入学初日は自己紹介から
入学式の後はクラス発表があり、講堂から指定された教室へ移動した。
ここ、アケロニア王国の王立学園高等部は一クラス三十名前後でAからEまで五クラスある。
ルシウスと、ピンク肌で大柄な生徒は同じクラスだと判明した。最も成績の良い者たちが在籍するA組だ。
教室ではまず担任から入学の祝いの言葉を頂戴し、学園内での注意事項の説明の後で生徒全員が黒板の前に出て自己紹介することになった。
「どうも皆さん、南のカサンドリア王国から留学に来たボナンザ侯爵ロドリゲスです。我が家は当主全員同じ名前でつまらないので、気軽に家名のボナンザ君と呼んでくれたら嬉しいな」
低い声なのに独特の軽やかなリズムがあって、聴きやすい声をしていた。
家名で呼んだらそれこそ一族皆同じ名前になるのでは? と思うが、どうやら彼は家名を印象付けたいらしい。
見た目はまんま、ピンク肌の豚、いやオークだ。潰れた丸い鼻などまさに。
帽子を取った頭部にも黒い毛がちょこっと生えているだけ。
まだ十六歳のはずだが既に二メートル近い巨躯で、肥満体だから前後にも横にも幅と厚みがある。
「こんな外見ですが種族は人間です。モンスターじゃありません。仲良くしてください」
自分で言うか!? と教室内は担任も含めて大爆笑だ。
もっとも、ルシウスを始めとしたクラスの数割はボナンザの自虐ネタに反応せず静観していたが。
(人の外見を笑っちゃいけませんって、マナーや社交術の基本だって習ったけどなあ)
席に戻る際、ボナンザと目が合ったので、ひらひらと手を振った後、ニヤッと笑ってコツンと拳を互いに合わせた。
巨躯のボナンザと、年齢より発育がだいぶ遅いルシウスとでは野球のグローブと赤ん坊の手ほどの差がある。
「次だろ?」
「うん」
ルシウスが教壇の前に立つ。
今日入学したものは皆、今年十六歳の青少年たちだ。
だが彼の外見はどう見ても十二歳ほど。身長もその年頃の少年ほどしかない。
何より青銀の髪と湖面の水色の瞳の彼はとても麗しく美しい外見を持っていた。
クラス中が食い入るように見つめている。
「リースト子爵のルシウスです。父から爵位を譲られたばかりの新米子爵だよ、よろしくね!」
教室全体から歓声が上がる。
「ね、ねえ! ルシウス君ってSランク冒険者って本当?」
「本当だよ。つい最近まで国の任務でゼクセリア共和国に派遣されてたんだ。そのときSランクまで昇格したんだよ」
既にちょっとしたアイドル状態のルシウスだ。外見が麗しく愛らしいこともあって、生徒たちは男女問わず、ポーッと見惚れている。
まだまだ質問したがる生徒たちを、小太りな中年の女性担任が宥めた。
「今回、最優秀クラスのA組には既に爵位を継いだ方が三名在籍します。他の皆さんも学ぶことが多いでしょう。互いに積極的に交流してくださいね」
そして三人目の爵位持ちは何と女子生徒だった。
「ゴーディン女伯爵デルフィナよ。父が亡くなってしまって、幼い弟が成人するまでの代理だけどね。よろしく」
長い金髪を巻き毛にした、まだ十代半ばなのに胸元の豊満なゴージャスな美少女だ。青い目も自信たっぷりに輝いていて魅力的だった。
クラスの男子たちから歓声が上がっている。この年頃の男はわかりやすい元気な女の子がすきなのた。
最後に前に立ったのは、ルシウスとどっこいどっこいの小柄な生徒だった。
冷たい色味のない銀髪で、前髪が長くて目元が隠れているせいで表情がよくわからない。
猫背ぎみで声も小さく、とても緊張しているのが誰の目からもわかった。
「……グロリオーサ侯爵家のオネストです」
それだけ言ってすぐ自分の席に戻ってしまった。
(あ。今朝ぶつかったお詫びにチョコあげた子だ!)
ということは、彼が今朝、入学式のとき何人かの意地の悪い生徒たちが言ってた宰相の〝冷遇されてる次男〟なわけだ。
現宰相は何かとルシウスのリースト伯爵家、正確にはルシウスの父メガエリス前伯爵と因縁のある男だ。
学生時代の同級生で一応は友人同士と聞いているが、仲は良くない。そしてその原因は宰相側にある。
先王、現王に仕える大変有能な男だったが、とあることでは残念男に成り下がることで有名な人物でもある。
ちなみにルシウスはあまり好きな人物ではない。