第28話 な、なんて酷いことするのぉォォォ
俺の命を交渉材料とした人異の契約は、あっけなくヴリトラに振られてしまった。
しかも、土壇場になってロッテがヴリトラに勝てないかも、とか言い出す始末だ。
今のところ、ヴリトラに不穏な動きは見られない。
だが、生贄にされた女の子たちが何人も帰ってきていない事実を思えば、いつヴリトラが牙を剥くか分からない。
次の瞬間には、最強のドラゴンブレスとやらで骨も残らないかも知れないのだ。
「これって、どえらいピンチなんじゃ……」
考えろ。考えるんだ!
小学校の頃、図書室にあった横山〇輝、三国志を全巻読破した俺の軍師脳よ、目覚めるなら今だぞ!
目覚めるよね? 目覚めて欲しいな、切実に!!!
……。
…………。
「よし、プランBに変更だ」
「ぷらんB?」
「おお、さすがツクモ様です! 別のプランを用意していたとはいつの間に!」
大袈裟に喜ぶクルリ。
いつの間にって言われると、今思いついただけなんだが……それは黙っておこう。
「ロッテ、クルリ。今から作戦を伝える。お前らは俺の合図で動け、分かったな」
神妙な面持ちで頷く二人に、俺は作戦を伝える。
「──そんなので上手くいくの? っていうか、私、正直やりたくないんだけど……」
「クルリもちょっと……」
「うるさい黙れ、そしてやれ。じゃないとみんな死ぬぞ」
――というわけで作戦開始だ。
まずはヴリトラに、出来るだけ大量の酒を呑ませる。
「あの、お茶会も良いですけど、捧げもののお酒もどうですか? リリア、ヴリトラ様が、か~~~っこよくお酒を呑むところ見てみたいなぁ~」
「お酒は……その……」
「私、ヴリトラ様と一緒にお酒飲みたいな~」
「……わかった」
なんか結構強引だった気がするが、酒を勧めることには成功したらしい。
つか、この邪竜押しに弱い?
見た目陰キャだし、押しに弱いという陰キャの特性は引き継いでいるのかもしれん。
「おー、さすがいい飲みっぷりですね~。あれ、でも~ごちそうさまが聞こえない。 それっ!」
「え、また? わ、私より、きみも……」
「あ、私ですか? 私はこっちのエールを頂きますね。ヴリトラ様は、引き続き、こちらのエトラス自慢の最高級地酒をどうぞ~」
「うう……」
最初は難色を示していたが、勧めるままに酒を煽るヴリトラ。
スタイル抜群の黒髪美女が酒を煽る姿は、何とも言えないほど絵になる。
そんなこんなで、ヴリトラが一升瓶を飲み干した頃――。
「あ、もうカラですね。じゃ、お代わりでも……」
と立ち上がった瞬間、俺も少し酔っていたのだろう。
足がもつれて転んでしまう。
テーブルの上のつまみはこぼれ、手に持った一升瓶は床に転がり――俺の三つ編みカツラは宙へと飛んだ。
「あ、やべ……」
「……お、お、お、男……だったの?」
それまでずっと無表情だったヴリトラが明らかに豹変する。
怒りよりも暗い絶望を滲ませ、その握力で分厚いテーブルを粉砕する。
「騙した……騙したのね……」
わなわなと震えるヴリトラ。
だが、ここまで来てもう引くわけにはいかない。
「うるせえ! 街の女の子達をそう何人もお前なんかに食わせるわけにゃいかねえんだよ!」
「許さない。私が、この日をどれだけ待ち望んで……男が、男なんかが、それを台無しに――」
ヴリトラの全身から黒い魔力が立ち上る。
「うおっ!」
その脅威に全身の毛が逆立つのを感じる。
生物としての本能が、目の前のソレは触れてはいけないモノだと警鐘を鳴らす。
「しねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしね」
呪文のように繰り返すヴリトラ。
その漆黒の瞳はこちらを見ているようで、何も見ていない。
「は、ははは、キレた陰キャほど怖いものはねーな」
思わず笑いがこぼれる。
目の前の〝死〟に恐怖を感じる機能すらマヒしたようだ。
このままでは俺の身体はヴリトラの牙で紙屑のようにズタズタにされてしまうだろう。
――だが、
「男はキライ、シネ、死ね。絶対に許さな…………う……ぐぁ……なにコレ…………と、トイレ……行きたい」
突如として襲ってきた尿意に困惑しながら下腹部を抑えるヴリトラ。
「ふふふ、ふははははは。やっと効いてきたようだな!」
「効いてきたって……な、何が……?」
驚き戸惑うヴリトラに俺様が直々に教えてやる。
「お前が散々飲んだ酒にはロッテ特製の毒がたっぷり入っていたのだ!」
「毒……って…………いったい何の……」
「超強力、利尿剤だ」
「…………」
「……ほんの数ミリグラムで、象ですら脱水症状を起こすウルトラハイパー利尿剤だそうだ」
「…………な、なんて酷いことするのぉォォォ」




