これがチーム戦。
おひさ。
と、誰もが確信した。
ニヤリと不敵な笑みをシュヴァルツ君が浮かべた。
彼が腰にぶら下げた魔石がキラリと光り、月明かりに照らされて一振りの剣が虚無よりいざなわれた。
鞘から刀身を抜き放ち、夜の暗さすら吸い込んでしまいそうなほどに深い深い黒い魔石が埋め込まれた藍色の刀が姿を現した。
『喰らい尽くせ!!藍闇!!』
藍闇と刀の銘が呼ばれた瞬間、彼の前に文字通りの漆黒の闇が出現した。
淡い水色の魔力を微かにまとった天才の一撃が、闇に吸い込まれて、そして消えた。
まだ試験が始まって序盤だと言うのに、何度目の衝撃だろうか。
『......は?』
大弥君もあっけにとられている、そりゃそうだ、私だってシュヴァルツ君が敗北したと思ってしまった。
しかし現に彼は立って飄々とした態度で刀を鞘に収めている。
何なら味方のはずの3人ですら驚いている。
『はいごちそうさまでした、まさか使わされちゃうとはね......それでこそ楽しみ甲斐があるってもんよなぁ!?』
『......いや待て待て待て!なんで今の防げたのさ!?僕の最高の一発だったのに!なんで簡単そうに防げたのさ!?』
そうだ、何だったのだ今のは、防げるはずのない一撃だったはずだ、あの刀が光ったような気がしたが、何かそれにヒントがあるのだろう。
あんなものが基本術式とは思えない、ならば固有術式しかありえないのだが、彼の固有術式である“転移”をどう生かしたところであんなこと出来ないだろう。
固有術式を2つ使う方法......そんなものがあるのだろうか......いや、あった。
「まさかあの刀......瑠璃ちゃんに教えてもらった......」
「聖級だろうねぇ、間違いなく」
眠っていたはずの飛彩君が答えてくれた。
先程、瑠璃ちゃんの言っていた固有術式を2種類使用する唯一の方法、術式が付与された媒体を使用すること、しかし術式が付与された媒体は例外なく聖級に分類され、その希少性は絶大。
名家育ちの瑠璃ちゃんでさえゼフュロス君の実家でしか見たことがないような一振り。
それを今、シュヴァルツ君は腰に携えている。
いつもの飄々とした態度ではなく、瞳の奥に冷たい闇を孕んだ真剣な顔つきで。
怒ったような、悲しんでいるような、何かを猛烈に憎んでいるような様子だった。
『藍闇、まあ想像の通り聖級の一振りさ...まさかボクの切り札の一つをもう使わされるなんてね、見せたからには出し惜しみ無く行かせてもらうよ』
『くっそ.....反則じゃないかそんなの......プラン変更さ!』
そして今度こそ、両チームによる正面衝突が始まった。
さて、今出せる手札を見せてしまったわけだが。
今相手は少なくとも二人以上ここにいるわけだ、刀に付与された術式をまだ理解されていないうちに一気に詰めるのが1番の正攻法だろう。
刀を抜き放ち、そのまま峰打ちで龍我を討ち取ろうとしたときだった。
何かに飲み込まれるような、赤黒い気持ち悪い予感がした。
とっさに退くと、空から憎い敵が優雅に舞い降りてきた。
やはり空を飛ぶという噂は本当のようだった。
「夜は吸血鬼である余の時間と知らぬのか、ならばその身を持って学ぶが良い」
___吸血鬼の王たるドラキュラ413世の実力を___
「“爆炎”」
夜神がこちらにかざした左手から、赤い灼熱の炎が渦を巻き、猛烈な勢いでこちらに襲いかかってくる。
「“速化”」
何とかスピードを上昇させて回避することが出来た、しかし顔を掠めた爆炎は間違いなく熱かった。
見たところ夜神は何も装備していない、それにも関わらずにこいつは飛行しながら別の術式を発動した。
確定だ、理由は不明だがこいつは複数の術式を使用できる、手札の枚数はあちらが確実に多い。
なんとかしてこいつの術式を看破して弱点を探らなくてはならない、だからここは耐えの一手だ、耐えて耐えてこいつの手札を全てオープンさせる。
探るんだ、ヒントは必ずどこかにあるはずだ。
「いいぞ愚民よ、一撃でくたばってしまったら、余が楽しぬからな!」
「“軽化”」
基本術式その4、対象の重量を低下させる効果を持つ術式、“軽化”。
回避を取り続けるために全身の服や剣を軽くする、少しでも素早く、少しでも使わせるために。
今宵、ボクは吸血鬼を狩る。
「“魔翼”、“爆炎”」
夜神は翼を展開して、その翼に炎を纏わせていく、その姿はさながら吸血鬼などではなく太陽の力をその身に宿し、かつて一つの文明にて信仰された不死鳥。
「複合術式“炎神鳥”、精々耐えてみせろ愚者よ、貴様の愚かさを見せてみろ!」
夜神は邪悪な笑みをこちらに向けて炎の翼を振るってきた。
その炎は縦横無尽に空を飛び回り、こちらに襲いかかってくる。
まるで意思を持つ隼のようだ。
「“速化”、“遅化”」
自分のスピードを上げて、炎の隼の速度を下げる。
十二分に回避が可能だ、このままやつを地面に落とせればいいのだが、正直あいつのいる高さに届く気はしない、基本術式で操作できるのは速度と重量のみ、跳躍など固有術式でなければ不可能だ。
襲いかかってくる隼をスライディングで回避する、何度か回避すれば夜神も別の術式を使用してくるはずだ。
行動パターンは見極めた、やつは間違いなく諦めるだろう。
しかし夜神の表情は全くと言っていいほど変わることがなかった。
「躱した程度で余の術を躱しきれると思ったのか?」
炎の隼は、ボクの想定外の動きでもう一度襲いかかってきた。
まるで本当に生きているかのように動き、術式特有の単調で人工的な動きとは全く違う。
藍闇を使うか、いや、先程の大弥の攻撃を喰らったからこの隼を喰らいきれる可能性は低いだろう。
どうしようか悩んだところに、美しき歌声が響き渡った。
「雨よふれふれ雨よふれ、この歌途切れるまで何処までも、この胸の高鳴りを響かせろ、空も風も大地も草木も誰もかもに届くように、雫の音に乗せ私が捧げるこの歌をこの舞を、誰かの悲しみを止めるべく、誰かを笑顔にするために、尊き水の加護与えたもう、雨よふれふれ雨よふれ」
ざああっと、平原全体に雨が降り注ぎ、じゅっと音を立て隼が消滅した、夜神の翼の爆炎も鎮火され、水を含んだ重みで翼は羽ばたけなくなり、夜神が落ちてきた。
「炎は封じましたよ!もうボコボコにしちゃってください!」
瑠璃が杖を両手でぎゅっと握りながらこちらに指示を出してくる、頼もしいチームメイトでよかった。
「さんきゅ!」
これがチーム戦、一人で対処できなければ複数人で対処すればいい、存外悪くないものだ。
さあ、次は何で来る、電気か、風か、はたまた地割れか。
想定外を想定しろ、最悪のパターンを考えて行動しろ、全ての状況をシュミレーションしろ。
そして夜神を
叩き潰せ。
夜神君とシュヴァルツ君の戦いの火蓋が切って落とされた頃、別の戦いも始まろうとしていた。
雨を降らせて夜神君の爆炎を封じた瑠璃ちゃんに、雨にも負けない猛々しい炎を纏いし剣が襲いかかる。
『ッセアッ!!!』
その渾身の一撃は水流のようにするっと瑠璃ちゃんに受け流された。
剛剣の主は龍我君、やはり雨の影響か威力が幾分か落ちているようだった。
さらに地面がぬかるんで足場があまり良くない、踏み込みも封じられたのでさらに動きづらくなっている。
この一瞬で龍我君を完封する智力、そして自身のフィールドに強制的に連れ込む魔術、恐らくこの試験は龍我君達にとっていかに瑠璃ちゃんを無力化するかが鍵となる。
『くっそ.....動きづれえなら.....動きやすくするしかねえなぁ!?』
龍我君の“龍炎”、それを両脚に纏わせることで泥濘んだ地面の水を濡れたそばから一瞬で蒸発させていく、龍我君の踏み込みを使用可能なフィールドにすると同時に炎でスピードにブーストをかける。
『“爆龍脚”、お前が雨を降らせるなら、俺はここを灼熱の地獄にしてやるよ』
『なら、勝負ですね!』
二人は向き合って各々構えをとる。
その場が緊迫で包まれ、まるで息を合わせたかのように二人同時に動き出した。
ボォォっと音を立てて龍我君の脚が唸る、雨の絶叫がより鮮明になる。
龍我君は滑るようにして瑠璃ちゃんの裏に回り込み、瑠璃ちゃんに剣を振りかざす。
『ふふん!私が歌わないと水を操作できないと思いましたか!?残念でした!』
瑠璃ちゃんは雨を操作して硬め、ランスのようにして龍我君に真っ直ぐに飛ばした。
水しぶきを上げながら襲いかかってくる大槍を龍我君は炎を纏わせた剣で一閃、切り裂いた。
どうやら瑠璃ちゃんは一度歌って雨を降らせればその後は雨を自由自在に操ることができるようだ。
『まだまだに決まってんだろォ!?』
もちろんここで諦める龍我君じゃない、また回り込み、そして攻撃する、それを何度も何度も繰り返すヒット・アンド・アウェイの戦略、最も安全的であって相手に攻撃の余裕を与えない。
攻撃こそが最大の防御、その言葉を体現したかのような龍我君の攻撃。
それに対して瑠璃ちゃんは盾を創って防いだり、雨を龍我君に向けて目にも捉えきれないほどの速度で発射したり。
両者一進一退の攻防を繰り広げている。
しかしその均衡も長く持つことはなく、ついに崩れ去った。
『行くぜ!』
水を操作する瑠璃ちゃんの術式だが、操る水がなければ完全に無力化出来る、それを龍我君は狙っていたのだ。
通った道筋に炎を残しておき、周辺にばらまき終えたタイミングで龍我君が一気に火力を増大させることで、宣言通り大地を灼熱の赤で染め上げた。
その結果瑠璃ちゃんが操る水が、瑠璃ちゃんの元に届く前に炎の熱で蒸発してしまう。
『...ちょっとまずいですね......』
辺りは灼熱地獄、逃げ場などあるはずもない、瑠璃ちゃんの操るための水はすぐに蒸発させられてしまう、雨を降らせても鎮火は不可能に近い、まさに絶体絶命だ。
これは勝負あったかもしれない、だがその時瑠璃ちゃんに頼もしい助け舟が出た。
『“運命”、ストーリーテラー』
凛とした声。
その声が紡ぐ詩は正確無比、未来の確定。
龍我君は木の上で余裕たっぷりにリラックスして本を開いている玲音ちゃんを軽く睨みつける。
『相手が3人なら2対1が一組できる、ならば確実に仕留めたほうが楽でしょう?ならそのとおりに動く、これがチーム戦よ』
画面に映る玲音ちゃんの手帳には美しい文字で『龍我は敗北する』と書いてあった。
唐突な敗北の宣告、その7文字がいかに残酷なものかは一度敵対したみんなが一番わかっているだろう。
味方が不利になったら二人でカバーすることで相手を圧倒、数の暴力は凄まじい。
『さんきゅーです玲音ちゃん!』
『勝利は確定したのだから、さっさとやっちゃいなさいよ』
『了解です!』
追加で使用しないのは先程大弥君がシュヴァルツ君に指摘したクールタイムと言うやつだろう、玲音ちゃんの場合相手を縛るからそれすらほぼ意味ないようなものなのだが。
絶体絶命をこの一瞬で逆転させる、流石主席と言った感じだ。
そして絶賛絶体絶命中の龍我君は思いの外余裕そうだった。
『まあ、それされちまったら俺の負けは確定なんだけどよ、玲音お前やっちまったな』
『何がよ』
『こんだけ広かったら十分だろ?』
龍我君が問いかけた相手は瑠璃ちゃんでも玲音ちゃんでもなかった。
その相手は誰も予想しなかった場所から突如として出現し、一陣の風となり戦場を駆け抜けた。
『完璧だ、お陰様で一人退場に出来る』
その風は灼熱の炎を揺らすどころではなく、より猛々しく燃え上がらせた。
駆け抜けし風は橙色、その速度は最早風どころではなく、光といったほうが正しいのかもしれない。
そんな速さを出せて、尚且制御出来る人を、私は一人しか知らない。
その風は、紅蓮の炎の壁を突き破って玲音ちゃんの元へと真っ直ぐに跳んだ。
___風裂___
『まさ____』
最後の一文字を言い終える前に、玲音ちゃんは虚空へと消え去った、いや、連れ去られてしまったと言ったほうが正しいのかもしれない。
橙色の風の犯人の名は鼬鎌隼人、またの名を情報屋ゼフュロス。
固有術式は“疾走”、その効果はあくびが出てしまうほどシンプルなものだ。
走れば走るほどスピードが上昇する、ただそれだけだ。
ただただ速くなるだけの単純な魔術、それだけでSクラスで戦い抜くには難しいと感じるかもしれない、しかし彼の術式を見くびるものは例外なく風に攫われてしまう。
なぜなら......
彼のスピードは無限大だからだ。
『前、お前はシュヴァルツに対策されていた、情報屋の俺が対策していないとでも思ったか?お前の主席に拘る性格からしてこの試験はパーフェクトゲームを望む、お前ならここで使ってくると思ったぜ?玲音』
『あなたこれを狙って...』
『今のお前はクールタイム中、そこに勝負を賭けるのが一番手っ取り早いってわけだ、あとは姫に妨害されないようにするだけだが、バカの火力にかかれば封じられるってわけだ』
泥濘んだ地面では圧倒的にスピードを上げることは不可能、しかしゼフュロス君が100%を出し切れるフィールド状態を龍我君が整えることでより上位の相手を騙し取り、圧倒する。
学園の全生徒の情報を知り尽くし、研究に研究を重ねたゼフュロス君だからこそ可能な未来予知にも似たような芸当、まるで全てを見透かした神のような圧倒的技能。
これが風神ゼフュロス。
『お前は怖えからな、本も奪った上で一番遠くで一人迷子の刑だ』
『何か.....』
目にも留まらぬ速度で連れ去られ続ける中、玲音ちゃんは必死に腕を伸ばし、何かを本に書き記し、そして手を離した。
有無も言わせぬ奇襲、彼はとんでもない謀略家だ。
とうとう私の目を持ってしても、ゼフュロス君の魔力を捉えられなくなってしまった。
言い方が悪いかもしれないが、しばらく玲音ちゃんは使い物にならなくなってしまった。
おそらくゼフュロス君はあと1分もすれば戻ってくる、作られた盤面は紛うことなき3対4、数的不利を取られた時点で既に逆転は難しいのかもしれない。
だがここは私の常識が通用しない魔術師の世界、可能性が0でない限り逆転の蕾はいつでも花開く。
なぜならこれがチーム戦だからだ。
読んでいただきありがとうございます!
よろしければ高評価、ブックマーク、レビューの方もよろしくお願いします!
作者の励みになりますので!
それではまたお会いしましょう!




