第七話-世界の敵-
見かねたソーマが話をしてくれる。俺が上に行ってからの、ここの話を…
遺跡にて、俺たちを上に送った直後、ルティナの魔力が暴走爆発した。アレクは終わったなと覚悟したが、アリシアが最後の力を振り絞り守ってくれたそうだ。目覚めた時には、アリシアとルティナの姿はなく、傍らに壊れた彼女のペンダントが転がっていた。そして、アレクもまた右手と両足を失い、臓器もあちこち酷く損傷していた。それをアレクの父チョーマさんと魔法長たちが遺跡研究から得たオーバーテクノロジーの技術を駆使して、サイボーグとして延命させたのだ。よく見れば、重装備かと思われたアレクの姿はそうではなく、体そのものが機械となっていた。実はチョーマさんは、その能力が認められ、遺跡の探索とそこで発見された技術を実用化すべく魔法長たちと研究していたそうだ。遺跡の改修とアレクのリハビリが終わる頃、ヴォードさんが戻ってきた。上であった事件と、自分が追放されたこと、それが原因で怪我を負い、今まで入院していたことを伝える。その後、村長が無事であったことを確認し、村長危篤の噂を修正して回っていたソーマが合流する。その頃には上の話が中層でも噂になっていた。ケイト奪還とカルム救出のために作戦を練っていた時、さらに悪い噂が下からやってくる。
「天界の王を殺した男が、今度は魔界の国を二つ滅ぼした。次は地界が狙われるに違いない!」
「それで、地界の各国がちょっとピリピリしていたんだよね。ほんと、タイミングばっちりに登場するなんてね」
ソーマは呆れ笑いだ。それにしても疑問が残る。というか疑問しかない。何故気付いていない?
「気になったんだけど、その噂を流したのって誰?」
全員がハッとする。
「そういえば、誰から聞いたんだっけ…」
「あれ? 客から… か?」
「誰から報告を受けた? 思い出せん」
「じゃあ、俺が今日ここに来るってなんでわかったの?」
全員が凍りつく。どうしてなのかは誰も知らない。なのに誰もが知っていた。後に街の人々にも確認したが、やはり『いつの間にか知っていた』らしい。これではっきりした。記憶の改竄が行われた。星の崩壊の他にも救世主再誕の原因がいるようだ。そいつが、もしくはそいつらがこの星を確実に崩壊させようとしているのかもしれない。
「なんか嬉しそうだね?」
ソーマが言う。そう、俺は嬉しいのだ。この力を使えるのが、国中の人間の記憶を操作出来るほどの強大な力と戦えることが。
「どうやら、俺は力に魅いられてしまったらしい」
自嘲気味に笑う俺に呆れ、頬に拳を当ててくる。
「堕ちそうになったら目を覚まさせてやるよ」
と言うソーマ。脳が先ほどの激痛を思い出させる。全身に悪寒が走り、冷や汗がどっと出る。もはやトラウマだ。その様子を見て皆が笑う。
もう取り戻せないものがあるとわかった。それは絶望だった。しかし、まだ立ち止まるわけにはいかない。この皆の笑顔が希望になった。




