第五話-大奇跡-
世界中から魔力が集まってくる。救世主ユノの記憶と力はよみがえったが、体はあくまでケイトのまま。成長したとはいえ、やはり力を使いこなすには体力に問題がある。なので、俺が魔力を集めてケイトに補給するサポートを行う。だが、俺もいつまで持つかわからない。
「ケイト、送るぞ!」
「了解。リンク確認。魔力供給開始しました。超転位魔法発動します!」
ケイトが力を発動すると、世界中に光が走った。あの遺跡の時のような光の線が、世界中を覆っていく。規則的なような、不規則なような、不思議なラインだ。
「追加補給開始。第二段階入ります!」
そのラインに沿って世界が割れ、空間が切り離されていく。ふと、街から微かに悲鳴が聞こえる。皆、不安なのだ。
「パニックにならなきゃいいが…」
ここで大きな問題が起きれば、どうなるかはわかりきっている。このまま世界崩壊。THE ENDだ。下手に兵隊を出しても火に油だろう。
「皆、大丈夫だよ」
優しい声がした。聞こえた、というよりは頭の中に入ってきたという感じだ。ケイトのネックレスが光る。アリシアのネックレスだ。ケイトが引き取り身に付けていた、あのネックレスの宝石が光り輝いている。その柔らかな光が街を包み、国を包み、やがて世界を包み込んだ。その光の中、人々は奇跡を体験する。
目の前に会いたいと思っていた人の姿が現れる。それは特定の人ではなく、全ての人に起こった。家族、恋人、亡くなった人、それぞれの大切な人が現れ、皆が繋がっていく。仕組みなど不粋なことは考えまい。また会えた。その事実だけで十分だ。俺もその奇跡を体験する。
「アリシア…」
目の前には、確かに彼女がいた。申し訳なさそうに笑っている。
「ありがとう。私は大丈夫だから。お前はお前で…」
そう言って離れていく。その先にはドーガ王らしき姿が、そしてルティナらしき姿も別の方からやってくる。彼女はこちらを見て手を振る。そして三人はゆっくりと離れていって、そして消えていった…
「あら? 今のが新しい恋人?」
後ろから声がした。その声の主が俺の肩に頭を乗せてしがみつく。懐かしい声が、懐かしい香りが、懐かしいその仕草が、涙を流さずにいられなかった。
「ルシエラ…」
「うん。久しぶり」
「俺は…」
しがみつく腕に触れる。
「頑張ったね。ずっと見てたよ。今、こうして会えて、ちゃんと話が出来てよかったよ」
「後悔、しっぱなしだった。あの時、俺は… だから、もう後悔、しないように…」
「うん。うん。立派だったよ。う~ん、立派じゃない時もあったかな」
「………」
「いいんだよ。それが君らしさだもん。自分の役割ってやつ、ちゃんと見つけられたんだね」
「ルシエラ、俺は… 愛してた」
「私もだよ。聞けてよかった。そろそろ、ほんとにサヨナラだね」
「まだ、見ていてくれるのか?」
「ううん。もう終わり。私も新しい人生に進まなきゃだもん」
「会えるといいな」
「案外、あなたの娘に転生しちゃうかもね」
お互いに握った手がゆっくりと離れていく。ゆっくりと離れ、その姿が薄れ、そして見えなくなった。
世界中の人々の心を繋ぐ奇跡。悲鳴はもう聞こえない。全ての人の心がひとつになった。愛しき人のために、新しい世界へ




