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子爵少年ルシウスLEGEND  作者: 真義あさひ
呪師の末裔
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嫌がらせに気づいた二人

 今日もまたオネストが食堂に行くと腐った食事が出る。

 わざと食事を汚すのは厨房の配膳係だけだ。彼がいないときには問題がなかったが、そういうときは親戚たちがオネストの席にさりげなさを装って近づいてきて、胡椒や塩をオネストの料理に大量に振りかけてきたりの嫌がらせがある。


 今日は残念ながら例の配膳係だ。

 受け取ったトレーからは危険な臭いがする。


 少し離れた席にいる親戚たちは笑っている。


「………………」


 オネストは暗い目で料理と彼らを見つめた後で、僅かな時間だけ目を閉じた。

 その後、勢いよくトレー上の料理という名の汚物を食べ始め、完食した。

 親戚たちは自分の食事もそっちのけで、オネストを見て嘲笑っている。


「おい、見ろよあれ! 豚のような早食いじゃないか、」


 オネストは彼らを見ず、食べ終えた食器のトレーを返却し、彼らを避けるように遠回りして食堂を出ていった。


 オネストが食堂を出るか出ないかのタイミングで、彼らのうちの一人が「ブフォオッ!?」という食事を噴き出す悲鳴が聞こえたが、聞かなかった振りでそのまま教室へと帰っていくのだった。




◇◇◇




 そんなオネストと親戚たちのやりとりは、騒がしい昼時の食堂では誰も気にしていなかった。


 と思われたが、例外がいたのである。


「どうした? ルシウス君」

「ほら、あれ。オネスト君と、離れた席の彼ら」


 オネストのクラスメイトのリースト子爵ルシウスと、他国からの留学生ボナンザ侯爵ロドリゲスだ。


 それから半月ぐらいそれぞれを観察していると、どうやらオネストの食事だけがおかしいことに気づく。

 ほとんどオネストがランチを食べず、残したまま皿とトレーを下げていることにも気づいた。


「何だあいつ? ダイエットでもしてるのか? 女子かよ」

「ボナンザ君。あれは多分、そんな呑気な話じゃないよ」

「わかってるって」


 数回に一回の割合でオネストが食事を完食することがある。

 そういうときは、彼の親戚だという生徒たちの誰かがランチの食事に怒って文句を言っている。


「ふむ。謎はオネスト君の食事か」


 だいたい何があったかは、観察していれば予想がつく。




 それから数日間、彼らを観察して。

 オネストがトレーを返却するタイミングに合わせて、ルシウスとボナンザは行動を起こした。


 まず、オネストがトレーを持って席を立ったらルシウスがカウンターの食器洗い側のスタッフに話しかけて雑談し、返却所からスタッフの視線を外させる。

 その隙に、ボナンザがオネストが下げた食器をトレーごと回収し、また自分たちがいたテーブルに戻ってくる。


「で、これが彼の食事だったわけだが」

「全然食べてないね。白身魚のムニエルの端っこだけ切れてるけど」


 その食事の何が問題かはすぐわかった。

 ルシウスもボナンザも同じ昼のオススメ定食を注文して食べ終えていたからだ。


 今日のおすすめ定食は白身魚のムニエルの温野菜添え、ソースはバターソースかトマトソースかを選べる。これはバターソースのようだ。

 それに野菜入りのチキンスープ。

 デザートはパンナコッタなるミルクプリンのはずだが、トレーには食べ終えた容器もなかった。


 ムニエルにフォークを刺してみたところ。


「魚、……生じゃね?」

「衣も生焼けだね。バターソースも別物だ。何だろこれ、……あっ、マスタードを水で溶いただけの黄色い液体なんだけど」

「温野菜は生で切れっ端みたいなやつだし。スープには……うえ、髪の毛が入っている」


 しかも一本二本ではない。十本ぐらいごちゃっと丸まったものがスープに沈んでいる。


「とりあえず保存しておくか」


 ボナンザが制服のジャケットと内ポケットからカードサイズの魔導具を取り出して、レンズを食事という名のゴミに向けて魔力を流し撮影した。

 これはカメラという魔導具で、写真なる実物そのまま記録できるものだ。非常に高価だが、現役侯爵の彼なら持っていてもおかしくはない。


「写真もいいけど、これはこのまま保存して証拠にしたほうがいいよね。固めちゃお」

「おっ、魔法樹脂か!」


 ルシウスは両手の中にネオンブルーに輝く魔力を集めた。

 そのまま魔力の塊でゴミに向けて覆うと、瞬時にゴミがトレーごと透明な樹脂に四角く覆われて固まった。

 魔法樹脂と言われる特殊魔法だ。魔力で創った樹脂で物品を保存し、時間経過を止める。術を解かない限り、このゴミは劣化せず保存時の状態をそのまま保てる。


「で、アイテムボックスにぽい」

「お、それもレアスキルじゃん」

「これでも冒険者やってましたから!」


 この世界でアイテムボックスは限られた術者しか持っていない。

 特定の術者からの伝授頼りと言われている。


「あ、昼休み終わっちゃう」

「話はまた放課後にしようぜ」


 気づけば食堂にはもうほとんど生徒がいない。

 明日からの作戦を相談しつつ、二人はAクラスへと戻った。



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