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君死にたまふことなかれ~戦場を駆けた令嬢は断罪を希望する~  作者: 音無砂月


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43.一寸先は闇

「レン、エリック、ルーは私のスパイとして女王に関する情報を流してくれることに同意してくれたみたいよ。これがその最初の情報よ。読んだら処分するから頭に叩き込んでおいてね」

「・・・・・これは」

「この女王、馬鹿なの。いや、孤児院に来た時から分かってたけど」

ルーがもたらした情報にエリックは言葉を失い、レンは毒舌全開だ。

女王となったシーラが最初に着手しようとしているのはスラムの一掃。

彼女曰く、働くことの素晴らしさを知らないから怠惰に過ごし、その結果貧困に陥る。

自分だって働いたことがないだろうに。

「スラムから人を追い出して、でも働き口に関しては何の支援もしない。こんなのスラムの住人が納得するわけがない」

ルーの報告書を私に返したエリックはこめかみを抑えて深いため息をつく。

「王都の治安は一気に悪くなるでしょうね。民たちの不満や不安は高まるし、その牙は女王や国に向かうことになる。そうなったらあの女王はどうするでしょうね」

「・・・・アイリス様は暴動に発展する可能性を考えているんですか?それに対して女王は力づくで解決する可能性があると?」

レンは思った以上に賢い。

彼に才能があると思って孤児院から引き抜き、まだ教育して一ヶ月ぐらいしか経っていないが私のあげた情報を正確に拾って考えることができるようになった。

女王とレンを見ていると身分なんて何の意味もないように思えてくる。どんなに高い水準の教育を受けようと結局は本人の資質や学ぶ姿勢で如何様にも変化する。

女王の資質や能力はスラム出身のルー、孤児院出身のレンにも劣るだろう。

「さて、この先この国がどう変化していくのかはまだ分からない。未来はいつだって未定さ。でもルーのもたらした情報を全て信じるならこの国は間違いなく荒れるだろうね」

「でも、女王は馬鹿でもその周りの人間まで同じ水準じゃないですよね。こんな無茶苦茶な政策が通るはずがない」

「いや、そうとは限らない」

さすがはエリック。

当主や後継者を失い、急遽当主として立つことになりまだまだ勉強中の身だけどそれでも貴族として生きてきた彼は同じく勉強中のレンよりも貴族というものをよく分かっている。

レンの言っていることは正しい。でも、その正しさを行える人間というのはごく僅かだ。

「馬鹿じゃないけど、狡猾だ。自分の利益になると判断すれば女王の政策に手を貸す」

「メリットなんてないと思いますけど」

「馬鹿な人間が女王であることがメリットなんだよ、レン」

私の補足説明でもレンはまだ理解できないという顔で首を右に傾ける。

まぁ、孤児院出身の彼が分からないのも無理はない。平民の狡猾さと貴族の狡猾さは違う。権力や財力がある分より強欲でより残虐だからな。

レンは当然だけどルーエンブルク家やその関係者を除けば貴族に会ったことはない。会う機会だってない。だから彼は知らないのだ。人を人とも思わない連中が世の中にはいるということを。

「馬鹿な分、適当に合わせておけば自分達の不正には気づかない。気づいたとしても、どうとでも言いくるめられる。適当にごまをすって、適当に誰かを憐れんでいればいい。楽な国主様だ」

「っ」

レンの顔が真っ青になる。

「怖いですね。そんな奴らが俺たちの住む場所を支えているなんて」

「そうだな」

レンの素直な感想に苦笑してしまった。確かにその通りだ。自分達の利益しか頭にない連中が揃っているのなら簡単に人を切り捨てるだろう。いつ、切り捨てられる側になるか分からないような国では安心して暮らすことはできない。

それでも前王はそんな貴族たちを抑えて国を統治した。欲深く、娘に甘いダメな父親だったが、決して無能ではなかったのだ。でも、今の女王に前王のように狡猾な貴族を抑える力はない。

「スラムがどうなろうが、それにより治安が悪化しようが貴族たちは困らない。だって、平民がどうなろうが知ったことではないから。下手に女王に逆らって機嫌を損ねるよりは賛成して、女王の機嫌を取る方がメリットがある。女王の権勢の下、好き勝手できるのなら尚更。ね、貴族って狡猾でしょう」

「そう、ですね」

それに問題はスラムだけではない。

王女の時からエルダに対して否定的な意見の目立つ女王がエルダに対してどう動くか分からない。それにミラン殿下だって使者としてパイデスに訪れた時の彼女の言動には注目していた。

彼の報告を受けたエルダがパイデスを危険視しないわけがない。

国内には武器の商売を主な収入源にしている貴族だっている。戦争が始まれば、武器が飛ぶように売れ、懐は潤う。その欲望を叶えるために彼らが女王を唆さないとは限らないのだ。

「追い出されるであろうスラムの住人はどうする?」

「こちらで全て受け入れるわ」

「マジか。受け入れてどうする?」

「南の地に手付かずの土地があるからそこを開拓するのに使う。女王には私から申し出るわ」

ついでにそれなりに戦えるように訓練させておこう。一朝一夕にはいかないし、実戦で使えるレベルになるには数年単位の期間がいるけど全くのど素人よりかは使えるだろう。

幸いにルーエンブルクの端には魔物がよく出るから狩でもさせてより実践的なことが学べるし。

誰もスラムの人間を私兵に育てようとしているなんて思いもしないだろう。

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