生徒会長たる所以
次に私は瑠璃ちゃんのところに向かうことにした。
居場所はわからないが、ゼフュロス君に聞けばわかることだろう。
飛彩君いわく、ゼフュロス君は生徒会室にいることが多いとのことなので、取り敢えず生徒会室に行くことにしたのだが。
「......大丈夫かな......」
威厳のある扉の前で立ち尽くしていた。
脳裏に浮かぶのは入学式での出来事、生徒会長は魔術師が世界の中心に立つことのできる世界を創ると言っていた、力のある魔術師が現代社会の頂点に立ち、ヒトに成り代わる。
それはヒトでありながら何故か魔眼を持って生まれた私にとって恐怖でしかない、でもあの時の生徒の熱狂、それには理由があるはずだ。
入ってなんかされたらどうしよう.....背筋が凍り、脚がガクガクと震える。
ソワソワして扉の前で焦っていると、こつこつと、後ろから足音が聞こえてきた。
ロボットのようにぎこちなく振り向くと、そこには私と同じ制服の少女が......天井に届きそうなまでの大荷物を抱えていた。
「...えっと.....」
少女は荷物の横からひょっこりと顔を出すと水色に橙色が交じる髪に大きなリボンを付けた、何処か見覚えのある少女だった。
しばし静寂がその場を包み込む。
えっと......確かシュヴァルツ君がサイボーグメイドって言ってた.....そうだ!
「冷原凍華副会長...ですよね...?」
「私の個体名は冷原凍華です、問、扉を開けていただけますか」
「あ、はい、すみません」
私のことは眼中にないようで少し安堵した、そして私はやはり邪魔だったようだ。
言われるがままに扉を開けると、中にはフードを深くかぶりソファで寝息を立てているゼフュロス君、これまた大きな荷物を用意して、探検家...?のような服装をしている狼月凌駕生徒会長、そして楽しそうに一緒に準備を進める綺麗な黒い長髪をポニーテールに結んだ女性がいた。
「おかえり凍華、そしてきみは...珍しい来客だね、一旦落ち着くまで少し待っててくれ、美雲、そっちは?」
「うーん...もうちょい!」
「わかった、凍華、お茶を出してあげてくれないか?」
「承知しました」
冷原副会長は荷物をドスッと大きな音をたてながら置くと、お茶を入れ始めた、匂いからして紅茶だろうか。
というか狼月会長の言うことを“承知しました”って...本当にメイドのようだ。
あと黒髪の彼女の名前は美雲というらしい、流されるままにゼフュロス君の隣に腰掛けた。
待たされる、ということは何か私に話があるのだろうか。
柔らかいソファが少し沈み、ゼフュロス君を起こしてしまったようで彼はフードを取った。
「ん...?あれ、夜城じゃねえか、どした生徒会室まで」
どうしたもこうしたもあなたを探しに来たんだけどと心の中で少し怒った。
「瑠璃ちゃんが何処にいるか聞きに来たんだけど」
「ああ、姫なら森で歌ってるはずだぜ?」
歌う...また彼女の術式と何か関係があるのだろうか。
「ありがと、後で行ってみる」
「あー、あと傘は持ってったほうがいいしメモとかは置いてったほうがいいからな、ビシャビシャになるし」
「へえ...」
窓から森の方を見ると確かに土砂降りの雨が降っていた、まさかあれが瑠璃ちゃんの仕業なのだろうか。
冷原副会長がお盆に湯気の立つティーカップを持ってきてくれた。
「お茶です、凌駕様は現在忙しいのでお待ち下さい」
この紅茶はなんだか高級そうな香りがした。
「トーカ先輩、俺緑茶な」
「凌駕様に命じられたのは夜城様の分です」
「はいはい自分で淹れろってか?」
あくびをしながら立ち上がり、ポットにお茶を淹れ始めた。
その間も、狼月会長と美雲さんは何やら騒がしく大きめのリュックに物を詰めていってる。
「...現実的に考えてありえない量入ってない?あのリュック」
ランタンなどかさばる者も遠慮なく入れていってるのにリュックの容量に限界が来る気がしない。
「美雲先輩の術式使ってるからな、便利だろ?」
「そうだったんだ」
美雲さんの術式は結構万能なのだろう。
しばらく待つと、冷原副会長が持ってきた大量の荷物もリュックの中に消えてしまった。
「ふう...やっと終わったね...」
「ああ、手伝い感謝するよ、美雲」
「これぐらいお安い御用よ!」
やっぱり美雲さんはお姉さん気質な先輩のようだった。
「で、あなたは...噂の特別席ってわけね?」
「は、はい!夜城天音と言います」
突然話しかけられたものだから驚いて声が少し裏返ってしまった、頬が段々と熱くなってくる。
「可愛いじゃない!アタシは安倍美雲、2年第3席で一応生徒会役員...よね?」
ちらっと狼月会長の方を見ると、会長は苦笑いしてうなずいた。
「まあ好きに呼んでちょうだいね?」
「わかりました美雲さん」
「いい娘じゃないの〜!」
髪の毛をわしゃわしゃと撫でられる、不思議と悪い気はしない、しばらく撫でられることにした。
「.....美雲、そろそろいいかい?」
「あっ、ごめんなさいね!」
撫でるのをやめられた、少し寂しい。
それが顔に出てたのか美雲さんは小声でまた後で、と言ってくれた。
「突然待ってもらって申し訳ない、10日ほどサハラ砂漠に行く予定があってね」
「狼月会長は多忙でいらっしゃるんですね...」
「まあ、色々とやることがあるからね...あと名字で呼んだら長いだろう、下の名前で構わないよ」
会長の顔は、決意に満ちていて、それでいて少し寂しそうだった。
「さて、学園での生活はどうかな?」
「みんな優しく接してくれますし、不自由もなく伸び伸びと楽しくさせて貰ってます」
会長はそれを聞くと年相応の嬉しそうに、安堵したような顔をした。
「それは良かったよ、突然野獣の群れの中にほっぽり出すような真似をしてしまったからね、平穏そうで何よりだよ」
野獣の群れ、彼等のことを思い返すと確かに野獣の群れかもしれない。
私にとって意外な反応でしかなかった。
生徒の頂点に立つ、ヒトをあまり良く思っていない感じのスピーチをしていたものだから、目の前で自分と対話している人物とは別人に思えた。
「ふふ、意外かな?」
「...意外じゃない、と言えば噓になりますね」
「それはそうだろう、君達ヒトにとって聞いてて心地良話ではないからね、だがきみは由緒正しきこの学園の生徒だ、生徒は皆例外なく僕が導くべき存在だと考えている」
...懐が広いのかよくわからなかったが、生徒である以上この人が敵対することはないと考えてもいいのかもしれない。
「......覚醒はまだまだ遠いだろうね......」
会長がつぶやくと同時に、一瞬彼の瞳が光ったような気がした。
「ん?どうかしました?」
「いや、なんでもないさ、取り敢えず3年間この学園を楽しんでくれ」
「は、はい!」
ずっとあちらのペースだ、相手に会話の主導権を握らせず、有無を言わせない圧倒的なカリスマ性、これが学園の頂に立つ者にして、始祖の転生者と呼ばれる所以。
「では、そろそろ行こうか、凍華、留守の間は頼んだよ」
「おまかせを」
副会長がぺこりと腰を折った、彼女がここまで従順なのも納得できる人間性だ。
「夜城君、なにか困ったことがあれば遠慮なく生徒会を頼ってくれ、美雲はこの後彼女等を森に送ってあげてくれ」
「ありがとうございます」
「りょーかい!任せなさい!」
この後の対応まで完璧だった。
「じゃあ美雲頼むよ」
「はいはーい!」
美雲さんが手をかざすと、床の一部に深く、暗い、底の見えない穴が空いた。
「世界を変えに、行ってくるよ」
「行ってらっしゃいませ」
会長はそこに躊躇なく飛び込んだ、美雲さんが作った穴のようだから危険はないのだろうけど、大丈夫だろうか。
「はい!天音ちゃん傘さして!」
「え?え?」
突然傘を渡され、言われるがままにさしてしまった。
「じゃあ、行ってらっしゃい☆」
「え?」
ふわりと体が浮いた、下を見ると先程会長が飛び込んだ穴が空いていた。
あっという間に私は落ちていき、上を見ると美雲さんが手を振っていた。
「えええええええ!?」
重力に抗うことができず、私はただただ暗闇の中落ちていった。
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