第六話-説得-
「それから、また空間属性の転移魔法を使って、ここまで帰って来ました。ちなみに、この映像も私の魔法によるものです」
一通り説明を終えると、皆にわかには信じがたいという感じだった。それはそうだろう。何しろ、月や地球といったモノすら聞いたことがない。その上、この星が滅びるというのだ。とんだ終末思想の宣教師だ。直ぐ様、問答無用の逮捕で然るべきである。しかし、これは事実だし、信じてもらうまで説得を続けるなんて悠長にはしていられない。
「信じる信じないは自由ですが、これは事実。いずれ、下からも使者が来るでしょう。私は次もあるので、お願いだけでも聞いてもらえると助かるのですが?」
「ふう… 次から次へと… お願いとは何だ? 言うだけ言ってみろ」
さすがのガルド王も話しについていくのがやっとで心労が一気に溜まったようだ。いや、ついてこれているのかも微妙だろう。だが、これは必要なことだ。申し訳ないがもう少し頑張っていただこう。
「王立魔法図書館へ入らせていただきたいのです」
王立魔法図書館、この世界最大の魔法書や歴史書が保管してある施設だ。オフェロニス王の記憶のように『ここでしか確認出来ない』魔法や歴史もあるはずだ。これから事を成すにあたって、ここの知識は必要不可欠だと思ったのだ。だが
「それは無理だろう。だから、お前は今、国際指名手配犯なんだって」
やはりそういう返事になる。しかし、
「王よ、今や私は、許可を頂かなくても簡単に侵入することが可能です。誰にも気付かれずに、誰にも邪魔されずに、もしくは立ちはだかる障害は全て排除して。ですが、そうはしたくない。私は救世主の片腕として、貴方の信頼により入国したい。しなければならない」
「つまり、お前の無実を俺が代弁しろということか? 世界中に向けて。まったく、一歩間違えば、この国の立場が危ういのだぞ?」
王は深いため息をついて、うんざりしたように話す。しかし、顔は少し嬉しそうにも見える。
「私を使命手配している上は内乱中。下は意外にも友好的。ならば、あとは王の采配次第で他の国の動きも変わるのでは?」
「世界の意思は俺の掌の上か? ははは、面白い! 騙されたと思って乗ってやるか!」
兵士たちがどよめく。動揺を隠せない。が、王が一喝する。
「狼狽えるな! そもそも、我が国の民を勝手に犯罪者扱いするヤツらなんぞ、最初から信用しておらんわ! どうせ上の救世主を手中にするための方便だ。動くに動けなくてもどかしく思っておった所だ。カルム、全面的に手を貸してやる。此処に来い!」
どうやら王、は元々上に不信感を持っていたようだ。しかし、全面的に協力とはなんとも心強い。兵士たちも覚悟を決めて整列し、敬礼して城までの道を作る。街の人々はまだ不安そうだが、王の言葉には感銘を受けたようだ。実は、先程の映像は街の各所にも流していたのだ。
王の間へと到着すると、王はどこか楽しそうな顔をしていた。
「よく来たな。さて、他に聞きたいこともあるだろうが、先ずはこいつらの話を聞いてやってくれ」
ドッグワッシャーン!!
次の瞬間、俺は広い部屋の端まで吹っ飛んだ。壁に激突し、意識が朦朧とする。顔面から血が滴り落ちている。何かに殴り飛ばされた? 両頬の感覚がまったく無い。
「さっさと起きろよ」
「まだ終わりじゃねーぞ!」
懐かしい声がする。片方は聞きなれた声だ。
「ぉーあ…」
頬が腫れすぎて発音がままならない。痛みも出てきた。というか、激痛だ! ほんとに手加減無しの全力で殴られたようだ。王の笑い声が聞こえる。魔法兵に回復してもらうまでの数分間、俺は心身ともに地獄の痛みを味わうことになった。
「ソーマ! アレク! それにヴォードさん!」
しかめっ面の二人の後ろに、申し訳なさそうにヴォードさんが立っていた。
(二人を止められなかったからだろうか。いや、そもそもどうしてここに? てか、アレクが生きてる!?
じゃあ…)
希望に満ちた目でアレクを見ていたのだろう。しかし、アレクは表情そのままに顔を背けた。それで察してしまった。言葉を失ってしまう…




