第八話-天界統一-
会談の準備で城内が慌ただしい。あちらとしても、ずいぶん引き伸ばされていたため、王も立場がなかったのだろう。連絡したら、今すぐにでも行くと言われてしまい、おかげでこちらもパニックなのだ。俺たちは、その様子を邪魔にならないように眺めていた。
「ありがとうな。演説、上手なんだな」
「うん。前世の記憶? ちょっとだけ出たみたい」
「昔の救世主は王様にでもなったのか?」
アレクがもらってきた飲み物を俺とケイトに渡す。
「戦後に語部みたいなこと少ししてたみたい。舞台役者の経験もあるみたいだったよ」
救世主にそんな経歴があったとは。歴史に残らぬ人物像が本人?から語られる。ちょっと面白い。
「って、これ酒じゃねーか!」
「来賓に飲ませる酒、味見してくれってさ。俺らは飲めないからよ」
いたずらっ子のように笑う。俺も会談に出席する以上、酒はマズイ気がするが、とてもフルーティーで口当たりがよく、ついつい進んでしまった。しかし、飲み物はともかく料理の準備が大変そうだ。至るところから怒号が飛び交う。宴席の準備とは本来とても下準備が必要なのだ。向こうでバイトで苦労した経験があるので、会場の隅で申し訳なく思い見守るのだった。
夕刻前、ロディエル領の代表たちが到着する。両陣営合わせて総勢150名。名主揃い。天界を統一するための会談が始まった。
のだが議論は難航。ゼフィス側は救世主を新王のように扱い、主権を持とうとする。ロディエル側は当初の予定通りロディエル国の名で統一を果たしたい。なんというか… 私利私欲で国を治めようとした人間を排除しても、国のためにと動けば結局は同じことになってしまう。なんとも皮肉なものだ。
そういえば、シン王が元気がない。一度しか話していないが、本来はガンガン圧していくタイプだろうに、イラついてはいるがずっと黙っている。時間がかかりすぎた上に、主導権がひっくり返される事態。さすがの彼も『黙らさせてしまった』のだろう。目が合うと、恨めしそうに見られた。
コホン
ケイトが咳払いをする。皆が一斉に注目する。
「あの、ちょっとよろしいですか? まず、私、王様とかはやりませんよ?」
右手を挙げて発現するケイト。場内がざわつく。形勢が一気にロディエル側に傾く。
「あと、そちらの王様、ぜんぜん喋ってませんが、傀儡ですか? そんな人が代表の国に全て任せるなんて、私はイヤですよ?」
場内がさらにざわつく。どういうことだ? こちらから別の王を選出か? フィデス副官? さすがにその器ではないと思うが… まさか、統一は無しにする流れか? カルム王!?絶対にあり得ない!
そんな言葉が飛び交う中、シン王が突然笑いだした。
「そうだよな。そうだった。俺ら二人で始めたことじゃねーか。ちょっとミスったくらいで、黙って言いなりになるなんざ、らしくなかったわ。おい、救世主! 俺がドーガの分までキッチリ働いてやる。予定通り俺が天界の王だ。納得いかないならお目付け役にでもなってくれ!」
ケイトの言葉でやる気を取り戻す。周りも、こうなっては止められないと意気消沈だ。しかし
「お断りしま~す」
またもや会場がどよめく。
「ですから、私は国の役職に就くつもりはありません。それに、お目付け役でしたら適役がどちらの陣営にもいらっしゃるじゃありませんか」
ロディエル側のクラルとゼフィス側のフィデス。どちらも『問題あり』と言われていた王たちを制して支えてきた人物だ。
「うむ。たしかにそうだな。この二人なら俺のことをキッチリ支えてくれるだろう。俺はそれで問題ない。むしろ歓迎だ。皆はそれで納得してくれるか?」
救世主の提案であり、力で強制的に言うことを聞かせることも可能な王の提案だ。なにより互いに自国に損失は無いのだ。納得せざるを得ない。
「では、俺の方からひとつ条件というか、提案いいか?」
いったいどんな無理難題をと、代表者たちが息を飲む。すると
「初代の王にはドーガ王を即位させてくれ」
皆が目を丸くする。意外過ぎる言葉だったのだろう。あの時、既にその想いを聞いていた俺だけが各人の反応を見守っていた。
そして、その想いを聞いた人々は全てを納得して受け入れることになった。天界統一、大国家ルクセリアと第2代国王シン・ロディエルの誕生である。




