執筆するなら
……私は、しがない文筆家。
ひがな文字をつなぎ、わずかばかりの飯代を稼ぐ、独身者。
飯を食うために文字を綴る、夢を忘れた、凡人。
己の世界を文字にしきれず、夢を追う事を諦めた、負け犬。
今日も私は…文章を書く。
文字数、内容、文体、装飾、結末…、依頼にこたえるために、作業に取り掛かる。
己の書きたいものとはかけ離れた、依頼者のための文章を…自分にとってはつまらないものを、ただひたすらに書く。
……文字を、つなぐ。
……文章を、書く。
文字を望んで、文章に思いを馳せる。
文字を睨みつけて、文章の到来を待つ。
文字を選んで、平凡な文章を組み立ててゆく。
幾度となく繰り返されてきた、苦痛というほどではないが…決して心地の良くない、日々の習慣。
……文章を、書く。
……文章を、書く。
……文章を、書く。
文章を書くなら…、早朝がいい。
寝起きは特に、直接的な文章が書ける。
難しい言葉を使わずに理論的な事をかけるのは、この時間帯だ。
文章を書くなら、昼間がいい。
騒がしく慌ただしい世界の音が聞こえてくると、まわりくどい文章が書ける。
無駄に文字数を稼ぎたい時は、この時間帯に作業をするのがいい。
物語を書くなら、平日午後三時ごろがいい。
子供たちが家に帰ってゆく姿を見ながら書く文章は、どこか幼い日々を思い出させる。
自分しか知らない物語をそっと文章に忍ばせると、ほんの少しだけ満足できる。
文章を書くなら、食事前がいい。
空腹であればあるほど、食への渇望そのものに集中することができる
腹が満たされた状態では到底思い浮かばない、迫真の文章を書くことができる。
文章を書くなら、夜がいい。
華やかすぎる色が闇に染まる時間帯は、頭の中の色が映える。
自分の文章に自信が持てなくなった時は、夜の力を借りるのが正解だ。
文章を書くなら…、真夜中がいい。
夢の世界が一番賑わっているこの時間、味気ない現実が薄れることで見えてくるものがある。
夢、希望、喜び…、かつて心の中心にあったものを思い出すと、ぬくもりのある文章が書けることもある。
物語を、書くなら…。
眠る前に、書くのがいい。
寝てはダメだ、でも眠い、寝てしまったらマズい、寝てしまう前に何としても仕上げなければ…。
追い込まれて書く文章には、鬼気迫る迫力が備わる。
ただ……、眠くなるから、寝てしまうから、途中までしか書けないのが、残念だ。
眠ってしまえば、文章を書くことはできない。
夢の中で文章を書いたとて、現実に持ち出すことなど…できるはずもないのだ。
……もう、寝てしまったんだから、仕方が、ない。
私は、文章を書くことをやめ。
夢の世界で、自由気ままに…遊び惚けることにした。