第三十八話 アントン・カスケードの愚行 終?
僕がミーシャの愛しい人間に災いをもたらせた元凶?
何のことかはまったく分からなかったが、その中でも1つだけ明確にわかったことがあった。
それは、ここにいては異形のモノとなったミーシャに殺されるということ。
なので僕はパンツ1枚の姿など関係なく、全力で両足を動かしてその場から逃げ出した。
ミーシャのいない通路のほうへと向かい、「助けてくれ!」と大声でわめき散らしながら階下に行くための階段を目指していく。
やがて辿り着いた階段から下の階へと降りたあとも、僕は恥も外聞もかなぐり捨てて助けを求めた。
その僕の悲鳴に近い声を聞いて、遠くから武装した衛士たちが駆け寄ってくる。
おお……助かった。
「ご無事ですか、アントン陛下!」
衛士の1人が僕に話しかけてくる。
僕は衛士たちを見回したが、武装した衛士たちに異常は見られない。
全員ともまともな状態であり、しかも長剣を抜いて臨戦態勢を整えていた。
となると、この衛士たちに命令することは決まっている。
「ミーシャだ! 化け物になったミーシャが上にいる!」
と、僕がリーダー格の男に詳しく事情を話そうとしたときだ。
衛士たちから絶叫が響き渡った。
衛士たちは僕の後方を見つめながら驚愕している。
僕は条件反射的に顔だけを振り向かせた。
ミーシャだ。
異形のモノになったミーシャが、僕を追いかけてここまでやってきたのだ。
「こ、殺せ! あいつはもうミーシャじゃない! ただの化け物だ!」
僕の命令にハッとした衛士たちは、一斉にミーシャに襲いかかった。
衛士たちは全部で10人。
しかも今は鎧や長剣を携えた完全武装した状態である。
ならば、化け物となったミーシャを倒してくれるはず。
という僕の希望は簡単に打ち砕かれた。
異形のモノとなったミーシャは、背中の翼を長大な鎌のように使って完全武装した衛士たちを次々に斬殺していったのだ。
「ひぎゃああああああああああああ――――ッ!」
恐怖が頂点に達した僕は喉が張り裂けるほど叫んだ。
一方、瞬く間に10人の衛士たちを殺したミーシャは、ビチャビチャと大量の返り血を滴らせながら僕に歩み寄ってくる。
こ、殺される!
殺されてしまう!
僕の人間としての本能が教えてくれた。
このままでは僕も殺される。
あの衛士たちのように、刃物のような蝙蝠の翼でバラバラに切り刻まれて――。
嫌だ!
こんなところで死にたくなくない!
まだまだやりたいことが山のようにあるんだ!
僕は涙や汗、鼻水や涎を垂れ流して走り続ける。
死にたくない!
絶対に死にたくない!
「死んでたまるかあああああああああああ――――ッ!」
僕は発狂しながら駆け出した。
走って走って走り続け、1階の大ホールに続く大階段へ辿り着いたときだ。
ガシッ!
後ろから何かに身体をがっちりと拘束された。
「いいえ、あなたはここで死ぬんですよ」
耳元で囁いたのは、異形のモノとなったミーシャだ。
「わたしの愛しいアルベルトを辺境に派遣したんですから」
異形のモノとなったミーシャは、万力のような力で僕の身体を締めつけてくる。
「ただ、どのみちあなたは殺す予定でした。特別に調合した薬でね……しかし、そんなことをせずともわたしは力を手に入れた。〈防国姫〉なんかよりも素晴らしく、カスケード王国の王妃よりも強力な力。余計な策や労力を費やさずとも、簡単に自分の我がままを貫ける生物としての究極の力を」
「一体、何を言って――」
いるんだ、という僕の言葉は続かなかった。
ズンッ!
突如、僕の背中から腹部にかけて異様な衝撃音とともに激痛が走る。
同時に限界まで熱した鉄棒で貫かれたような感触を味わった。
「ぐわああああああああああああああ――――ッ!」
それは今までの人生で味わったことのない極限の苦痛だった。
やがて僕の口内から大量の血があふれ出てくる。
そんな中、僕はおそるおそる顔を下に向けた。
僕の腹部からは蝙蝠の翼の先端が生え出ている。
「グボッ!」
僕は口内から出てくる血泡に溺れそうになりながら、必死に顔だけを動かして後方を見る。
そこにいたのは、ミーシャの姿をしたミーシャではない何か――。
「あはははははははッ! 死ねよ、豚野郎! わたしの愛しいアルベルトを危険に晒した報いを受けろ!」
ミーシャの姿をした何かの口から漏れ出る意味不明な言葉。
そんな言葉を耳にしながら、僕の意識はどんどんと闇の奥へと落ちていく。
こんなところで……僕は死ぬのか……僕はカスケード王国の……。
やがて俺の意識は完全に闇の奥へと落ちていった。
暗くて冷たい、2度と日の光が拝めない深い深い闇の奥底へと――。
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