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動物奇譚  作者: 彼方
3/3

タヌキとキツネ

俺はタヌキのポンタ。

いかにもタヌキって感じの名前だろ?

俺はとっても気に入ってるんだ。


体も大きいし声も大きい。

いつか化け狸になるのが夢なんだ。


そんな俺には、憧れている子がいる。

それはクラゲのウミさんだ。


ウミさんはいつも海の中にいるから、滅多に会えない。

だけど、たまに岩場にやってきて、その姿を見せてくれるんだ。



海に濡れた長い髪がたまらないぜ!

透明で夕日に反射して、キラキラ光ってさ。

美しすぎるぜ。

目が合うと、ニコッと笑ってくれるんだ。

可愛すぎて声もかけられねぇよ!

あぁ、ウミさん。今頃何をしてるのかな?


「なぁ、どう思う?」

「はぁ?しらねぇよ」


俺の大親友、キツネのセイレンは寝転がって鼻をほじりながら、心底どうでもよさそうに答える。


「お前なぁ、鼻ほじるなよ」

「鼻くそほじってんだよ」

「一緒のことじゃねーか」


セイレンはむっとした顔をして、鼻に突っ込んでいた指を俺の服で拭いた。


「お前ー!!」

「うるっせぇな、別にいいじゃねぇか」

「何が、どう、良いんだよ!」


はいはい〜ごめんだよ〜と、心にも思ってないだろう謝罪をのべ、間髪入れずに気の抜けるような大きなあくびを一つ。


「なんなんだよ、お前。頼むから俺の話聞いてくれよ。ウミさんの素晴らしさについて語らせてくれよ!」

「1人で勝手にど〜ぞ〜。っていうかあのクラゲ恋人いたでしょ。」


サラリと爆弾を落とす。


「は?え?ウミさんに恋人?」

俺は驚きのあまり素っ頓狂な声をあげる。


「え?結構よく2人でいるとこ見るじゃん、ほら、あの、トナカイ」

「トトトトナカイ!?カナトが!?」

「ちーがうって、本当うるせぇな。弟のほうだよ、あのぶりっ子の。」


トナカイ、カナトの弟。

すぐにカイトの顔が浮かぶ。

大きいクリクリの瞳が可愛い、まるで女の子みたいな男の子。


「なーにいってんだか!カイトだろ?弟って。カイトはまだ子ども、まだ赤ちゃんみたいなもんじゃねーか!」


カイトとウミさんが恋人だなんて、何を馬鹿げたことを言っているんだと笑ってみせる。


しかし、セイレンはキョトンとした顔で俺を見る。

「え。カイトって結構男じゃん」


セイレンは真面目な顔して冗談を言うから、油断できないんだ。


「なにを、言ってんだ」

ははは、と笑ってみせるが声に力が入らない。


「え、何お前、カイトのこと、ただの可愛い可愛いバブバブちゃんくらいに思ってたの?すっげー、あんなのに騙される馬鹿はカナトとクラゲくらいだと思ってたけど」


ぷっ、っとセイレンが吹き出す。

「カイト、なかなかやるなぁ」


「う、うそだぁ」

なんだか涙が出そうだ。


「だはははは!情けねぇ顔!お前本当面白いな」

ゲラゲラと下品に笑うセイレン。

だけど、怒る気にもなれない。


「やっぱり、そんなの嘘だよ。いや、セイレンの勘違いだ」

「勘違いじゃねぇって!カイトこの前クラゲのおっぱい触ってたもん」

セイレンは心底楽しそうに話す。


「ううううウミさんのおっぱい!?」

「いや、あれは触ってたっていうより、揉んでたね」

掴むって言う方が正しいのか、とかぶつぶつ言っているが理解が追いつかない。


「おいおい・・・」

「ぶははは!お前面白すぎる!!あ、写メ撮っちゃお」

そういって遠慮無しにパシャパシャし始めた。


「お前なぁ〜〜」

唇を噛み締めて、恨めしげにセイレンを見る。


「まぁまぁ、別にクラゲに恋人がいたっていいんじゃねぇの。すぐ別れるかもしれねぇし。」

「ウミさんはそんな薄情なお方じゃない」

「・・・何とも複雑怪奇な男心だこと」


セイレンはまた、大きな、気の抜けるようなあくびを一つして鼻をほじり出した。


「・・・」

「俺の部屋で泣かれても困るんだけど」

「・・・まだ泣いてねーし。」

3秒前じゃねぇか、とセイレンが吐き捨てる。


「・・・ウミさん。恋をしてたから、あんなに美しかったのか・・・?」

「お前あんまり自分で自分を追い込むようなこと言いうなよな。マジでめんどくせぇ。」

「・・・」

「・・・なぁそろそろ家帰れば?」

「このっ、薄情者ー!大親友が失恋したかもしれないってのに、優しい言葉をかけてやろうって気持ちはないのか!」


「そんな気持ちにはならねぇなぁ」

セイレンは相変わらずヘラヘラと笑っている。


「でもさ・・・」

「なに」

「ウミさんが・・・幸せなら・・・俺は・・・グスっ」

「ひぇ〜、本当に泣いたよ」


キモキモとセイレンが騒ぐ。

そこまで言う必要ないだろ、馬鹿。


「うぐぅ・・・」

猛烈な切なさが襲う。辛すぎるぜ。

一人じゃ乗り越えていけない。


だから、今日はこのまま泊まっていくことにした。

ごろんと床に寝転がる。

俺が居座ることを察したのか、セイレンが今にも唾を吐きかけそうな、強烈な嫌な顔をした。


ごめんだよ〜と心の中で呟いて、俺はウミさんへの思いを再び話し始めた。

セイレンの大きな大きなため息が聞こえる。

多めに見てくれよ、俺たち親友じゃないか。








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