第四話-救世主奪還作戦-
具体的に何をどうされているかはわからない。しかし、ケイト自身の精神や魔力が弱まっていっているのが、はっきりと感じられるらしい。もとより、次の予定としてもケイト救出を優先ではあったのだが、一刻の猶予もないことが判明したわけだ。
「私は行動範囲に制約があるから、この森の外には出られない。全部任せちゃうけど大丈夫?」
「もちろんだ。任せろ!」
俺が答える前に、むしろシルヴァさんが言い終わる前にアレクが勇ましく答える。
(ルクセリアまで最短最速で箱二つ分ってとこかな。体もなんとか慣れてきたし、いけるだろ)
「三人とも、しっかり掴まっておけよ! 途中で離れて落ちても助けには行けないぞ!」
「ああ!」
と答える中、ヴォードさんが一人青ざめた。あてもなく落ちる恐怖を知る者同士、ヴォードさんはこちらからもしっかり掴んであげようと思った。
「警戒されてて、迎撃の準備をしてるかもしれない。飛びながら防御はまだ出来ないから気をつけて!」
大陸の端が見えた。少し離れた上空に瞬間移動して上から様子を伺う。哨戒の兵士らしき数人だけ。うち一人がこちらに気付き、驚いている。伏兵はいなそうだ。
「確保!」「飛ばすぞ!」
ソーマの指示に合わせて俺も叫ぶ。哨戒兵の後ろに瞬間移動。ヴォードが鳩尾に一発、首に手刀と敵を落とし、アレクが右手で強烈な一撃を放ち、左手は体から離れ、腕と体を繋いでいるワイヤーで敵を縛る。
(有線式ロケットパンチかよ…)
そんなことを考えている俺の横ではソーマが華麗に峰打ちで沈めていく。敵は何が起こったか気付く間も無く捕縛された。
「おい! ケイトは!救世主は何処だ! さっさと吐きやがれ!」
アレクがそう叫びながら、ワイヤーを締める。だが、敵は歯を食い縛り語ろうとはしない。
「クソがっ! だったら言いたくなるまで拷問でもなんでもやってやるよ!!」
そう叫ぶアレクの肩をポンと叩いて落ち着かせる。
「無駄だよ。信仰でまとまった兵ってのは決して味方を裏切らない。神は絶対なんだ。お前もいろいろ仕込まれているんだろうけど、普通の拷問では無理だ。それに、手を汚すのは俺で十分だ。お前はお姫様を助ける王子様役だからな」
そう言いながら、この小隊の隊長格であろう兵士の前にしゃがみこむ。
「あんた、この隊の隊長さんだよな? 隊長格なら、少しは情報、持ってるよなぁ… 安心していいよ。部下には何もしない」
無表情で語りかける。そして、箱を展開して兵士たちを逃げられぬようにした上で縛っていたワイヤーを外させる。
「隊長さん、その右手の小指、見てごらん」
その指を小さな箱がいくつも覆っていた。そして静かにゆっくり様々な方向へ回転する。声にならない悲鳴。見たことも聞いたこともない攻撃。理解出来ない恐怖が敵兵を襲う。指は繋がったままだがぐちゃぐちゃになった。
「隊長さん、その右手の薬指、見てごらん」
「そういえば、君たちの信仰する神様は救世主を使わした唯一神で、君たちのことを見守ってくれてるんだよね? 信仰が足りなかったのかな? ほら、右手の親指、見てごらん」
パニックになり逃げる部下たち。しかし、見えない壁に阻まれる。そして、その壁が徐々に動き出し、こちらに引き戻される。箱を小さくしていっているのだ。
「不思議なこともあるもんだ。神様の起こした奇跡かな? 何しろ、救世主様にあんなことしてるんだから、これはしょうがないよね~」
小隊長の表情が変わり、今までとは違う汗が落ちる。やはり何か知っている。
「神は全てを知っている。そして背信を許さない。君がこういう目にあっているということは、きっとそういうことなんだろう。全てはなかったことになる。君の信仰も、存在すらも。それだけだ。ほら、左手の人差し指を見てごらん」
「違う! 背信などではない! 私たちは神の!」
「でも、神様はそう思ってないってよ」
箱が一気に狭まり10人ギリギリの大きさになる。それでもまだ小さくなっていく。
「君たちの信仰や行動は他人から命令されたもの。しかも、実は神の意に反するもの。神が望んだものじゃない。知ってるかい? 神様って意外と短気なんだよ?」
沈黙が続く…
「それじゃ、お別れだね。サヨウナラ」




