リケジョになりたい
この物語は 黒楓作『シナモンロールには齧らせない』
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の後日談です。
丸い窓と四角い窓の両方にピンクのラインが出た。
恐れていた検査なのに、一粒だけ!その結果を肯定する涙が浮かんだ。
あとは悲嘆にくれたけれど。
“愛する男”の子を宿す。
そんな幸福な立ち位置から明らかに隔絶している今の私のこの感情……
すぐに自らの手でこの感情の“芽”を摘み取ってしまったけれど、何かの分析器に掛ける事ができるのなら……“メス”としての本能の断層を垣間見れたのかもしれない。
“仮定”が重なってしまった。
こんな事に時間を浪費するのではなく、逃げている私の意識を引き戻して、これからの事を考えなくてはならない。
年内に何とかしなくてはいけない。共通テストまであとひと月しかないのだ!!
だからこそ、期末テストの最終日、誰も家に居ない今、検査したのだから。
今日の午後、まず病院に行って……
それから……
それから……
やはり朝陽くんには言わなくては……
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妹の結菜と朝陽くんの『数学の交換日記』に結菜の代筆をしていた私は、あの夏の暑い夜、そのノートに自分のヌードイラストを描いてメアドの付箋をくっ付けた。
その交換日記を朝陽くんの家のポストに投函して以来、肌身離さずで……トイレの中にまで持ち込んだ私のスマホは夕餉の手伝いをしているエプロンの中で震えた。
ちょうど結菜がイン〇タか●ik●okに捕まっている時に……
翌日、カレと結菜が通っている中学校の門を……カレは体操服、私は高校の制服でくぐった。
日も高く昇り、部活にも暑すぎる時間だ。グランドにさえ人影は無く、時折吹き抜ける熱い風が砂埃を巻き上げている。
ああ、学校のにおいだ……
私は……自分だってJKの端くれのくせに、照れくさく『青春』って言葉を脳裏に浮かべる。
「誰も居ないんだったら“きょうだい”のフリなんかしなきゃよかった!」
「誰も居ないなんて事は無いわよ! 朝陽くんのお友達や先生に出くわしたら説明に困るでしょ!」
「それはそうだけど……」
少しふてくされるカレの横顔……可愛いけど首筋から肩が男らしさを帯びていてドキリとさせられる、その胸板の逞しさを予感させる……
「数学、どこでするの?」
「部室!今日は誰も居ないから!」
そう言ってカレは、手の中のタグ付きの鍵を私に見せた。
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地厚の白いカーテンを引いたままの部室の中は、照り付ける太陽に燻されていて『男子の溜まり場』を彷彿とするニオイが染み出している。
でも、二人とも「窓を開けよう」なんて言わなかった。
気持ち良く焼けたカレの首筋を伝う汗の軌跡に、まるで宝石にでも触れるかのように伸ばした私の指を……
カレはくすぐったく避けてこう言った。
「もう一度、お姉さんのホクロが見たい!」
「ダメ!!」
と私は首を振る。
だけど、あからさまにしょんぼりするカレがどうにも愛おしくなってしまい、節度や決意は容易に崩れる。
「名前で呼んでくれなきゃ……だめ……」
黒く淀むオスたちのカオスの中にポトリと落ちた赤いメス……その仕儀はどうなるのか?……
汗に濡れた学校指定の……どちらかと言えばゴワッっとしている僅かにピンクがかったシャツのボタンをひとつひとつ外しながら、そんな事を考えていた私だった。
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部室ではその一回きりだったけど、私はカレに求められるままに体を開いた。
それは私も欲する事だったから。
いつも待ち合わせに使っていた終着駅のホームにあるベンチに今日も二人腰掛ける。
いつもの様にお互いのスクールピーコートのポケットに手を入れ合ってお互いを“確かめる”
けれどもカレの手がポケットを離れて……指がボタンに触れた時、私は反射的に身をよじった。
なぜだろう??
“お腹の中”を守りたいなんて微塵も無い筈!!
ひょっとして……既に汚れてしまった私に触れさせたく無い??
分からない……
「ゴメン!寒いもんね」
カレの当て外れの気遣いに私はただ首を振る。
ここからはいつものコース。
駅からその“奇抜な外装”が見える“寝床”へ……二人手を繋ぎ、寄り縋って歩いて行くだけだ。
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すっかり慣れてしまったカレがペランペランのバスローブを羽織り首にタオルを引っ掛けて出て来た。
そしてそのカレの……高い鼻を谷間に咥えて、私の胸はカレのデスマスクになる。
「デキたの私……」
「えっ?!」
私の胸に摘ままれてカレは鼻声だ。
「何が?!」
私はため息とともに言葉を吐き出す。
「そんなの決まってるじゃない!」
カレは勢いよく顔を上げ、私はすんでのところで顎と鼻先をぶつけそうになった。
「それって!!!」
「そう!!物じゃない何かよ!」
「あの…」
明らかに動揺しているカレはドギマギと私を窺う。
「……産むの?」
「そんな事、できるわけないじゃない!!」
ああ、カレの顔……ホッとしている。
仕方のない事だ。
もし私がカレだったら
カレの立場だったら
どうせそう思うのだろうから。
「あなたは何も心配しなくていいよ。何もかも段取りは済んで、明日ですべて終わるから」
「それって……」
消え入りそうなカレに私は笑顔で応える。
「だから本当は今日、しちゃいけないんだろうけど……これを最後にしよ! どのみち私もあなたも受験でしょ! いい潮時だよ」
カレの目からはらはらと涙が落ちる。
それがどんな涙だっていい!!
涙を流すカレはやっぱり可愛い。
可愛いからこそ!!既に汚れてしまった私のカラダで抱いてあげる。
それがあなたへのささやかな復讐……
そう!
ホント笑っちゃうくらい簡単に稼げた。
『JK』ってやっぱ凄い!!
こういう“辻褄合わせ”をまさか自分がやる事になるとは思ってもみなかったけれど。
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『4日間の受験対策合宿へ行く』
親にはそう言って私はキャリーバッグに荷物を詰めている。
荷物と言っても大半は問題集とか参考書で…病院からそのままタクシーでホテルに直行はするけど、できればすぐにでも受験勉強に取り掛かりたい。
だって、そうでもしなくては『拠り所になるもの』が私には何も無くなってしまう!!
「あとお気に入りの“3イン1ドライヤー”を…」
“アメニティセット”を入れている籠に目をやると中にはドライヤーが無い。
「結菜ったら!また勝手に持って行って!」
主の留守中に部屋に入るのは躊躇われたが、元々は結菜が勝手に持って行ったドライヤーだ。返してもらうのが筋だ。
結菜の部屋のドアをガシャ!と開けると中に結菜が居て、思いっ切り叫ばれた。
いつの間に帰って来たのか、今買って来たばかりであろう可愛らしいブラを鏡の前で試着していたのだ。
「勝手に人の!!!」
物凄い剣幕でにじり寄って来た結菜に私は大きくため息をついた。
「なんでそんなに可愛いの?!」
私のこの反応に結菜は拍子抜けしてしまったらしい。私の目の前にペタリと座った。
「かわいい?」
「うん、とっても」
「エヘヘヘ 冬休みになったら朝陽くんと遊びに行くんだ」
「そうなんだ。でも上に着込んじゃうから“魅せ”ブラにはならないね」
「いーんだもん! どーせ私はおねーちゃんみたいな“物量”はないんだから!」
「ひどっ! なんか私の事、ディスってない?」
「羨ましいから妬いてるの!」
こうやって話をしていると結菜の事をどんどん可愛らしく思ってしまう。
でも自分の部屋に戻って“旅支度”を目の前にすると……
明日、病院からホテルに入って、このキャリーバッグを開ける私はどうなっているのだろう?……
朝陽くんを恨んで、結菜への嫉妬に狂っているのだろうか?
でも結菜も、私と同じ目に遭いかねない……そう、カレはサカると見境ないから……
『同じ苦しみを味わえ!!』と念じてしまうのだろうか?
でも、サカるカレを“許して”しまった私自身も見境が無かったのだ。
そして結菜は私とは違って賢く切り抜けるかもしれない。
それともカレの方が、“私との事”で懲りて、いちいち着けるようになるのかもしれない。
そんな事をされたら、耳にしたら……
私の心は燃え狂うのだろう、でも悔しいから絶対顔には出さないで
呪いの呪文などを唱え出すのかもしれない。
ああ嫌だ!いやだ!イヤだ!!
オンナは嫌だ!!
女なんか本当に嫌だ!!
カラダが……感情が……こんな風に思考へ流れ込んでしまい“日常”を支配するなんて!!
私は感情が流れ込む余地が無い“日常”を手にしたい!!
こんな事で心が振れてしまわない様に……
だから私は……
“リケジョ”になりたい!!
どこかのマンガのセリフではございませんが『またこんなものを書いてしまいました』(T_T)
今度こそ!今度こそ!!
可愛いお話を書きたい!!!(/_;)
でも
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