第六話-新しい世界-
世界が揺れた。宇宙空間の大移動。星々の流れはいくつもの線を描き、やがて一面の光となって辺りを包む。それはとても長い時間に感じた。
「間もなく! 到着します!」
ケイトの声、その直後、世界が再び闇に包まれる。
それは新しい世界、新しい場所、いや、懐かしい場所へと戻ってきた。闇の中にいくつもの光の点が見える。懐かしい星の配置。オリオン座が見えた。そして視線を動かすと、巨大な星が目に入った。大きな青い星、皆直ぐに理解した。
「地球だ…」
「皆さん、見えますか? あの青い星が地球だそうです。これから大陸を月に下ろします。衝撃に気をつけて!」
ケイトが皆に伝える。数千年の間に、月表面にはいくつものクレーターが出来ている。こちらの大陸も崩れ消えた部分もある。その部分のズレが大きな衝撃を生む。大地震が起こる。海はそのあとに地表に落とされた。大きな塊は津波のように広がり、沿岸部やいくつかの小島を飲み込む。だが、想定内のこと。あらかじめ危険性の高い地域の人々は安全性の高い場所へと避難させてある。
「あとは最後の大仕事だ!」
月と地球の距離は、本来はあり得ないような絶妙な関係で成り立っている。なのに、月が一回り大きくなるのだ。間違いなくバランスが崩れ引力でお互いが引き合い、そして衝突ENDを迎える。だが、天才たちはやってくれた。俺の微かな記憶から正確な数値を、月が帰還した後も地球とバランスが取れる座標を導き出してくれた。あとはその座標に月を動かす。
「最終供給だ!!」
「ラスト、いきまーす!!」
月の移動はさほどの衝撃はなかった。なので、始まったのも終わったのもわからないくらいで拍子抜けだった。
「皆さん、お疲れ様でした。転移終了、成功です!」
星が再び揺れた。今度は人々の歓声で。
「終わった…」
俺はその場に大の字に寝転んだ。
「お疲れだったな。よかったな。ルシエラちゃんとも会えて」
「見てたのか?」
「俺はちょっとで終わったからさ。そしたら隣でお前らが、感動シーンの真っ最中じゃん?」
「うわ~恥ずい~」
思わず顔を覆う。
「でも、終わった」
「ああ…」
バンッ!!
勢いよく扉が開く。
「まだ終わってはいないぞ!」
アグラス様だ。ガルド王の警護にあたっていたのだが…
「さあ仕事だ! 国民の安否確認、街の被害状況と補償の計算、王都が終われば他の街、それが終われば進行の遅い国への支援だ! 忙しくなるぞ!!」
レオンはやっぱりかよと諦めて立ち上がる。
「あーあ、新しい、俺にしか出来ない役割か。しょうがないか~」
ビービー
呼び出し音だ。回線を開くと、ドーガ、カジャ、シンの各王が一斉に現れた。
「どうしたんです?」
「新しい仕事だ」
「お前にしか出来ん」
「地球が俺たちを見ている」
「地球人であるお前が月の代表として地球へ行け! 外交使節団長に任命する!」
月と地球の交流。前途多難。むしろ苦難な道しか想像出来ない。でも、やるだけやってみるさ。彼女たちが転生した時、楽しく生きられる世界にしておかなきゃだ。それが俺の、俺にしか出来ないことだから。




