第一話-街道-
港町ルベリア。港町と言っても、大きな湖があり漁船と対岸への舟があるだけだ。しかし、湖すらほとんど無いこの世界では珍しい。
三日月を逆さにして太らせたような大陸ウィンダリア。中央に王都、その南西にルベール湖があり、その西岸にルベリアがある。湖は、大陸南に連なる山脈から流れる川と「上」から落ちてくる滝によって常に水が溢れていて、観光名所となっている。
そこから南に俺たちの村リドルがある。大陸の南西端は森で、そのほぼ中央に世界樹と呼ばれる巨大樹がそびえる。その守護のために村さあると聞いている。
ルベリアまでは真っ直ぐ、馬で半日の距離。途中に湖から流れる河があるが、浅く流れが急なので舟は使えない。近くにある鍾乳洞を利用して地下道を整備し往来している。横穴に逸れなければ問題ない。地下道を抜ければ草原が広がる。亜人はいるが、モンスターなどは存在しない世界。たまに気性の荒い野生動物が襲ってくることもあるが、今や野党もいないこの地域、景色の良い場所もちらほらあり、旅というよりは観光に近い移動になるだろうか。
「え? 洞窟を通るのか!?」
アリシアが青ざめる。閉所&暗所恐怖症らしい。
「ちゃんと整備されてて広いし、光を増幅する魔法が
所々にかけてあるから、思っているより明るいよ」
ソーマが説得を試みる。追っ手と対峙していた時の勇猛さはどこへやら。すっかりビビりモードだ。俺も(かわいいとこもあるんだねぇ)などと思い鼻で笑う。アリシアがそれに気付きギャンギャン噛みついてくる。このままでは先に進めないので、
「そんなに怖いなら寝てろ。一時間もしないで洞窟は抜ける。うちの馬は優秀だから寝てても問題ない!」
と一喝して武器を構える。『寝てろ=気絶させる』だと理解し動きが止まる。そして強制進行させられることと相成った。
洞窟というよりは、まさに地下道といった感じだ。地面は平らに削られ敷石が並べられ荷馬車もスムーズに通れる仕様だ。両脇には側溝が掘られ排水も完璧だ。馬上でランプに火を灯し先へと進むと、その灯に反応して、等間隔に設置された魔法灯が次々と光りだす。横穴は観光用の鍾乳石群や地底湖への脇道以外は鉄格子で塞がれている。細部まで行き届いた作りに、アリシアも恐怖はすっかり消えて、ほほうと感心している。
(2年もかからずにここまで出来るなら最初から…)
久しぶりに通る道の変わり具合を見て、俺は苛立っていた。ソーマがアリシアとなにやら話しているのにもしばらく気づかずにいた。
「それじゃ、襲ってくるとしたらここを抜けた直後が一番可能性が高いんだね。」
そうだ。追っ手が、ルティナという有翼人がいるのだった。村長たちとの別れですっかり頭から抜けていた。俺は洞窟内で仕掛けてくるのでは?と思っていたので意外な言葉だった。
「そうなるな。私は入ってみたら大丈夫だったが、あいつがわざわざ下調べなどするわけがないからな。むしろ「洞窟抜けて一安心~ってなってることに奇襲なんて完璧な作戦過ぎるw」などと考えて、出口付近で昼寝中かもしれんな」
あまりにも似てない物真似に俺は苦笑する。ソーマもはははと声をあげて笑う。アリシアはそんなに笑わなくてもと顔を赤らめ口を尖らせる。笑い声が洞窟内に響き渡る。懐かしさに胸が焼け焦げそうになる。おそらくはソーマも… それを察してか、馬たちも足早になる。
そして30分ほどで洞窟を抜けた。