第五話-策略-
他の場所の映像を確認しながらの遠隔操作。集中しなければ不可能だ。故に隙は出来る。しかし
「残念。隙だらけだけど無防備ではないんだよ」
最初から俺自身は結界で守っている。只の剣は通らない。剣が餌になるだけだった。
「いい太刀筋だけど、その程度じゃあなあ! 俺は死神なんだろ? クソジジイ、お前ごときに神が斬れると思ったかよ!?」
次第に声を荒げる。過剰な魔力供給による高揚だ。策が上手くはまったこともあり、テンションが更に上がっていく。
今までの敵の行動の迅速さから察するに、敵の能力は、俺と同じく瞬間移動で世界各地を飛び回っているか、シルヴァさんのように遠隔で情報収集が出来るかだ。他にも、前提として記憶操作の魔法持ちである。レア魔法の魔力消費量を考えると、さらに強力な魔法を使うと大規模な補給が必ず必要になる。そのような事件などは確認できないとなると、消費魔力の少ない手段、例えば遠隔で音を聞く能力。特定の人物や場所に聞き耳をたてるような魔法。そうアタリをつけて策を練る。声で誤情報を流し、筆談で本当の策を伝える。古典的だが上手くいったわけだ。
「おーい、こっちはあらかた片付いたぜ。残党は任せとけ。危なそうで兵が出せないってよ」
「こちらも大丈夫だ。あとは私にやらせろ。実験したいことが山積みなのだ」
仲間の声に少し落ち着く。まだ大分残っているようだが、自分の補給は十分出来たし、彼らも暴れたくてしょうがないらしい。
「了解した。後は任せる」
遠隔操作のための魔力リンクを解除する。向こうに気を配らないでいい分、脳が休まっていく。そして再度状況を確認し通信を終了させる。再び緊急ブザーが鳴らないことを祈る。
「さて、戦えば死ぬ。逃げても殺す。死にたいならば、このままいればいい。俺への供物にしてやろう。だが、生き延びたいのならば、やるべきことは一つ。俺の欲しい情報を持ってこい! お前たちをここまで連れて来たのは誰だ? お前たちを唆して戦争を起こさせたのは誰だ? 俺を納得させる答えを持ってくるまで、一人ずつ食い殺していく。先ずは一匹」
誰、ということはない。ただ目に入った人間を、隊長以外を一人ずつ消していく作業だ。高まったテンションで、今は罪悪感も少ない。考えたらダメだ。淡々と、一人ずつ…
命乞いをする者、叫びながら武器を振り回す者、呪いの言葉を投げつける者、助かりたい一心で思い付くかぎりの嘘を並べる者、様々だ。何故嘘がわかるか? それはシルヴァさんと回線を繋いでいるからだ。心が読める彼女の力で、真偽の判別をしてもらっているのだ。それを知らない敵には、俺がそういう力を持っていると思うだろう。
「隊長さん、あんたはもちろん知っているんだろ? 部下全員の命よりも重いってのかい? 可哀想に…」
隊長が何か知っている。それはわかったが、何を知っているかまでは読めないそうだ。だから揺さぶる。隊長が自ら話せばそれでよし。しかし、それでも話さないなら…
残っている兵士たちが隊長を見る。恐怖に怯え狂いかけた目に、さすがの隊長も身の危険を悟る。しかし、この閉鎖空間では逃げ場はない。味方に、部下に責め寄られ、傷つけられていく。その後ろから次々に、生き延びたいと集まり襲いかかる部下たち。将棋倒しになり圧死する者もいる。阿鼻叫喚である。隊長だけは死なないように、よきタイミングで守っていた。が、それもここまでだ。既に彼の隊長殿の心は壊れてしまっていた。この状況に耐えられなかったのか、それともマディラのように破壊されたのかはわからなかった。
他の場所も同様、黒幕の情報は得られなかった。しかし、魔力は満たされた。




