オネストのその後
「ってなわけで、オネスト君は卒業後はグレイシア王太女様の部下決定ね」
「え? そんな、勝手に決められても」
オネストは宰相の父に何も期待していない。
ゆえに、その上司である国王たちへの尊敬の念もなかった。
……持つだけの機会が得られなかったともいう。
卒業後は民間に就職するつもりだった。
実家のグロリオーサ侯爵家どころか、貴族社会からも離れる気でいたぐらいだ。
「ちなみに僕も同じ。聖剣持ちに下手な仕事はさせられないからって、王家の相談役兼グレイシア様の何でも屋になりそう」
「やります。ルシウス様と同じ職場なんてサイコーですから!」
食い気味に了解したオネストには放課後、王家からの使者が来て神殿に連れて行かれた。
そこでどのような契約を結ばされたか、オネストはその後を語らなかった。
ところでルシウスの予想に反して、オネストはその後、父親との仲を完全修復した。
というより。
『お父様。今日もルシウス様は素敵でした』
『あのメガエリスの息子なのだ。麗しく愛らしく……ああ、私も学園に通いたい!』
そんな会話が日常になったそうだ。
同じリースト一族のファンという共通の話題を見つけて語り合う同士となったと。
なおメガエリスはルシウスの父のことだ。
「宰相のやつ、父様に嫌われてるくせに生意気」
「でも父と話すのに、ルシウス様やお父上の話題しかなくて。ごめんなさい」
「……うん。役に立ってるならまあ、いいけど」
今回の件で、尊敬すべきユーゴス宰相の残念な面が明らかになった。
クラスメイトたちは耳にするたび何かと反応に困っている。
ところでボナンザには気になっていることが一つだけあった。
人目のないところで、こっそりオネストに確認した。
「なあオネスト君。もしかして君、目が悪かったりするかい?」
「……どうしてそう思いました?」
「だって君、ルシウス君のファンクラブを作ったはいいけど、彼の外見のことを話してるとこ、一度も聞かないから」
ルシウスは魔法の大家リースト伯爵家の出身だ。
リースト一族は青みがかった銀髪と、薄いティールカラーを持つ、とても麗しい美貌の持ち主として知られている。ルシウスも例外ではなかった。
学園でも同級生たちは男女問わず、ルシウスを見ては輝くような美形っぷりに毎日はしゃいでいる。
その中にオネストが加わったことはない。
彼がルシウスを褒め称えるのは言動や、特徴的なネオンブルーの魔力のことに限定されていた。
「……色は見えるんです。物の輪郭はボヤけてるかな。ボナンザ君はピンクの塊に見えるよ」
「このブタ顔が見えてないのかー。そりゃ普通に会話してくれるはずだわ」
ボナンザは自分の人間離れした容貌が他人から見て敬遠されることをよく知っている。
現役の侯爵だと周知しているからこそ、クラスメイトたちとも親しくできているのも、よくわかっていた。
そしてオネストは最初に会った頃から現在まで、〝ピンク肌のオークもどき〟の外見のボナンザに対して反応を一切見せていなかった。
「それってやっぱり、家で虐待を受けてたことに関係するのかい?」
「さあ……。物心ついた頃からこうでしたから。幼い頃は暗い部屋に放置されてることが多かったから、そのせいかも」
「………………」
もろに育児放棄の害だった。
「でもその分、人の魔力の感知には長けてるんです。ボナンザ君は三日月みたいに鋭くて、明るいけど暗い。不思議な人だなって思ってました」
詳しく聞いてみると、うんと顔を近づければ教科書の文字もそれなりに読めるそうで。
姿勢が悪いのはそのせいもあったようだ。
「健康診断を受けたけど、視力の回復は難しいかもって。ふふ。今度、父が眼鏡屋を呼んでくれるそうです」
「オネスト君、眼鏡似合いそうだよな。銀縁の格好いいやつ選んでもらいなよ」
「ボナンザ君がそう言うなら」
今回、境遇が改善された件で世話になったルシウスやボナンザに、オネストは深い信頼を寄せている。
近いうち、銀縁のスタイリッシュな眼鏡をかけたオネストを見ることができそうだ。