての……。素直に協力してくれるかどうか……」
「確かに、復興作業ほとんど手伝っていなかったもんな」
ルミナが遠い目をして言葉尻を濁す。まあ、俺も直接的なコミュニケーションをとったことはないわけだが、その気配は薄々とは感じていた。
そのウィズとかいうやつは皆が復興作業に勤しんでいる中、一人森に出て木の実や薬草をとってきて、隅の方で煮込んだり調合したりといった実験のようなものを繰り返してばかりだった。少なくとも協調性はかけらも感じさせなかった。
「でも能力はあるんだろ」
「そうじゃな」
「じゃあ協力を依頼するしかない。ルミナ。頼めるか?」
今は一刻を争う事態。性格でえり好みをしている場合ではない。
俺の問いにルミナが頷くと、俺たちはそのウィズという神樹精がねぐらにしている木の根の洞穴の中に顔を出した。




