種明かし
ここ、アケロニア王国は魔法魔術大国と呼ばれている。
それだけあって、魔力使いの格別多い国としても知られていた。
特に魔力が多く強いのは王侯貴族だ。
魔力が高い者同士で子孫を作るから必然的に高位貴族ほど力が強い。
もっとも、近年では医学や生物学が発達して近親婚の弊害が知られてきたため、あからさまな魔力目当ての政略婚は減ってきている。
その日の魔法学の授業は隣のB組との合同だった。
入学後、最初の一ヶ月で基礎理論を学び、今日は生徒各自が習った基礎を元に開発した魔法を発表することになっている。
もちろん、新たな魔法を一から作り上げるのは容易ではない。
あらかじめ課題をこなすことができた、優秀な一握りの生徒たちだけが発表する。
発表後は各生徒の成果をディスカッションするのが授業の主な目的である。
A組からは五名、B組からは三名。
そのうちの一人にオネストは入っている。自信がないので最後にしてくれと魔法の教師に頼んで許可が得られたので、発表順を待つ列の一番後ろにいた。
「次、A組のオネスト・グロリオーサ」
「はい」
ついにオネストの番がやってきた。
心臓がばくばくと激しく脈打っていて、うるさい。
「……ぼ、ぼくが作った術は、悪意には悪意を、善意には善意を返す術です」
しん、と講義室の中が静まり返った。
彼の前の七人の発表者はすべて、物理的な効果を持つ魔法もしくは魔術ばかりだったから、いきなり毛色の違う術を語られて面食らったのだ。
「グロリオーサ君。具体的にはどのような現象になるのかね?」
魔法授業の教師である初老の男性が訊ねてきた。
「……はい。ちょうどぼくはこの学園内で他者からの悪意を受けていたので、対象者に返す悪意として、彼らの食事が残飯に入れ替わるよう設定しました」
「残飯? まさかここ最近、原因不明の不快な現象が発生していると聞いていたが、君が元凶だったのか?」
「……元凶、とのお言葉には同意しかねます。対象者たちがぼくに悪意を向けなければ、ぼくだって考えもしなかったことですから」
オネストは黒板に術の構造式を簡素化し、わかりやすくしたものを記入していった。
「ぼくに直接悪意を持って実害を与えてきた者は六名。ぼくの術は彼らにのみ反映されるはずでしたが、彼らは更に悪意を重ねてぼくの悪評を学内でばら撒いた。被害が拡大したのはそのせいでしょうね」
「待った、待つんだグロリオーサ君。授業はここまで、解散して教室に戻るように。指示があるまで教室を出てはならない!」
急遽、魔法の授業は取り止めとなり、魔法学の教師が早急に学園長に報告する事態となった。
渦中の人物オネストは、学園長のエルフィン、担任、そして魔法学の教師に事情聴取されることに。
そこに異を唱えたのはオネストのクラスメイトたち、A組の生徒たちだ。
「私たちはそもそも、オネスト君への担任教師の態度に不満を持っております。ゆえに彼一人が詰問されることに納得しません。私たちクラスメイト全員の同席を求めます」
クラスメイトたちもオネストを巡る状況を把握したかったのだ。
何せ最優秀クラスのA組に在籍しているのに、オネストは入学から日数が経っても周りとほとんど馴染んでいないし、態度も卑屈で縮こまったまま。
学園内で見かけると他の生徒から嫌がらせを受けているのは明らかだったし、宰相令息のはずの彼がなぜ、の疑問がある。
その訴えは学園長エルフィンに認められ、関係者とA組の生徒たちは会議室で事情聴取を受けることになった。
A組の生徒たちが会議室で待っていると、学園長を始めとした教員たちと、彼らに連れられて他クラスの数名の生徒が姿を表した。
(ねえボナンザ君。彼らって)
(入学式のとき、オネスト君の親戚だって言ってた奴らだな)
学園内で率先してオネストに嫌がらせをしていた、オネストの親戚のグロリオーサ侯爵家の分家子息たち四名だった。