第五話-ケイト・サルバード-
「指、ごめんね」
小隊長たちに別れを告げ王都へ急ぐ。
「結局お前も拷問かよ! って思ったけど、ぜんぜん違うのな。なんか、あんた結構ヤベェのな…」
アレクがそう言ってきた。
「信仰心が強いと、死んでも救いがあるって思ったりして絶対に喋らないんだよ。だから、理不尽なまでの現実を見せて、その信仰が間違いであるとこを叩きつけてやらないと、なんだよね」
「どこでそういうことを学ぶんだ? 恐ろしい男だのぅ…」
「図書館から得た知識だよ」
ドン引きするヴォードさんたちに、そう答える。もちろんそれだけではなかったが…
小隊から得られた情報は、ゼフィス領の王都にある研究施設で『救世主の力を活用するための実験』が行われている。ということだった。実験内容まではわからないが、およそ人道的なものではなさそうだとは感じていたらしい。しかし、場所だけでもわかってよかった。虱潰しに行っては、途中で騒ぎになり逃亡される可能性が高い。
王都の上空へと飛び、研究施設らしき建物を探す。
「あれだ!」
城の隣に、それっぽい建物を発見。入口まで瞬間移動。門番は頭と掌を残して箱で食い千切る。
「指紋認証や虹彩認証の対策だよ。まぁ、最悪、そんな装置ごと消しちゃうけどさ」
と弁明したが、しばらく視線が冷たかった。幸いにも、そんな装置など無く、途中に遭遇した兵も直ぐに黙らせ最奥の重要そうな研究室へとたどり着く。扉の前には見覚えのある人物がいた。ドーガ王の副官フィデスだ。
「お待ちしておりました。こちらへ」
フィデスが俺たちを中へと通す。
「待っていたってどーゆーことだよ!」
アレクが今にも殴りかかりそうだ。ヴォードさんが肩を抑え、俺が前に出てそれを止める。
「大丈夫。たぶん、この人は信用出来る」
「私としては、貴方が信用出来るかが賭けなんですけどね」
耳が痛い。ドーガ王の死期を早めたのは間違いなく俺なのだ。あの事件のおかげで俺は能力を得たし、世界の危機を知り動くことが出来たが、俺がいなければ全て順調に進んでいたかもしれないのだ。
「シン・ロディエル候の出した1ヶ月という期間は、長いようで短かった。救世主に力が備わっていないことを知ると、強硬派が研究中だった実験の実用化を提言しました。状況が状況なだけに保守派も押し切られてしまった。私は施設責任者として、安全第一という理由で大分遅らせたのですが…」
扉の奥には大きな水槽のような物があった。俺が入ったモノにどことなく似ている。中には見知らぬ女性が入っていた。黒くて長い髪、年齢は20代だろうか…
いや、なんとなく誰かに似ている。その誰か、を理解して皆が絶句した。
「ケイト・サルバード、これが現在の姿です」
皆、理解が追い付かない。俺だけが冷静に状況を理解していた。
「無理矢理に肉体を成長させ、潜在魔力を引き出す。短期間に強力な兵士を量産する新技術です。成長後の精神状態が不安定で生存率が低い。もちろんドーガ王は反対していました。しかし、実権を握ったマディラが…」
「私がどうかしましたか?」
室内に音声が響く。ケイトの浮かぶ水槽の奥、二階の制御室にマディラはいた。実験失敗の時の対策のためだろう、部屋は強力な魔力で覆われていて、俺の箱も弾かれた。
「おいおい、あいつ禁呪使えるのか?」
「いえ、そんなはずは…」
「さて、ロディエルの手先と仲良く一緒にいるということは、裏切り者で確定ですね。ヴォード氏もやはり有罪でしたね。では、試験運用も兼ねて処刑を執行いたします」
ズゾ… ゴゴゴコココ…
水槽内の溶液が排水され、成長したケイトの肉体が露になる。
「てめえっ!」
アレクが腕から銃弾を放つが、やはり弾かれる。
「さあ、救世主ケイトよ。神の名のもとに、その悪人たちを滅しなさい!」




