弱さを隠す強さ
人が嫌いだ。
その汚いものを見るかのような冷たい目が嫌いだ。
ただ己の快楽の為に否応なく浴びせる罵倒が嫌いだ。
何もしていないのに殴りかかってくる腕が嫌いだ。
目の前の惨劇に立ち向かわず見て見ぬ振りをするその心が嫌いだ。
そんな中でようやく出会えたたった一欠片の“大好き”を理不尽に奪い去る世界が大嫌いだ。
余は、何もかもが大嫌いだ。
「おい出てこい夜神、生きてんだろ?」
「………クソが」
咄嗟に“掘削”で作ったシェルターを内壁から壊して、月夜の外界に命からがら這いつくばって出る。
ああ、隠していたはずのドス黒い部分が抑えられそうにない、この苛つきが、この嘆きが、喉の奥から今も飛び出してしまいそうだ。
こちらは死にかけだというのに、昔の経験から培われた身を守る反射でギリギリ生き残れただけだというのに。
何なのだ此奴は、たった今覚醒しましたとでも言わんばかりの満面の笑みを浮かべて。
「おいおい何死にかけてんだよ、吸血族は耐久あるだろ?」
本当に此奴は、煽り文句の全てを的確に余の芯を射抜きおって、ますます腹立たしい。
吸血族、それは古代の魔術師の実験によって誕生した負の産物。
その実験とは、『魔術師の体液を摂取したヒトの観察』というものだ。
そして色々あって誕生したのが我ら吸血族、色々としか言えないのは資料がないからだ、誰も知らない歴史、それが当然にあるのが恐ろしい。
「確かに余は普通より頑丈だ………吸血族はこの程度では多少疲弊する程度だろうな………誰にも明かさぬつもりだったのだがな…貴様、もう気付いているのだろう?」
普通の吸血族なら無事、しかし余は心身共に削られている、目敏い奴の事だ、これだけの事で既に気付いてしているのだろう。
誰にも明かしたくなかった暗い過去の根源、誰も知らなかった呪い、それが目の前の白髪の口から語られる。
「………混血、ってとこかな、それも人間の血がかなり濃い、ね」
黒い眼帯に隠されているにも関わらず、その向こう側には酷く悲しい瞳があるのが感じ取れる。
「………余の母親は魔術師だ、吸血族ではない」
何故だろうか。
何故此奴ならわかってくれる、他とは違う、そんな淡い期待が捨てられなかった。
シュヴァルツ・ノワール、はてさて貴様は一体どちら側の人間だ。
「………そうか」
悲しそうな目だ、余を憐れむ瞳だ、余を蔑み、弱者だと見なした証拠である酷い眼差しだ。
そうか、そうか、貴様も所詮は人間だったのだな。
悲しみと怒りが沸々と煮えたぎる、信じてしまった余自身に対する怒りと、変わることのなかった人間に対する悲しみが。
「………ひとつ、聞いてくれないか」
「今さら何を言う、愚か者よ、貴様の話に貸す耳など………」
「ボクは!!」
余の感情と同じように、怒りと悲しみの籠ったいたいけな叫びに黙らされた。
小さく震える口から続きが語られた。
「ボクは………本当なら生まれるはずのない存在なんだよ………生まれるはずのなかったボクは弱かったんだよ、味方が1人もいない、だから自分の身は自分で守るしかなかった、だからこそボクは力を手に入れた、復讐のために、敵討ちのために、ただそれだけのために………」
一拍だけ、間が空いた。
「ボクは、弱さを隠す強さを手に入れたんだよ」
その話を、余は知っている、いや経験した。
復讐の炎に心を焼かれ、でも己は無力で、虚無感に押しつぶされそうになって、それでも停まることは許されなくて。
必死にもがき続けて、ようやく手に入れたのは余自身の弱さを隠す偽りの強さだった。
「お前も、そうだろ?」
白髪の少年は、月光に照らされ不思議な神々しさのベールを纏っていた。
人が嫌いだ。
その汚いものを見るかのような冷たい目が嫌いだ。
ただ己の快楽の為に否応なく浴びせる罵倒が嫌いだ。
何もしていないのに殴りかかってくる腕が嫌いだ。
目の前の惨劇に立ち向かわず見て見ぬ振りをするその心が嫌いだ。
そんな中でようやく出会えたたった一欠片の“大好き”を理不尽に奪い去る世界が大嫌いだ。
余は、何もかもが大嫌いだ。
だが、広いこの世界で唯一余と同じ経験をしたこの男のことは、大嫌いではなかった。
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