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子爵少年ルシウスLEGEND  作者: 真義あさひ
呪師の末裔
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食堂で受けた嫌がらせ

 グロリオーサ侯爵家の次男オネストが元夫人の不貞の子だとの噂は、入学初日から新入生たちの間を駆け巡ったようだ。


(どうせまた、親戚の子たちが吹聴したんだろう)


 彼らはオネストのグロリオーサ侯爵家の分家出身の子息たちだ。

 中等部までは地方にいたが、高等部では王都に出てきてこの王立学園に入学している。


(今までは親戚の集まりでしか顔を合わせなかったから楽だったけど。学園でもクラスが違うからって安心してたのに)


 オネストは廊下を歩いていて突き刺さる視線や、コソコソとした小さな話し声に溜め息をついた。


 元々、オネストのことはグロリオーサ侯爵家内でも腫れ物のような扱いだった。

 何せ産まれたときから不貞の子との噂付き。

 噂を父親のユーゴス宰相が放置していることから、オネストは幼い頃からずっと、一族の子息たちから差別やいじめを受け続けてきた。


(でも、それも学園を卒業するまでだ)


 今はまだ未成年だから、侯爵令息の自分は家の保護下にいるしかない。

 だがこのアケロニア王国では学園を卒業する十八歳になれば成人と認められる。

 そうなったら自分の意思でグロリオーサ侯爵家から籍を抜いて実家を出て、父や兄とは縁を切るつもりでいる。


(そのためには就職活動に有利になるよう成績優秀でいないと)


 王宮の官僚や職員になるつもりはなかった。

 何せ父親が現役宰相なので、どの部署に配属されても上司になってしまう。

 他の貴族家の家令など使用人も駄目だ。できたら貴族社会ではなく、各種ギルドや民間の商会への就職がいい。




 そんな計画を立てていたオネストの目論見は、入学翌日から早くも暗雲が立ち込めた。


 昼休みに食堂へ行くと、例の親戚の子息たち数名が既にいて、オネストを見つけるとニヤニヤと気持ちの悪い顔つきでこちらを見ている。

 しかも何か厨房スタッフに向けて、オネストを示して何か指示を出しているようだ。


 嫌な予感がする。

 そしてその予感は的中した。


 注文した定食は、なぜか湯気が立っていない。

 この時点で声を上げて厨房に突き返せば良かったのだが、後悔先に立たず。

 今朝もオネストは家で食事がなかったので空腹だった。学園での昼食代は学費に含まれているから、ほとんど小遣いが手に入らないオネストにはとても助かる場所だった。

 そのせいで危機回避が疎かになってしまった。


「………………」


 出てきた昼食はとても食べられるような代物ではなかった。

 すべて冷めているし、腐った食材や汚されたパン、スープ。味のない豚肉。


(まさか、厨房のスタッフにこれを出すよう指示したのか? 仮にも誉れ高き宰相家のグロリオーサ侯爵家の係累が?)


 ちら、と少し離れたテーブル席に固まっている親戚たちを見ると、やはりニヤニヤと笑ってオネストを見ていた。


 無言のまま、次に厨房の方をみた。

 ほとんどのスタッフは昼時で忙しく動いていたが、カウンター側に立ってトレーやナイフフォークなどを配膳する若い男性スタッフが、これまたニヤニヤとオネストを見ている。

 なるほど、あの男が親戚たちとグルなわけだ。顔を覚えておこう、とオネストは思った。


(彼が親戚の子たちにぼくのことを何と聞かされて、こんな真似をするよう言われたかは想像がつく。でも、こんな愚かなこと、断って、やらない選択もできただろうに)


 あの顔つきでは、むしろ嬉々としてやっていると見た。




 腹は減っていた。

 その上、朝食も食べていなかったが、こんな汚物を食べるぐらいなら死んだほうがマシだ。


 親戚たちが食堂を出るのを待とうと思っていると、彼ら、四人の分家子息たちが自分たちの食事済みのトレーを持ってきて、オネストの食器の上に投げつけるように置いてきた。


 ガチャ、ガチャと大きな音が立ったがもう昼休み終わりが近く食堂ないに利用者の姿は少なかった。皆、気になって一瞬だけこちらを見たがそれだけだ。


 びちゃ、と皿に残っていたソースやスープがオネストの制服のジャケットに跳ねる。


「片付けありがとうございますゥ。ご本家様」

「「「いつもありがとうございまーす!」」」


(そう、〝いつも〟だね。君たちは親族の集まりでも、いつも僕に茶会などの後始末を押し付けていたっけ)


 彼らが食堂から出て行ったことを確認してから、オネストは押し付けられた食器とトレーを慎重に重ねて、まとめて食堂の食器返却所へ返した。

 返却所付近にいた食堂スタッフが、汁気がぐちゃぐちゃに飛んだ重ねられた食器やトレーを受け取る。

 トレーの中の惨状に嫌な顔をされたが、特に文句は言われずに済んだ。下げ物などすぐ洗えば関係ないからだろう。


「入学翌日からこんなんじゃ……」


 食堂を出て、汁で汚れたジャケットを洗えそうな水道場を探して呟いた。


「こんな目に遭うなら。ぼくなんて、産まなければよかったんだ」


 顔も知らない母親に毒づいた。


 オネストの学園生活はこうして暗く始まったのである。




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