第二話-少女の身柄-
犯罪被害者保護育成法。こちらの世界にも犯罪被害者の救済、そういった取り組みが存在する。手続きはそれほど難しくなく、名前や出自、仮の保護者、どんな被害を受けていたのか、それらを出来るだけ記入する。記入出来る事が多ければ、支援対象事項が増え、手厚さが増すのだ。
「名前か… よし。思いきって改名しようか!」
「え?」
少女は驚く。
「今の名前は父親がくれた唯一の物ではある。だけど、それはきっと君にとっては呪いになる。思い出や記憶を全部捨てろとは言わないけど、名前はたぶんダメだ」
言霊とか、名は体をとか、そういうことではない。もしかしたらあるかもだけど、今回は彼女の精神面の問題なのだ。変わる、変えられる、ということをしっかりわかってもらいたいのである。
「それに…」
「それに?」
「ぜんぜん可愛くない。似合ってない!」
少女は驚いて目を丸くする。そしてだんだん顔が赤くぬる。容姿を誉められたのは初めてなのだろう。
「あ~カーくん口説いてる~」
「ほんとだ~口説いてやがる~」
「や~私も口説かれた~い」
付き添いのケイトとアレク、そしてニアが冷やかしてくる。
「やかましい! 邪魔すんな!」
「お邪魔だって~」
「お邪魔なんだね~」
「さみしい~」
そう言って笑う。少女もつられてクスッと笑った。初めて見る笑顔はとても可愛らしかった。
「ん゛… さて、名前なんだけど」
「もう考えるんでしょ?」
ケイトは察していたようだ。昨夜、手続きの案内書を見ながらいろいろ考えていたのを見られていたのだろう。
「まぁね。例えばアミーはどう? 愛とか友情を表す言葉をもじったんだけど…」
「はい… ありがとうございます」
少女はそう言って微笑んだ。気に入ってもらえてよかった。けっこう頑張って考えたのだ。
「さて、あとは保護者か… やっぱり俺?」
「お前が人の親かよ」
「うっせ!」
「なんか不安…」
「ほごしゃ…」
さすがにこれは考えてなかった。というか、国の方で里親的な紹介があるとばかり思っていた。結局、王様は何も言ってこなかった。
「私だ!」
突然サピエナ様が入ってきた。
「私が保護者になろう。ちょうど後継者を探していた。才能は十分あるのだろ?」
「え? はい、それはもう段違いに」
「なら問題ない。お前は私でいいか?」
「は、はい。たぶん、大丈… 夫?」
サピエナ様は颯爽と手続きを済ませてしまった。
「アミー・カスパー、今日からそれがお前の名前だ」
アミーは心此処に在らずといった顔をしている。
「さて、ではアミーよ、お前の家へ案内しよう。必要な物の買い出しに、部屋も作らねばならん。今日は忙しいぞ?」
サピエナ様は優しい笑顔でそう言うと、アミーと行ってしまった。アミーは何度も振り返り手を振ってくれた。二人の後ろ姿は、何故か安心できた。




