第七話-旅立ち-
夕べの会話ではっきりわかったこと。俺は救世主ではない。「異世界召喚」なら理由があって喚ばれたはず。それが救世主ではないかという期待と不安があった。しかし、俺ではない。ホッとする反面(じゃあ俺は何でここにいる)という考えが頭から離れない。一晩経ってもすっきりしない。いや、この3年ずっとモヤモヤしたままなのだ。
「自分の人生に意味を与えられるのは自分だけだよ」
ある友人が言った言葉を思い出す。このまま彼女を見送って、これまで通りに生きるのも幸せなのだろう。だが、俺はこの世界の人間ではない。その事実が頭の中で暴れだすことがある。自分に出来ることは何か…
旅の同行を申し出るには十分な理由だった。
「俺も付いて行っていいか?」
一足遅れて見送りに出るや俺はそう言った。
皆がこちらに注目し笑いだす。そして村長が言う。
「やはり聞いてなかったか。どことなく上の空だったからな。昨日、その話をしたはずだぞ。腕は立つとのことだが追っ手もあるし、当然王都までの案内は必要だろうとな。」
ソーマは二人分の荷物をまとめて、馬に乗せていた。言われて見れば、この人たちが女性の一人旅を黙って見送るはずがない。しかし、俺の「付いて行く」はその後のことなのだ。話が切り出しづらくなったなと少し俯くと
「無論、その後も状況次第では付いて行かねばならん。お前たちにその意志があれば、だがな。」
ハッとして村長を見る。村長はこちらをしっかりと見ていた。視線が交わる。互いになんとも言えない表情になる。一瞬だったはずなのに、とても長く感じた。
「息子の旅立ちとは、こんなにも唐突に来てしまうのだな…」
村長がそう呟き、俺の肩に手を置く。奥様も涙を浮かべている。俺のことを息子と呼んでくれる。そして、心中察して旅立ちを促してくれる。厄介払いではありえない優しさが、ひしひしと伝わってきて、俺も泣きそうになるのをこらえた。
いや、ちょっと涙が落ちてしまった。
村長は涙をこらえ、ソーマに「お前も少し一緒に旅して来たらいい」と言うと「考えておく」と笑う。今度はやや呆れ気味の顔になる。おかげで涙はひいた。
「いってきます!」
この3年で一番の感情が乗りまくった一言だった。
三頭の馬と共に三人が旅立つ。街道は真っ直ぐ延びている。徐々に小さくなるこちらの姿を夫妻はいつまでも見送ってくれていた。
現在、午前8時20分。本日快晴。南東の風、風速2メートル。体調も万全。ただ、いつもより強めの日光が目に痛かった。