第六話-ヒーロー-
「悪人たちを滅しなさい!」
その声に反応してケイトが目覚める。いや、目覚めたというより、強制的に起こされ無意識に動かされている感じだ。
「洗脳、か。どうするの?」
「とりあえず止めてみるけど、救世主の力が覚醒してるなら難しいかもねぇ」
言いながらケイトを箱の中に閉じ込める。しかし、軽く触れただけで砕け散ってしまった。
「マジかよ!?」
「足止めにもなってないのう」
「私は戦闘能力皆無ですので」
(ヤバい。マジでどうする?)
一瞬の間の後、アレクが前に出る
「おい、ケイト。迎えに来たぞ」
そう言って手を差しのべる。ケイトも手をのばし、手をとるように見えた。しかし
ドンッ!
魔力の衝撃波で吹っ飛ばされる。いや、吹っ飛んだのは俺たちだけで、アレクはその場に踏ん張っていた。
「おいおい、どんだけ恥ずかしがり屋だよコンチクショウ。くそったれが」
根性で耐えているが一発でボロボロ、おそらく立っているのがやっとではないのか? サポートに入ろうと体勢をたてなおそうとすると、ソーマが止める。
「ケイト、たぶん洗脳は不完全だ。今の、全然本気じゃないし、俺たちを悪人と認識してるかも怪しい」
確かに攻撃もさっきの一発で止まっている。命令に従って攻撃というより、邪魔だから退かしたようなものか。ともすれば、アレクの問いかけに反応して意識が回復するかもしれない。ここは王子様に任せるとしよう。だが、そうなるとマディラへ攻撃するのはマズイ。悪人と認識されて本気の一撃がきたら… だが、先程からヤツの発する汚い言葉が垂れ流しになっている。即刻黙らせたい。
バサッ
おもむろにアレクが破れた上着を脱ぎ捨てる。
「見ろよ。見違えただろ。あの後、けっこう大変だったんだぜ? お互い、まだまだ未熟だな」
「救世主よ! 何をもたもたしているのです! さっさとその悪人たちを…」
「黙れド悪党!!」
マディラが言い終わる前にアレクが一喝した。
「神の名を語って、人の体をいじくって、人を殺せと命令して、お前のがよっぽど悪人だコノヤローが!!」
その叫びに反応してケイトが振り返り、悪人に向かって魔力を撃つ!
ドオオオォォォ…
結界と共に、結界周辺の物が消し飛んだ。唯一残った制御室が落下して崩れる。轟音と土煙が辺りを包む。
音と煙が落ち着くと、ケイトに脱いだ上着を羽織らせて後ろから抱きしめるアレクの姿が現れた。
「アレク… ありがと…」
成長したケイトの声。ああ、目を覚ましたんだ。よかった。皆が思った。
「気にすんな。てか、汚い布でごめんな」
そう言うと、さすがに体力の限界か、ふらついてその場に倒れた。抱かれたまのケイトもいっしょに倒れる。大丈夫かと駆け寄ると、二人とも笑った。俺たちも笑った。よかった。本当によかった…
そして、少しだけアレクに嫉妬したのだった。




