その歌に思いを込めて
ザアザアと土砂降りの雨が降る森の中、私は傘をさして突っ立っていた。
きっと美雲さんのおかげというべきか、しわざというべきか、とにかく私とゼフュロス君の会話を聞いて送ってくれたのだろう。
一応心の中で感謝しておくことにした。
森の奥の方から聞き覚えのある怒鳴り声が聞こえてきた。
声の方へ向かうと、ゼフュロス君がフードを被ったままで雨に打たれていた。
彼も美雲先輩に送られたのだろうか。
「なんで!俺に傘を渡さねえんだよ!おい聞いてるか美雲先輩!覚えてろよクソが!」
『ごめんなさいね☆』と言いながら彼を見てほくそ笑んでいる美雲先輩が脳裏に浮かんで来たが、きっと生徒会室で同じことをしているだろう。
「えっと...入る?」
「...わりいな」
取り敢えず彼を傘に入れてあげることにした、服は大分水を吸って重そうだ。
「瑠璃ちゃん、何処にいるのかな?」
ここに瑠璃ちゃんがいると聞いたが、こんな土砂降りの雨が降り続ける森の何処かにあの清楚を体現したかのような美少女がいるとは思えなかった。
ゼフュロス君は目をつむり、語ってくれた。
「いる、姫は必ずここにいる、お前は魔力が見えるんだろ、目を凝らせ」
「魔力を、見る...」
私が魔力を見れたのはシュヴァルツ君と龍我君の編入試験のときだけ。
たった数分だけの決闘、だがその数分だけ私は確かに魔力を視認できた。
シュヴァルツ君と龍我君の脚に集まっていた小さな光達、あれが魔力だと言うのなら。
まぶたをゆっくりと閉じ、精神を落ち着かせ集中する。
魔力はこの世界のありとあらゆるところに存在する。
魔力を身に宿し、その力を行使する者達が魔術師だ。
大気中の魔力をイメージする、人間という器から飛び出し、自由に輝く、同じ色など一つもない、の魔力達を。
きっと、こちらが求めればその姿を見せてくれるはずだ。
「......温かい......」
目をつむっていてもわかる、一つ一つでは弱くとも、確かに感じるぬくもり。
ゆっくりと、目を開く。
目に飛び込んできたのは色とりどりの小さな光達が浮かんでいる、今までとは全く違う新しい景色。
「すごい...世界が綺麗になったみたい...」
「見えたみてーだな、俺には見えねえからわからねえけどよ、ほれ、こっちを見ろ」
言われたとおりにゼフュロス君の方を見ると、彼はじっと見つめ返してきた。
「.....まだ成長過程、ってことか」
「なに?成長過程って」
そりゃあ私は瑠璃ちゃんに比べたら顔は整ってないし、清楚じゃないし、可愛くないし、胸も小さいけど......いや、比較対象がおかしい、あのデレの要素さえ持っていて超絶美人で胸もおっきい瑠璃ちゃんがおかしいのだ、うん、私の胸は決して小さくない、平均だ、平均。
そう強めの自己暗示をかけておいた。
「まあこっちの話だ、気にすんな」
「はいはいそーですか」
「どうしたんだ急によ......取り敢えず次にだ、明らかに違う魔力があるはずだ、探してみろ」
キョロキョロと首を動かしてよく見てみると、何が違うのかと言われたら説明できないが、明らかに違う魔力の集まっている道筋のような場所があった。
「あった」
「よし、じゃあ行くぞ」
ゼフュロス君は私を少し引っ張って、瑠璃ちゃんのいるであろう方に進み出した、その間、ゼフュロス君はまためをつむったままだった。
それなのに、一歩、また一歩と確実に魔力の示す道を辿っている。
「ゼフュロス君って魔眼持ちじゃないんだよね?なのになんでわかるの?」
「俺には姫の声が鮮明に聞こえる、どれほど離れていても姫を助けられるように、悪者に姫を指一本触れさせないために、例え水の中でも、鼓膜が破れててもな」
私には雨の音とゼフュロス君の声しか聞こえない、それでも彼には聞こえるのだとすれば、相当すごいことだと思う。
私は彼をこれ以上濡らさないように追いかけるので精一杯だった。
深く、暗い森の中を迷わずに進み続けると、微かな歌声が聞こえ始めた。
まだとぎれとぎれにしか聞こえないが、確かに瑠璃ちゃんの声だ。
歌声と魔力に導かれて木々の間を進み続けると、段々歌声が大きくはっきりとしてきた。
「ほら、今日もあんなになるまで姫はやっちゃって」
ゼフュロス君の呆れのような、それでも何処か尊敬の念を感じる一言だった。
たどり着いたのは森の中にぽつんとできた開けた草原、いや浅い池と言ったほうがいいのかもしれない。
そこには、藤の花のような青紫色の袴に純白の振り袖の巫女服を着て、長大で優美でありながら静かな、群青色の大きな石が付いた杖を振りながら、大雨の中で清々しく、嬉しそうな顔で歌い、舞う妖精がいた。
「雨よふれふれ雨よふれ、この歌途切れるまで何処までも、この胸の高鳴りを響かせろ、空も風も大地も草木も誰もかもに届くように、雫の音に乗せ私が捧げるこの歌をこの舞を、誰かの悲しみを止めるべく、誰かを笑顔にするために、尊き水の加護与えたもう、雨よふれふれ雨よふれ」
美しく、雨音の旋律に乗せて歌う喜びの祈り、魔力が喜んでいるのが例え見えなくてもわかる。
ぱしゃん、ぱしゃんと、舞の足取りに合わせて跳ねる水と、降り注ぐ雨が瑠璃ちゃんの神秘さを際立たせ、その美しさは形容し難かった。
「......“水歌”、歌を捧げることで水を操る海戦にて最強の固有術式、ついた異名は“水憶の巫女”、それが姫だ」
異名、その言葉の重みが瑠璃ちゃんの凄みを私に教えてくれる。
「瑠璃ちゃん、すごいね.....」
先程から散々魔力を使用して雨を降らせているにも関わらず、瑠璃ちゃんから魔力が尽きる気配がない、身体から放出された魔力が天へと登り、雷雨とかして降り注ぐ。
「あの歌は第2の媒体と言えるんだよ、姫が最も効率よく魔力を注げるように調整に調整を重ねてある、だから魔力効率が桁違いだから大規模魔術を長時間行使できるんだよ......まあ、それにも」
瑠璃ちゃんの美しい歌声が少しづつ、静かに消えていってしまう、雨が弱まり、光が刺しこんでくる。
「限界ってのは絶対にくるもんだ」
魔力を使い切ったのだろう瑠璃ちゃんはその場に倒れ込んでしまった。
天を仰いで息を切らす彼女はきっとこの瞬間、この世で1番清々しかった。
ゼフュロス君が彼女に向かって歩きながら声をかけた。
「おい姫、まーた無理しやがって、どーやって帰るつもりだったんだよ」
彼に気づくと瑠璃ちゃんは倒れたまま眩しい笑顔を見せた。
「えへへ...だって隼人くんが来てくれるもん、今日もこうやって迎えに来てくれたじゃん」
「まったく...とんだおてんば姫なこった...よいしょっと」
ゼフュロス君は瑠璃ちゃんをお姫様抱っこで抱き上げた、どうやら魔力に限界が来ると動けなくなるようだ。
「あー!今“よいしょ”って言った!“よいしょ”って!女の子を抱き上げる時にそんなこと言ったらだめだよ!もう私傷ついちゃったもん!」
「はいはい悪かった悪かった、ほら夜城、置いてくぞ」
「ちょっと!まって!」
私は二人の後を追いかけて、駆け出した。
しかしまさかこの後帰りの間延々と二人の惚気話を聞かされ続けるとは思いもしなかった。
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