第四話-アマデウス-
「クソッ! 」
薄暗い洞窟、男がイラついて椅子を蹴り飛ばす。
「全部うまくいっていたのに! 何故だ!?」
男が振り返り、ギロリと睨む。フードを被っていて姿はわからないが、その鋭く光る目だけは確認出来る。その視線の先には若い女性、いや、まだ女の子と言ってもいいくらいの少女がいた。あどけなさの残る顔立ち。赤い瞳にアルビノの髪。髪は整えることが出来ないのだろう。ボサボサで肩の辺りとオデコですっぱり切り揃えられていた。いわゆるおかっぱである。
「ご、ごめんなさい。私が、もっと、もっとちゃんとやれていたら…」
「当たり前だー!!」
酷く怯えながら謝罪する少女を殴り飛ばす。倒れる少女に男は追い打ちをかける。
「お前がっ! お前がっ! ちゃんと情報っ! をっ! 魔力もっ! 続いていればっ!!」
言葉を発する合間、少女を何度も踏みつけるように蹴る。能力は確実に少女が上なのに、完全にいいなりになっていた。男は少女の父親だった。
「ああぁ… すまない。すまないアマデウスよ… お前は一族の最高傑作だ。お前こそが悲願を達成する英雄だ。我ら二人でやりとげよう。終わらせよう…」
「うん、お父さん。頑張るよ。頑張るからね」
感情のこもらぬ声で少女は言った。
少女の一族は、この星を終わらせるという使命を持っている。何か理由があるらしいが、少女は詳しくは聞かせてもらっていなかった。ただ、生まれつき強かった魔力を更に強くするために生きてきた。そうすれば父親が誉めてくれるからと。
祖父母は自分が生まれる前に亡くなったそうだ。母親も物心がついたくらいで亡くなったことになっている。
しかし、少女は知っていた。記憶力がとても強く、赤ん坊の頃の記憶も残っている。母親は、この父親に殺されたのだ。一族の悲願達成のために、ただ子孫を残すべく何処からか連れて来られた女性。強い魔力を持って生まれたことに、すごく喜んでいたことを覚えている。そして『神に愛されし者』という名前を与えられた。子育てがある程度まで終わり、子供が自分でもいろいろ出来るようになったくらいで、余計な知識を与えぬようにと消されたのだった。
それからは二人暮らし。この男に与えられた知識しか持たない彼女は、この男のいいなりになるしかなかった。彼女にとっては、この男が世界そのものなのだ。
「そうだ。焦ることはないのだ。世界の愚か者どもは、我々のことなど忘れてしまった。だから我々の目的も居場所も知る由もないのだ。ただその時を待てばいい。余計なことなどしなくてもよいのだ」
だが、男は自尊心を満たすべく戦争を引き起こそうとした。そして、そのことが自分の存在を知らせることになったし、そのせいで、今まさに居場所が知られることになっていた。先程、男が言ったようにその時まで待っていれば、世界再転移を失敗させて悲願を達成出来たかもしれない。だが、全ては過ぎたこと。終わりが近づいている。




