始動。異世界コンビニ
全員集合。
俺は翌朝、ルミナたちの拠点へと足を運び、1か所に集めた。
「ヨスガ? お主、店はどうした?」
「潰した」
俺の淡々とした発言に、神樹精たちがどよめき立った。どうやら見捨てられると思ったらしい。
それはルミナも同様みたいで、明らかに動揺しながら、俺に詰めよろうとするが、
「ぶへっ——?!」
俺はその顔に夜通しで作った資料に、中身の入った茶封筒を叩きつけてやった。
「な、何をするか?!」
「おい、ぼさっとするな。全員資料を受け取りに来るんだよ」
俺は詰め寄るルミナを躱しながら、神樹精一人一人に同じセットを渡していく。
そして、封筒の中身を確認した神樹精の一人が驚きの声を上げた。
「お金?! それもこんなに沢山?!」
俺が渡した封筒には、5万G入っている。それが全員分。しめて210万G。
一人当たり神樹精の国家予算の4分の1の金を手にしたわけだ。いくら金に無頓着な種族とはいえ、驚くことは驚くみたいだな。
「……この資料は、色々な商品が乗っているみたいだけど」
「そっちは後で使う。とりあえずは金の方だ」
俺は世界樹のプレートを手に取り、「召喚」と口にする。
そしたら眩い輝きと共に、見慣れた店舗の姿が現れた。
「ミッションだ! 今日一日、ここに店舗を特別出店する! その金を好きに使って買い物しろ。店舗は10分後オープンだ」
そう言い残し、俺は店舗の中へと消えていった。
「何を企んでいるかはわからんが、一先ず言う通りにしてみようじゃないか」
俺の意図が分からず不安がる神樹精たちを落ち着かせながら、ルミナが大胆不敵な笑みを浮かべて、視線を投げてくるのだった。
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「いらっしゃいませー!」
俺が元気よく挨拶すると、ルミナを先頭に神樹精たちが続々と店の中に入ってくる。
「依然見たときになかった商品がちらほらあるな」
「今回は俺がいた世界のコンビニを忠実に再現した」
ルミナが覗いたのは電材やカー用品のコーナーだ。電池を手に取り、不思議そうに眺めるルミナを横目に見ながら、「売ってる商品で分からないことあったら聞けよー」と全員へ投げかける。
「……ねえ、食料以外も買っていいの?」
「ああ。好きに使え」
「……!」
俺の返事に、前髪目に掛った神樹精の一人が文具コーナー、雑誌コーナーで商品を漁り始めた。絵をかくのが好きなやつなのか?
「ほお、珍しい薬剤がいっぱいだねえ」
不気味な笑みを浮かべながら洗剤コーナーを漁るのは、復興作業の傍らで、本を読んだり、怪しげな薬の調合に勤しんでいる神樹精だ。とりあえず、混ぜるな危険の商品を混ぜたりしないよう、目を光らせておこう。
「さあ、揚げ物上がったぞ! 揚げたて食べたい奴はレジの前にこい!」
俺がフライヤーで作った揚げ物たちを並べると、早速神樹精たちが目を輝かせながらレジの前へと集まってきた。
その後もイートインコーナーで食べたり、買った商品を外で使ってみたりしながら、神樹精たちは一日を過ごした。
「ありがとう、ヨスガ。何だか久しぶりに皆の笑顔を見た気がする」
そんな様子をレジで見ている俺に、ルミナが語り掛けてきた。
「必要だからやったまでだ。お前らを励ますためにやったわけじゃないぞ」
「その割には、お主も嬉しそうじゃが」
「……お客様やオーナーに喜んでもらうのが、スーパーバイザーの仕事なんだよ」
喜ばれて悪い気はせんが、それを指摘されるのは小恥ずかしい。
俺は皆に渡した金が消費されるまで待った。そして皆が大体の金を消費し終えたとき、ルミナに指示し、皆を店の前に集めさせた。
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「全員ペンは持ったな。資料に書いてある商品の横に空欄があるだろ。そこに、材料さえあればすぐに再現できそうなものに〇。すぐには再現できないが、作成方法や近いものについて何らかの情報を知っているものには△。材料も作り方も見当が付かないのは×をつけろ」
「あの、救世主様……これはいったい?」
「最初に言っておくが、俺は救世主じゃねえ」
投げかけられた問いを叩き切ると、あたりの雰囲気が静まり返った、
「お前らに召喚されて、面倒なことに巻き込まれたただの一般人だ。妙な力は授かったが、これに頼りきってお前らを助ける……ましてや世界を救うつもりなど一切ない」
「……童たちを見捨てるということか?」
「話は最後まで聞け」
不安そうに俺を見上げるルミナを制す。
「そもそも、襲われたのも、襲われた後すぐに助けてもらえないのも、お前らにも責任があるんだ。他の種族が同じ貨幣でせっせか商売で交流する中、お前ら森にこもって世界樹の管理ばっかりしかしねえもんだから、他の種族たちとの交流が極端に少ない」
「しかし、それとこれとは何が関係して——」
「どうでもいい種族だからといって襲われていい道理もないが、わざわざ間に割って入ってまで助けてやるような関係でもないって言ってんだよ。お前らが世界樹を管理して、間接的にこの世界の奴らも助けてやってるつもりだろうが、お前らのことよく知らん連中からすれば、豊饒な土地を独占するやっかいものでしかねえ。行いを理解されるだけの関係性が、今のお前らにはない」
俺の指摘に皆言葉を失って黙りこくった。
厳しいようだが、他の種族が貨幣経済で交流する中、そこに参加せず独立した営みを築くとはこういうことだ。
俺のいた世界だって、理不尽な侵略や戦争行為を批判することはしても、そこに割って入ってまで、侵略活動の停止や、被害者の支援に協力するかは関係性しだいだ。将来的な利益などを含め、無償でどこかの国に肩入れすることなんかまずない。
「他の奴に襲われないために、襲われたとして助けてもらうためには、そいつらに見える形で自分たちの役割や必要性を示すこと。それが今の神樹精に足りないものだ」
「……厳しいが、もっともな指摘ではあるな」
ルミナが厳しい顔をしてうなずくと、ようやく自分たちの現状を理解できたのか、他の神樹精たちも暗い顔になった。
そりゃあ、自分たちが世界の為に良かれと思ってやっていたことが、他の奴らにはあまり理解されていませんでした、なんて言われて落ち込まないわけがない。
「俺の異能に頼れば、誰かを幸せにする一方で、確実に誰かを不幸にする。商売ってのはWINWINの関係が基本。だから俺の異能は基本使わない」
「しかし、だとすれば私たちはどうすれば——」
「だが、道を示すには最適だ」
俺が手元にあった資料をバンッと叩いた。
「お前らにはここに載せた商品を再現し、このファンタジー世界に初となるコンビニエンスストアを開業してもらう‼」
「「「「「……ええええええええええええ?!」」」」」
俺の宣言に、神樹精たちの驚きの声が響き渡った。
「僕たちを周辺諸国の商売の輪に組み込もうって算段かな?」
「察しが良いな。その通りだ」
真っ先に反応したのは、薬剤や電材コーナーを漁っていた、危ない雰囲気の神樹精だ。
「世界樹周辺には行商用の馬車道は通っていても。休憩所となる町や村はほとんどない。お前らが不必要な開拓に反対し、土地を管理し続けた弊害でな」
「当たり前じゃ。今ある自然を破壊し、その種にとってだけ都合のいい場所を作るなど、世界樹様の為にならん」
「だったら俺らが皆の利益につながるような拠点を作って、自分たちの手で管理しようってわけだ。そしてその拠点ってのが——」
「コンビニエンスストアというわけだね」
危ない雰囲気の神樹精が俺の言葉を先回りして答える。
「お前ら、コンビニで買い物してどうだった?」
「楽しかった!」
俺の質問に、子どもの神樹精が元気よく答える。
「そうだろう。そういう場所をお前たちの手で作るんだよ。いろんな奴らが来店して、楽しんで買い物していけば、正のマナが生まれて世界樹様とやらも喜ぶんだろ? 幸いにもここは周辺諸国のど真ん中に位置する、商売にはうってつけの場所だ」
俺の言葉に神樹精たちがざわざわとどよめきたった。
俺の言いたいことやねらいは理解できるのだろうが、今まで周辺諸国とほとんど交流を断っていた中、そいつら相手に商売しろと言われても不安が勝つのは仕方がない。
だが、こちらからアプローチをかけなければ侵略されるのを待つだけの種族になってしまう。
そう、今が決断の時なんだ。神樹精と、神樹精が管理する世界樹にとっての。
必要性はわかっても、誰も話を切り出すことができずにいる中、
「ヨスガよ」
決意に満ちた表情で、俺を見つめてくるのはルミナだった。
「童たちがコンビニとやらを運営できるようになれば、……それで童たちは、世界は良い方向へ進むのか?」
疑うというよりは、確認するような声音のルミナ。
まっすぐな目に、俺は「ああ」と不敵に笑って、胸を張って告げた。
「あなたとコンビに、ってな。コンビニは人と人——世界と世界をつなぐ場所なんだよ」
「そうか」
俺の答えにルミナは笑って、少し息を整えてから、改まった態度で皆に振り返った。
「皆の者、童たちは種族再興と世界の平穏の為に、世界樹様のお膝元であるこの地に、コンビニとやらを作るぞ! 異論があるものはおるか?」
ルミナの高らかな宣言に、不安な表情を見せていた神樹精たちは覚悟を決めたような表情で頷いた。
こういう時に真っ先に皆を先導するあたり、王の器なんだろう。
「作ってやろうじゃん。異世界コンビニ」
さあて、俺もスーパーバイザーとして、俺の仕事を頑張りますかね。
異世界救済はコンビニから。この小さな店舗を起点にした世界救済が幕を開けた瞬間だった。




