第五話-天才たち-
引き続き、ウィンダリア城には各国の代表と大賢者たちが集まっている。湖全体を大賢者たちと共に結界で封鎖。敵はもう動くことは出来ない。こちらに余裕が生まれた。
その余裕ですることは、月の帰還。そのための座標の計算である。世界中の古代遺跡の転送装置を解放して、学者連中を集めた。有名人も一般人も、その方面が得意な人間は人種や経歴不問で受け入れた。前代未聞である。それだけのことをしないと正しい数字は導き出せないのだ。いや、それでも正しい数字が出るとはかぎらない。何しろ頼りは大賢者たちの記憶だけだ。誤差の許容範囲は、それこそ天文学的に低い数値だろう。まさに命懸けの、星の命運掛けた計算なのだ。ちょっと知識を持っているだけの俺には、もはや出る幕はない。
「スパコンが欲しいぜ、まったく」
「なんだ?」
「いや、地球の話しです」
通路から研究室の中を覗いていると、いつの間にか隣にサピエナ様がいた。
「それにしても、俺たちだけ楽しんでて、ほんとにいいんですかね…」
研究室の反対側に位置する会議室では、厳かながらも壮行会のような決起集会のような宴会が開催されていた。さすがに酒は少量だが。
「お前さんたちは今まで十分動いてきたし、今からも頑張ってもらわなきゃならん。だからしっかり休んで鋭気を養え」
そう言って背中を叩かれる。
「それにな、世界中で燻っていた天才たちが、やっと自分の出番が来たと目を輝かせているんだ。だから大船に乗ったつもりで待っとれ!」
彼もまたその一人なのだろう。お願いしますと背中に声をかけると、おう!と拳を掲げながら大勢の学者たちの中へと戻っていった。らしくなさに、似合わなさに笑ってしまったが、頼もしい背中たちだ。
「やっと戻ってきたな」
シン王が絡んでくる。酒も入ってないのに、相変わらずの陽気さだ。他の皆もあちこち盛り上がっている。ケイト以外の大賢者も分身体を作りここに集まった。
「なんだよ、つれないな。つか、俺に遠慮しすぎだ。カジャたちみたいに名前で呼べよ。それに、あいつらのためにも、俺たちはしっかり前向いて生きなきゃだぜ」
そうだ。この人も辛くないわけじゃない。簡単に乗り越えられることじゃないんだ。みんな何かは背負っている。自分だけが特別ではない。
「シン」
「なんだ!」
「うざい」
「んなっ!?」
二人で大笑いした。それを見たソーマが、ケイトとアレクが、そしてヴォードが集まってくる。壁がまたひとつ消え、繋がりが強まった気がした。
「ずっる! もう始まってんじゃん」
レオンとアグラス様たちが戻ってきた。念のためにと来城する学者たちの護衛に回っていたのだ。
「たった今、最後の一団でアスタ王を送り届けてきたところだ。占星術の権威であり、星読みとうたわれた天才だ。一気に進むぞ!」
「総隊長、それより俺たちも食べようぜ。さすがに連戦で疲れたっすよ」
修行が足りんぞと小突かれながら、彼らも部下も料理にむさぼりついた。少数ではあったが、向かってくる敵がいたのだ。それは先の戦いの残党だったり、盗賊だったりと様々だったが、かなり疲れたに違いない。
「ああ、そうだ。忘れるとこだった。おい、カルム!」
突然、カジャが俺を呼ぶ。
「これ、使わなかったから返しておくわ」
見覚えのある魔法の箱を手渡される。
「え? 何? 何で…?」
「だから使わなかったんだ! 普通に炎でぶっ飛ばしたからな」
(禁呪の結界を解除魔法無しで? 普通に炎で??)
ニゲルが青ざめて震えだす。そしてチビチビ飲んでいた酒を一気に飲み干した。ロゼクスとルーだけがさも当然と平然としている。その炎と一緒にいて無傷のロゼクスも大概であるのだが。
酔いもすっかり覚め、会はお開きとなった。一同、こいつだけは怒らせてはいけない。そう認識を改めるのであった。




