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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

狂信者の民

作者: 田舎のハト

「我らの神が、あなたでよかった。」






 ただでさえ、貧しい、死の淵にいる民でした。

 助けてほしい。誰でも良いから助けて欲しい。



 砂漠の奥深く。貧しい村に自らを「神」と名乗る一人の異邦人がやって来ました。


 神は心が豊かな人でした。

 豊かな心で、民たちへと幸せを運んできました。


 こんな貧しい民にも優しく、親切で、こんな醜い民にも美味しい食べ物を恵んでくださりました。


 民はみんな神を信仰しました。信奉しました。崇めて、奉りました。


 神様は素晴らしい人。

 ああなんて、素晴らしい人。


 この人はきっと私たちの救世主。神様。ああ神様。


 私たちの魂も、運命も、喜びも、幸せも、全て、全て、あなたに捧げます。

 あなたに捧げます。


 村民たちは彼の人のことを村の救世主として、神殿に寝所を用意して住んでいただくことにしました。




 ある日のことでした。

 それは嵐の夜でした。


 光が触れて、砂漠の泉に雷が落ちました。

 貧しい村の民たちは、神殿へ駆け寄り、必死に救世主を守りました。


 我らの神をお守りせねば。

 我らの神をお守りせねば。


 人が壁になって、神を守りました。

 瓦礫に傷ついても、砂嵐に息ができなくても、必死に神様を守りました。



 神は言いました。


「ありがとう。ありがとう。

 きっと子らに、祝福がありますように。

 ああ、ありがとう。」


 民は思いました。


 ああやはり、我らの救世主は美しい。こんなにも、美しい。

 我らの神が、あなたでよかった。





 ある日のことでした。

 遠くの国から使者がやってきて、貧しい村の民たちへと訪ねました。


「ここに罪人がいる」


「我が国で、多くの人間を騙した、恐ろしい詐欺師だ」


「きっと何かの間違いでしょう」民は言いました。


「いいや、明くる日の正午までに罪人を連れて来れなくば、この村の民たちを、1人残らず殺してしまおう」



 民たちは、神様のところへ行きました。


 民たちの話を聞いて、神は動揺しました。

 そんな神の手を取って、「大丈夫ですよ」と民の1人が言いました。




「私たちは知っています。私たちはあなたを信じています。

 私たちは、あなたが本当の神だと知っています。だからどうか、安心してください」




 そう言って、神殿へと1人の娘を連れてきました。



「これはあなた様の身代わりに、明くる日の正午に連れていかれる娘です。あなたの背格好に似せて、あなたと同じ服を着せて、あなたの名を名乗って、明くる日が天に昇ると共に罪人として連れていかれます。だから、あなたはもう、大丈夫です」



「あなたがかの国でどんな罪を犯し、どんな名で呼ばれようとも、私たちにとって、なんの問題もありません」




「なぜ、そこまでしてくれるのか」と神は問いました。




「私たちは長い間、彼の国に虐げられて来ました」


「あなたは私たちの救いです。」民が答えました。



「どうかずっと、我らの神でいてください」



 神は黙って、娘を見つめていました。





 その日の晩のことでした。


 貧しい民たちは、少ない食べ物を持ち寄って、身代わりの少女のために宴を開きました。神様の身代わりに、きっと殺されてしまう少女は、この村で一番美しく、神様に近い娘なのだと、皆にもてはやされました。



「神様が神殿にいらっしゃらないぞ!!」夜明けと共に宴会場にやって来た、一人の民が叫びました。



「どういうことだ!!」



「まさか、彼の国の役人に連れていかれてしまわれたのか?!」


「戦おう!!」


「我らが神のために!!」




 民たちは槍を持ち、剣を持ち、棒を持ち、釜を抱えて、松明を掲げると、村の外へと駆け出しました。



 村の端の砂漠の上に、走り出す人影が見えました。それは民たちの神の姿そのものでした。




「どこに行くのですか!! 我らの神よ!! あなたがいれば、私たちは何も怖くはないのです!! 共に戦いましょう!!」



「わたしは神などではない!!」


 神は叫びました。



「わたしはただの人間だ!! 見当違いだ!! そんなものは不可能だ!!」




 砂漠の砂に足がもつれて、神は倒れました。


 懐から、民の村にあった神殿の金貨と王冠が溢れました。


 砂が肺に入って、咳き込みながら、灼熱の蜃気楼の中に、神の影が立ち上がった時―――。



 一本、また一本と、空から槍が降って、神の身体を貫きました。




 さく、さくり。




 貧しい民たちが、槍に貫かれた神の姿を見下ろし影を作りました。



「神様・・・・・・」


 少女が小さく呟きました。


「なぜ、私たちのことをお見捨てになったのですか・・・・・・?」



「これは本当の神ではなかったのだ」民の一人が言いました。



 かつて神だった男の血に染まった王冠を持ち上げて言いました。





「次の神を探さねば」











(終)

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