天才、創真大弥。
最後がトウカイテイオーだなんて言わないでください。
あの後、先生が来て飛彩をぶっ叩き起こして一旦全員回復させてもらった。
そして今は前々から決めていたボク達赤チームの拠点である洞窟にいる。
この洞窟は森の奥深くに見つけた言わば天然の要塞の奥に作り上げたものだ。
先生は範囲内ならどこでも造っていいと言っていたから問題などありはしない、きっと相手はたどり着けないだろうけど。
「じゃあ作戦通りに、それぞれ敵戦力を分断して各個撃破ってことで」
相手は粒ぞろいの精鋭達、だがそれはこちらも同じことだ。
それぞれの弱点は把握しているのだから各々で相手を動けなくしたあとで勝利条件であるクリスタルを破壊すればいいのだ。
ちらりと腕に巻いてある時計を確認する、その時刻は23:59、あと1分で試験が開始する。
「おいシュヴァルツ」
「なに?」
「一人拠点に待機しておいたほうがいいのではないか?敵が攻め込んできたらどうする」
拓海の質問は当然といえば当然だろう、この試験において命にも等しいクリスタルを放置するというのだから、だが心配はいらない。
「まさか、自分が負けるとでも?」
「俺は負けるわけには行かない、だが保険はかけておくべきだろう?」
「私も拓海くんに賛成です!」
「俺の読みが正しければ、相手は全員バラバラに攻め込んでくる」
あの超が5、6個ぐらい付いていそうな凸凹チームだ、司令塔であるゼフュロスの言葉に耳を貸すやつがいるとは思えない。
それにこれぐらいの距離なら“転移”ですぐに戻ってこれる、クリスタルを守ることも不可能ではない。
それに...
「保険ならもうかけてあるさ、ボクを誰だと思ってるのかな?」
「わざわざ一人の対策のために偽名で学校生活をしていた狂人ね」
皮肉を最大限込めた一言を玲音は吐き出したが、ボクに精神的なダメージは通じない。
スタートまで残り10秒、魔導石で圧縮された空間からいつもの剣を抜く。
剣の等級は中級、良くも悪くもないごく一般的な剣、皆に比べたら少々見劣りはするが、その場しのぎには十分な性能だ。
一度深呼吸をして、ドクドクと鼓動を早める心臓を一度落ち着かせる。
胸に手を当て、硬い感触があることを確かめる、今は魔石を付けている。
「......見ててくれ......」
服の上からぎゅっと、深い藍色をした魔石を握りしめた。
時計の長身と短針が重なる、時刻は12時、クラス内対抗試験の火蓋が切って落とされた。
「さあ!行くよ!」
“速化”をかけて、全速力で洞窟の外へと向かう。
相手にはまだボク達の居場所はバレていない、奇襲をかけるのが一番手っ取り早い。
こちらには広範囲に雨を降らせて継続的に体力を奪うことのできる瑠璃に、相手の行動を一つづつ着実に奪うことのできる玲音がいる、籠城戦になれば有利だろう。
だがそれでは現状の実力を把握できない、この試験は自身の現在地点を確認して、そして今後の強化すべき点を見つけるための試験だ。
それに、試験と言っても実質“戯れ”だ、籠もっていてはつまらない。
外に出ても誰も相手はいない、そりゃあ広大なフィールドの中から一部屋サイズの拠点を探さなければならないのだ、そんなものは専用の術式でもない限り不可能に近い。
足音を立てぬように慎重に、それでいて大胆に、着実に歩みを進める。
フィールドは半径5km、全体をくまなく確認し終える頃には朝日が顔を出していることだろう。
もちろんそんな時間があればとっくに試験は終了している。
相手の拠点の位置を暴き出すには......相手をおびき出すしかない、か。
おびき出すのに丁度いいのはやはり中心にある半径1キロのまっさらな平原、あそこなら何処から何が来ても来ても対応できる。
唯一未知数なのは夜神のみ、あいつの術式をできる限り早く解明し、的確に弱点を突く。
それができなければあいつをぶっ潰すのは不可能に近い。
しかしあいつ....なんであんなに情報がバラバラなんだよ。
入学前にボクはクラスメイトとなるであろう人物達については散々調べた、寝てない日がどれだけ続いたか、31を超えたところから数えていない。
龍我が実家に帰るために日本の本土へ戻ってくるとの情報も、彼の実家周辺まで何もかもを調べ尽くした結果だ。
それは他も全員一人ひとり調べに調べ、途方も無い時間を費やし、ボクは全員の対抗策を編み出した。
Lügeの名前も、相手の名前を知れば部類の強さを誇る雨野玲音と相対したときの策だ。
こんな弱い術式じゃ、ただ突っ込むだけでは待っている結末はバッドエンドのみ。
だから日本全国走り回って情報を制した。
それでも、夜神だけは調べがつかなかった。
あるところでは光を操る術式と、あるところでは空を飛ぶ術式と聞いた。
聞く場所、人によって言うことはバラバラ、掴んだ糸口も繋がっていたのは深い深い闇の中。
まるで夜神月華という名の、複数の人物で形成された集団、それが夜神月華の正体かと思えてくるほどだった。
ゼフュロスに確認しても自称吸血鬼のナルシストとしか情報がない。
完全不明の1年第7席、夜神月華。
おびき出す策が吉と出るか凶と出るか、答えは神のみぞ知るところだ。
平原にはまだ相手はいない、できる限り出せる最高速度で平原の中心へと進む。
3人は平原の端で待機、ボクだけ真ん中で囮となる、拠点の位置を知りたい相手にとっては格好の的だ。
流石にわざとらしいと感じるだろうが相手は噛みつくしかない。
中心で止まり、名一杯空気を吸い込み、特大の煽り文句をぶちまける。
「おらクソ夜神!出てこいカスがよぉ!!そんなにボクがこえーのか!!?ああん!?それともなんだ!?てめえはボクにすら勝てないゴミクズだったのかい!?失望したよ!変態ゴミクズナルシストさんよぉ!!!」
まずは夜神を煽り倒す、まあ、私怨が入っていることは認めよう、だが仕方ないのだ、それほどに夜神はカスで変態ゴミクズナルシストなのだから、うん、仕方ない。
「龍我はボクにもう一回負けてるからな!ビビるのもしょうがないね!まあ龍我はそれまでのカスだったってことなんだね!!!まあ仕方ないさ!カスはカスらしく端っこで黙ってればいいのさ!!!何なら先に帰ったらどうかな!?この名家生まれのお馬鹿さん☆」
続いて龍我に精神攻撃を加える、あいつは単純馬鹿だから既に逆上して冷静さを失っていることだろうね、馬鹿だからね。
「大弥も大弥でビビってんのォ!?まあ!?ボクはなんせ“第4席”よりも強い、“主席”を一方的に負かしたからねぇ!!格を考慮するところはとーっても賢明だねぇ!!カスのすることだけどね!!!」
玲音が試験前にやったように、大弥の発言に対する皮肉を交えながら戦ったことがないなりに今できる最大限の煽りをしてみた、あの器用貧乏は多分『はあ!?何なのさ兄貴!ぶっ潰してやるさ!」とか言ってるところだろう。
後ろから殺気を孕んだ玲音の視線を感じるがきっと気のせいだろう、うん、気のせい気のせい、木の精。
「でぇ!?ゼフュロスはゼフュロスでなーに怖気づいてんのさ!まさか!?ゼフュロスって瑠璃がいないとなーんにもできないの!?ごめーん、今まで気づかなかったわ〜!!!まさか生徒会ともパイプのあるゼフュロスが瑠璃のおこぼれを必死に拾い集めて第6席にいただなんて!!!これはボクの計算間違いだったな〜!!!ボクが第6席になる日も近そうだな〜!!!せいぜい頑張ってね!姫様に付いてくだけのでくのぼう君!!!!!」
まあ、ゼフュロスに関してはこんな程度の精神攻撃は効果は期待できない、あいつが1番揺れるのは瑠璃に対して危害を加えることであってそれ以外の耐性はえげつないのだ。
流石にチームメイトに危害を加えるのは忍びないからやめておこう、なんか後ろからボクを真っ直ぐに射抜く殺気を孕んだ視線が増えている気がするけどきっと気のせいだろう。
「隼人くんのこと馬鹿にして.....許しません!」とか言ってそうだけどきっと気のせいだ、気のせい気のせい、木の精。
これで馬鹿どもはボクを狙いに来るはずだ、そこを三人がそれぞれ奇襲返しで分断、各個撃破でゲームエンド。
言葉というものは世界中のいかなる刃物よりも鋭い刃を鈍く光らせる。
モノによっては一撃で相手を死に追いやれるバランスブレイカー、その威力は核にすら匹敵する。
そんなものを突きつけられて、黙っているなど奴らのプライドが許すはずがない。
ガサガサと茂みから音がなり、そちらを見ると燃えるような赤髪が覗いていた、龍我だ。
「おいおい龍我、視えてるぜ?」
「ま、しょーちの上ってやつだぜ兄貴」
「そうかい.......じゃあ、剣を抜け少年、正々堂々、お前を喰ってやるよ」
龍我も腰に携えた剣を勢いよく抜き、切っ先をこちらに向ける。
編入試験以来、2度目の真剣勝負、対策は立てられていることだろう、だがそれすらも喰らい、己が糧としなければ高みへと至ることなどできるはずがない。
場に緊張感が満ち、龍我が切りかかってくるのを今か今かと待つ、全神経を集中させて龍我の初撃を捌き、カウンターをぶち込む、その構えをとる。
「さあ来い!第9席今川龍我!」
『さあ来い!第9席今川龍我!』
目の前の大きな液晶モニターに迫力満点のシュヴァルツ君の顔が大きく映し出されている、右耳だけに付けたイヤホンから編入試験のときよりも凄みのある聴き慣れた声が聴こえる。
「すごいねこれ、カメラとか付いてるわけじゃないんでしょ?」
私が今見てるのがリアルタイムのものとは思えないほど精密な映像だった。
しかも監視カメラなどを使っていないと言うのだから、散々ヒトしかいない本土で育ってきた私にとって驚きでしかない。
「魔術師自体、五感は優れているものだから今まではこんな物を作る必要はなかったからねぇ......天音クンが試験状況を目視できなければ天音クンの試験がまずいからねぇ......学園の備品である結界を改造に改造を重ねた私史上トップレベルの大改造を施し、結界内の生体反応を感知し、360°何処からでも結界から観察し、映像をデータ化してそのままモニターに接続、そして結界内の音を余すこと無く拾い集めフィルターに賭けることで最高の音質でその場の臨場感を演出する、私にとって未知であるヒトの感覚を研究し尽くしてようやく完成した、文字通り私の最高傑作......!!これによって天音クンのための視聴だけでなく、試験を映像として残すことで後学のためになる......!!私の14日連続の徹夜でようやく完成した私の最高傑作......!!」
この小さめのテレビのような機会に詰め込まれた飛彩君の14日間の努力がものすごい早口で本人の口から語られた。
目の下にくっきりと色濃く出来ている隈を見れば彼がどれほど努力したか見ればわかる。
よくわからなかったけどとにかく彼の努力がこのテレビに詰まってるのだけはわかった。
うん、淡々と抑揚のない声で語る今の飛彩君は何処からどう見てもヒーロー番組に出てくる悪の科学者にしか見えない。
「私の最高傑作......その名も.......!」
「その名も.......?」
ゴクリと唾を飲み、飛彩君の最高傑作の名を聞こうとした。
しかし彼の吐き出した次の言葉は酷く冷めきったものだった。
「......はぁ......私は何を熱くなっているのだ......子供じゃああるまいし、私は急患が出るまで眠らせてもらうよ......先程のだけで必要量の睡眠が取れるわけ無いだろう......」
「いや言わないのかい!!」
出た...ヒトにもある寝ずにそのまま学校に行っていつもの5倍ぐらいハイテンションで喋るけどふと突然何もかもがどうでもいいように思えてバカバカしくなってくる、冷静になってしまうこの現象...まさに深夜テンション...!
夜ふかし大好きな友人になんどやられたことか、数え切れるわけがない。
飛彩君の目、まさに世界そのものがどうでもいいと語っている、2週間も寝てなかったらそうなるのは必然...試験が終わったらせめてものお返しにご飯でも作ってあげよう。
今は試験に集中しなければならない、彼の14日間を無駄にするわけには行かないのだ。
モニターに目を戻すと、これまた衝撃の光景が映っていた。
つい先程までシュヴァルツ君と龍我君が剣を抜いて向き合っていたはずだ。
そのまま行けば龍我君はシュヴァルツ君に切りかかり、彼のカウンターを受けて戦闘不能になっていたはずだ。
だが、龍我君は剣を鞘に収めていた。
「何やってんの龍我君!?」
画面越しに思わず声を上げてしまうほどには衝撃だった。
モニターの中の彼は、ちょくちょくシュヴァルツ君が浮かべるているような不敵な笑みを見せていた。
『兄貴、俺は兄貴に負けて考えたんだ、何をどうしたらあんたに勝てるのかを』
龍我君の声は芯が通っており、凛としていた。
『考えて考えて考えて、俺にゃあわからんかったよ』
『......それで?降参するかい?』
『いや、わからんのは俺だけで兄貴に勝つ方法だ、だからよ......俺と親友で挑ませてもらうぜ!』
これまた大きな衝撃だった。
犬と猿のようとまではいかないが、試験直前まで大喧嘩してた彼等とは思えない言葉だった。
まさか大弥君が何処かから潜んでシュヴァルツ君を狙っているのだろうか。
飛彩君は結界内の音を全て拾っていると言った、なら大弥君の音を聞けるはずだ。
そこに私の魔眼を合わせれば、彼の居場所がわかるはずだ。
モニター越しではなく、直接フィールドに目を向ける、数km離れた場所にいるであろう彼の魔力を感じろ、探せ、この2週間ずっと見てきた彼の魔力をこの眼で捕えろ。
極限まで集中力を高めると、眼に温かくも、野獣のような光の粒が流れ込んでくるのを感じる。
すると、色とりどりの光が姿を現す、その中から淡い水色を探す。
「......いた!」
見つけた、遊び心に溢れた綺麗な水色の輝き。
耳を澄ませば聞こえてくる早口の、まるで詠唱をするかのように紡がれていく言葉。
『敵との距離は127m、敵の進行方向は不明、必要弾数は10、角度を修正...あと13°...7°...3°...ジャスト、リバウンドで仕留めれる確率は......80%一発目にしては十分と見るべきか...オッケー、行くよ!“跳弾”!』
モニターを見るに彼は弓に10発の矢をつがえている、まさか一度に撃つつもりなのだろうか。
『一発で仕留めるよ!一発必中一撃必殺!___計算式の舞踏___!!!!!』
打ち出された矢は弦のしなりに従うままに真っ直ぐに天高くへと打ち出され、月から大槍と成った矢達は降り注いだ。
『...!“転移”!』
シュヴァルツ君はとっさに転移で遠くへと移動した、しかしそれすらも、創真大弥の想定内だった。
『かかったね!僕は賭けに勝ったさ!80%の敗北を兄貴は引き当てたのさ!伏せろ龍我!』
『あいよ!』
シュヴァルツ君は確実に避けた、だがその一番遠くに下がった時点で彼の敗北は濃厚となってしまったのだ。
大弥君の術式は“跳弾”、打ち出す矢に弾性を与える術式、そのやの弾性は任意で弾力を決められる、そして跳ね返った矢の勢いは、跳ね返るたびに加速する。
地面へと降り注いだ大槍は再び矢へと分解されたかと思えば、全方位に飛び散った。
矢は木にぶつかり、地面にぶつかり、矢同士でぶつかり合い、加速していく、際限なく、音速すら超えてゆく。
これが天才、これが創真大弥、もはや矢など視えない、超速の一撃を持ってして彼はシュヴァルツ君を葬り去ろうとしている。
『"転移”なんて術式、無制限に使えるわけないでしょ?距離、クールタイム、その両方に必ず制限がある、じゃないと使わない理由がわからない、使わせたから今はクールタイム、そして今逃げたのが最大距離、基本術式の重ねがけも間に合わない、俺の勝ちさ兄貴!一撃必中だって言ったでしょ?』
天才はいる、悔しいが。
今、シュヴァルツ君に閃光の如き一撃が突き刺さり、敗北が突きつけられた。
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作者の励みになりますので!
それではまたお会いしましょう!




