第四話-一斉襲撃-
ゼフィス領の端、かつてシンに落とされた穴へとやってきた。理由は特にない。なんとなく、ここに来て少し休みたかった。穴から下を見る。流刑島はなく、遥か下にイグナメリスの黒い大地が見える。大の字になって寝そべり上を見る。光が眩しい。目を閉じて考えを巡らせる。
(箱は残り僅か。当てもなく空を探索するには少なすぎるな。こうして休んでいても減る一方。さて、どうしたものか…)
ビー!ビー!
緊急事態を知らせるブザーが鳴る。ひとつではない。次々と鳴り響き、画面が強制的に開き映像を映し出す。
「こちらイグナメリスのコルだ! なんか敵が攻めてきてる! 軍の連中が、たぶんグルキアって国だって言ってる!」
「サピエナじゃ。来たぞ。あれはセインザリアだな。わざわざ海の向こうからご苦労なことだ」
「おう、シンだ。こっちも来たぜ。身内の反乱軍だ。ガリアナってとこだな。最近ずいぶん大人しくしてると思ったら、これだもんな。んじゃ、予定通り行くぜ!」
「ああ、予定通りだ! コル、そっちの軍も優秀だから安心して構えてな」
「お、おう。なるべく早くこいよ?」
ニヤリと笑って応える。全て予想通り。黒幕さん、うまいこと誘いに乗ってくれたようだ。ありがたく反乱分子の殲滅と魔力補給をさせていただくとしよう。
ルクセリアへと瞬間移動。城門前で出発直前のシンとクラルに出会う。
バチンッ!
二人とハイタッチをしてすれ違う。準備は万端、もはや長々と話すことはない。
「任せた」
「おう!」
それだけ交わし、二人はクラルの魔法で空へと向かって行った。俺は敵を迎え撃つべく、迫り来る影に向かって歩いた。
「全軍止まれー!!」
敵軍が整列して止まる。なるほど、なかなかに統率された部隊だ。全軍で来たのだろうか。予想してたよりもずっと多い数が来た。
「一人迎え撃つとは、もしやお主が死神か? 実力はあるようだが、さすがに我らを前に傲慢が過ぎるぞ!」
死神というのは、俺に付けられた名だろうか? こっちではとんでもない名を付けられたものだ。
「傲慢かどうかは、直ぐにわかるさ。ところで、死ぬ前に聞いておきたいんだけど、君たちは誰に唆されて来たんだい?」
「ほっほっほ。なかなか殊勝な心がけじゃな。知らねば死んでも死にきれんか?」
隊長が笑うのに合わせて部下たちも笑いだす。ほんとに統率された部隊だ。これだけ不快感を与えていただいたら罪悪感も少なくヤれるってもんだ。
「勘違いも甚だしいな。死ぬのはお前たちだ」
仰々《ぎょうぎょう》しく腕を掲げ、それっぽいポーズを取る。そして魔法を発動させ、目の前にいた連中の後方の部隊を飲み込む。今まで訪れた場所には魔力をマーキングしてある。マーキングした場所なら遠隔で魔法を発動させることが出来るようになっていた。瞬間移動魔法の応用で魔力をリンクさせ、感知、通信、攻撃に防御、などほぼ全てが可能になった。しかし、自身の魔力量の少なさと体力的な問題で実行出来なかったのだが、魔法を使うことに身体が慣れたことと、そして今再び大量の魔力を補給したことにより、実行可能になったのだ。
「ウィンダリア索敵開始。目標、発動限界領域内への侵入を確認。殲滅確率97%
イグナメリス索敵開始。目標の侵入確認。87%
攻撃開始!」
遠隔で箱が展開する。箱が一つ発動し敵を飲み込み、還元された魔力を元に二つ目が発動。遠隔でありながら、滞りなく循環している。何の前触れもなく次々と消えていく兵たち。後に消えることになった者たちは、恐怖に狂うことになっただろう。
「くらえ!」
敵兵の隊長は、俺の隙を逃さなかった。鋭い剣閃が俺の首へと振り下ろされる。




