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第43話 勇者パーティの荷物持ち

「よお、パロミデス。なぁんか、変な話が聞こえたような気がしたんだけどよぉ。俺の聞き間違いだよなぁ? お前、自分から望んでこのゴーダ様の奴隷になったよなぁ? 本当は嫌だったとか……俺の聞き間違いだよなぁ!!!」


 空から降ってきたゴリラ男は、その武骨な手でパロミデスの髪を掴み――その顔を勢いよく石畳に押さえつける。


「ぐぅっ!」

「悲しい、悲しいなぁ……悲しくて涙が出て来るぜぇぇぇ」


 余程強い力が込められているのか、パロミデスの絶世とも言える美しい相貌そうぼうが圧迫され歪む。

 苦悶の表情を浮かべるパロミデスを見下しながら、男はおいおいと演劇じみた涙を流す。


「俺はよぉ。俺を好きって言ってくれる女のお願いしか、聞きたくないわけよ。俺を愛してくれる女の国じゃなかったら、こんな国、滅んでも良いとか思っちゃうわけよ~」


 あのムカつくゴリラ顔。神経を逆撫でる気色悪い声。

 服装はずいぶんと変わっているが、間違いない。

 俺を騙して犬の餌にした張本人――ゴーダの糞野郎だ。


「パロミデス。俺はお前のこと本気で大事にしてるからよぉ~。この純愛が、もし裏切られでもしたらって想像するだけで…………こんな世界、いらねえとか思っちゃうわけよ」


 純愛とか、ゴリラが何をふざけたことを言ってやがる。

 だが、ゴリラの機嫌を損ねたことが、そんなに恐ろしいのか、パロミデスの顔が真っ青になる。


「なぁ、なぁ、なぁなぁなぁなぁなぁなぁ、お前、俺のこと愛してるんじゃなかったっけかぁぁぁぁあああああああ!?」

「っぐぅ……」

「土下座で、宣言してくれたじゃねえか。貴女のことを愛しています、私はどんな扱いを受けても構いません、一生身も心もゴーダ様に捧げます、だからどうか国を、国民をお救い下さい――って」

「お、お許しください……ゴーダ様」


 押さえつけながらもなんとか声を絞り出すパロミデス。

 だが、ゴーダの腕には更なる力が加わる。


「許すとか許さないとか、そーじゃない。そーんな話はしてなくねえか? お前の、俺への、愛が、真実か? それとも嘘か? そーいう話をしてんだよ。分かる? でも、もう答えは出てんのかなあー、さっき言ってたもんなぁ」

「そ、それは……」

「無理やり言うことを聞かされてるとかなんとか言ってたなぁ……じゃあ、やっぱり俺のこと愛してるって、あれ嘘だったってことだよなぁ?」


 そして、声にならない謝罪を繰り返すパロミデスを見下しながら、ゴーダは信じられない言葉を繰り出した。


「俺様に――〝勇者〟であるこのゴーダ様に、嘘を吐いて魔王と戦わせようとしたわけだ? この性悪女が!」 


 勇者……? あのゴリラ、今自分のことを勇者って言いやがったのか!?


「慈善事業じゃねえんだよ。こっちだって命がけで戦わなきゃいけねえんだよ。本当は嫌なんだよ、怖いんだよぉ~。魔王と戦うなんてさぁ。でもよぉ、愛する俺の女の願いだって言うから聞き入れてやってんのに、ショックだなぁ。パロミデス。お前の俺様への愛は嘘だったのかぁ」

「違います、違います。違うんです。愛してます、愛してます愛してます」


 痛々しい、見ていられないほどの心の底からの嘘。

 だが、意図してか、たかぶっているからか、パロミデスの言葉はまるで耳に入っていないかのように、なげきながら笑うゴーダ。


「だったらもういいか。この国。人間も終わっても。――くはは、それはそれで楽しみだなぁパロミデス。お前のせいで人間が皆殺しになる光景がよぉ」


 ゴーダはパロミデスの頭から手を放し、その身体を思い切り蹴り上げる。

 あまりの苦痛に、身体を苦の字に折り曲げせき込むパロミデス。そんな彼女を見下しながら、ゴーダは何か思いついたように今度は機嫌よく笑う。


「そうだ、お前だけには見せてやるよ、人間全てが魔物に殺され尽くす様を、死に絶えていく地獄を!」

「お願いです、勇者様。どうか……人類をお救い下さい……私はあなたを……愛して――」

「声が小さくて聞こえねえよ!!!!!!」


 パロミデスの心を打ち砕くことが目的としか思えない怒声。

 小さな子供のように震えながら、嫌悪の愛を口にし続けるパロミデスの姿。

 その光景を前に脳みそがざわつく。

 氷の嫌悪で全身に鳥肌が立つ。


 確かに俺はあのお姫様に騙されていたのかもしれない。

 けど……俺だってさすがに馬鹿じゃない。この状況から大体のことは察することが出来る。

 

「俺様以外の人間が滅んでも、勇者の力、そしてこの聖剣アークさえあれば、俺はどこででも好きに生きていけるからなぁ」


 ゴーダが背中の両手剣を抜く。

 美しい白銀の両手剣――だというのに、ゴーダが持っているだけで、忌々しい悪魔の剣にさえ見えてくる。


 醜いゴリラ男が持つ、神々しい聖剣。

 そのアンバランスな姿に、思考がバグりそうになる。

 だが、その静まり返った空気を、一人の少女が切り裂いた。


「どうして……どうしてお前が、聖剣アークを持っているのですか……それは、それは姉さまの剣です!!!」


 そう叫んだのは、ずっと黙り込んでいたクルリだった。

 クルリの表情は驚愕と絶望に包まれていて……だがそれでも、その視線はゴーダを真っすぐに見据えている。


「あ……? あんだ、てめぇ……ん? んああ、まさかお前。もしかしてマリベルの……」


 マリベル? マリベルって……確かエルフの、亡くなった先代勇者の名前じゃ……。クルリと先代勇者が何だって言うんだ? 


 何かに気付いたゴーダは薄ら笑いを受けべながら、クルリにゆっくり近づく。

 そして、その手に持った剣の切っ先で、クルリのフードを斬り上げる。


「――やっぱりな、てめぇ、あの糞エルフの妹か……」


 フードの下から出てきたのは、相も変わらず美し過ぎる挑発的な美少女。

 そして、それまでフードに隠れて見えていなかった彼女の両耳。

 普通の人間とは違う、特徴的な尖った耳。


「クルリ、お前エルフだったのか……」


 言われてみれば、クルリが聖職者のフードを外すところ、一回も見たことがなかった。


「ツクモさん、今まで黙っていてすみませんでした。でも……今はそんな事より……」


 クルリがゴーダを睨みつける。

 ゴーダも同様に、何か忌々しいモノでも見るかのようにクルリを一瞥する。


「クルリ……お前、このゴリラと知り合いなのか?」


 俺の言葉に無言でうなずいたクルリは、ゆっくりと空気を吸い込んだ後、重々しく口を開いた。


「この男、ゴーダは――マリベル姉さまの、勇者パーティの荷物持ちだった男です!」


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