事情聴取の始まり
オネストとクラスメイトのA組の全生徒、担任、魔法学の教師、学園長エルフィン。
オネストをいじめていた親戚筋の男子生徒四名。
会議室に集まったのは四十名弱。
改めて会議室内の一同にオネストは自分が発動させた魔法、いや〝呪術〟について説明した。
説明の途中で親戚の生徒たちの顔が怒りに染まっていく。同じ被害を受けた担任の女教師もだ。
「つまり君は、耐え難い悪質な嫌がらせに対する報復として、彼らの食事が残飯と入れ替わる術の行使を行なった、と?」
「その通りです」
ハーフエルフの学園長エルフィンの確認にオネストは素直に認めて頷いた。
「貴様ッ、ふざけるなよ!」
あまりの事態に親戚子息の一人がオネストに殴りかかろうとしたが、咄嗟に巨体のボナンザが間に入って防いだ。
ぽよん、と肥満で膨れた腹に拳が当たって弾力であっさり跳ね返されている。
「おっと。先生がたの居られる前で暴力は良くないねえ」
がしっと相手の腰を掴んで、子供を持ち上げるかのように軽々と、本人の座っていた席に戻してやった。
ついでにちょっと強めにパシパシっと両肩を叩いた。
「大人しく話を聞くんだ。意見はその後で。な?」
二メートル近い巨漢のボナンザが詰め寄ると、それはもう脅しに近い圧がある。
親戚子息はコクコクと頷いて黙り込んだ。
さて話はオネスト側に戻る。
「学園内において食事時に異変が起こっているとの報告は受けていたの。でも、件数が二十件はある。あなたに害を及ぼした彼らの数より多いわ。それはどういうこと?」
なぜ親戚子息たちと担任以外の他クラスにまで被害が拡大しているのかの確認だ。
これはA組の生徒たちだけでなく、学園側も既に把握しているのではないか。
「……彼らが、ぼくの不名誉を吹聴してたじゃないですか。それを真に受けた人たちの中には面白がって僕に嫌がらせを仕掛けてきた者がいた。……そうですね、合計で二十人ほどになると思います」
同じクラスにはいなかったが、他クラスにはいた。
名前はわからなくても顔は覚えている。
「術者に対して悪意ある者しかこの魔法はかかりません。無差別に発動はできないのですから」
「そこもっと詳しく聞かせてくれる?」
魔法学の授業で彼がどんな発表をしたかの報告は既に受けている。
学園長エルフィンは先を促した。
「残飯しか設定できなかったのは、術の発動に制限があったからです。僕がこれまで受けた悪意や暴力と等価の反撃は残飯レベルまででした。……ああ、もしかしたら便所の汚水でも可能だったかもしれません。僕自身が被ったものですからね。試してみますか?」
「ひいっ!?」
親戚子息たちと担任は小さく悲鳴を上げた。
彼らはオネストに汚水を浴びせ、かつ放置していた者たちだ。自分たちが何をやったかは一番よくわかっているだろう。
「か、解術方法を教えなさい! グロリオーサ侯爵令息!」
顔を引きつらせて担任の女教師が怒鳴るが、オネストは暗い顔でイエスともノーとも答えなかった。
「……この術は加害者に対して、因果応報の域を越える作用はありません。あなたがたが僕への悪意と行動を反省したなら自然に収束するでしょう」
「で、ですから、あなたが解きなさいと言っているのです!」
「別に構いませんけど。でも術を解いたって、加害者たちには、自分たちが受けるはずだった業の報いが別の形で降り注ぐだけだと思いますよ?」
だって呪術ってそういうものでしょう?
小さくて聞き取りづらいはずのオネストの声は、なぜか全員の耳に良く聞こえた。